上 下
52 / 201

第52話【研修生は料理人?】

しおりを挟む
「ふむ。
 とりあえず我がギルドには収納スキル持ちは3人ほど居るようだな……。
 すまないがすぐにこの3人を呼んで来てくれないか?」

「わかりました。
 少しお待ちください」

 指示を受けた職員はすぐに部屋から出て指定された3人を集めてくれた。

「どのような用件でしょうか?」

 集められた3人には特に説明もなくギルマスが呼んでいるとだけ伝えられていたらしく何故自分達が呼ばれたのか分からないでいた。

「ああ、仕事中に集まってもらってすまない。
 実は王都のギルドマスターからの依頼でこの度カード収納スキルを持つ者の研修を行うことになった。
 そこで各ギルドから最低一人、メンバーを選出して欲しいとの依頼だ。
 我がギルドではここに集まって貰った3名がその条件にあてはまるのだが誰か研修を受けても良い者は居るか?」

 突然の事に呼ばれた3名は動揺した表情でお互いの顔を見る。

「その研修の内容を教えて貰えますか?」

 呼ばれたメンバーのひとりが手を挙げてマグナムに問いかける。

「わたし自身も詳しい話はまだ聞いていないのだが、この書類によると研修場所はロギナスで研修期間は約1年。
 研修期間中の生活は保証されるが報酬は決められた金額となる。
 研修後は試験があり、合格すれば各ギルドの新しい部門の長として元のギルド勤務とするそうだ。
 今の時点ではそれ以上の事は書かれていないな」

「……1年ですか。
 それなりの長さですが合格さえすれば出世は間違いないですね」

 ひとりがそう言うと別の者が意見を言う。

「これって『カード収納スキル』を持っていればもうひとつのスキルは何でも良いのですよね?」

「ああ、3人ともサブスキルがカード収納スキルだろうがメインスキルが特定のものでなければならないとは書いていないから大丈夫だろう」

 マグナムはそう言って3人のスキル構成を確認して渋い顔をした。

「なんだ、ジグマとラミリアは替えの効かないスキル持ちじゃないか。
 悪いがお前たちは駄目だ。
 お前たちのどちらが行ってもこのギルド業務に支障が出ることになる。
 新たな部門の責任者の席は魅力的かもしれんがお前たちならばすぐに今の部門の長になれるだろう。
 となると……アーファ。
 君のメインスキルは調理だからまだ替えはきく部門だ、せっかくのチャンスだから行って貰えるか?」

「えっ?
 あの、その……」

 アーファと呼ばれた女性は自分が選ばれたことに激しく動揺してうまく返事を返せない。

「ちぇっ、俺が行きたかったんだけどな。
 こんなクズみたいなスキルをどうやって使えるようにするのか興味があったけど訳の分からない新部門よりも今の部門で出世したほうが確実だし今回は譲ってやるさ」

 ジグマと呼ばれた青年はそう言ってパタパタと手を振る。

「まあ、ジグマの言うことも確かね。
 せっかく今まで頑張ってきた部門を蹴ってどうなるか分からない部門の長になるなんてリスクは私には合いそうもないわ。
 アーファはそういったしがらみも無いでしょうから丁度いいかもしれないわね。
 ま、せいぜい頑張ってね」

 ラミリアと呼ばれた女性もジグマと同様に要請を辞退する事を選択する。

「ならばアーファ一択だな。
 すまないが宜しく頼んだぞ」

 ギルマスのマグナムまでもアーファ本人の意思確認をしないまま決定事項として話し出した。

「アーファさん、宜しいですか?」

 エルガー斡旋ギルドの人事に外部の僕が出来ることはそう聞くことだけだった。

「……はい。
 でも、本当に私なんかで大丈夫なんでしょうか?
 確かにサブスキルにカード収納は持ってますが、使えないスキルだと言われてレベルも1のままですよ?
 実際のところ調理しか出来ない何処にでもいるただの料理人ですよ?」

「いえいえ、それで十分ですので一緒に頑張りましょう。
 宜しくお願いしますね」

 僕はそう言って彼女に笑いかけた。

「よし、ならばアーファは今日はもう帰っていいから明日までに準備をしてロギナス行きの馬車に同乗させてもらえ」

「ええっ!?
 ちょっとそれは難しくないですか?
 もうすぐ夕の鐘がなる頃だし、引っ越しだってそうすぐに出来るものじゃないですよね?」

 マグナムの言葉に僕が驚いてそう聞くと『なんだそんな事か』とばかりにため息をついて説明してくれた。

「アーファはこのギルドに住み込みで働いている料理人なんだよ。
 だから荷物も全てギルドに併設されている寮部屋にあるし、そのほとんどはギルドからの貸し出し品だから引っ越しの準備くらい数時間あれば十分出来る」

 僕はそう言うマグナムからアーファを見ると小さな声で「はい」と答える。

「わかりました。
 では明日の朝、ギルド前の広場に集合してください」

「はい。わかりました」

 彼女のために別の馬車を準備するのが面倒なのか、いきなりの異動を言い渡してマグナムは執務室へジグマとラミリアも各自の持ち場へと解散していった。

   *   *   *

 ――次の日の朝、ギルド前の広場でノエルと一緒にアーファを待っているとなぜかマリアーナがお供を連れて現れた。

「あれ?
 マリアーナさんじゃないですか?
 どうかされましたか?」

「どうかされましたか? じゃないわよ。
 前回別れる時に『帰りにも寄りなさい』と言ったはずですよね?
 どうして昨夜はノエルしか来なかったのですか!?」

 現れたマリアーナは何故か激おこモードだった。

「えっ?
 どうしてもなにも呼ばれてないのに行くのはおかしくないですか?」

 僕の言葉にマリアーナは側にいたノエルに対して詰め寄った。

「のーえーるー。
 あなた昨日は確かに彼に来るように伝えたけど、どうしても外せない用事があるから来られないって言ったわよね?
 あれはどういうことなの?」

 まくし立てるマリアーナに涼しい顔でノエルが答える。

「そんなの嘘に決まってますわ。
 あなたのところにミナトさんを連れて行ったら絶対に好きになって私から奪おうとするに決まってますから絶対阻止で対応させて貰っただけですわ」

「きいいっ!
 あなたって人は普段から人の良さそうな顔をしておきながらそんな度量の狭い女だったのですね!」

 マリアーナはそう言うと口惜しそうにノエルをにらんだ。

「ま、まあそのくらいで……。
 えっとマリアーナさん?
 次にエルガーに来たときは是非話をしてみたいと思いますのでその時は宜しくお願いしますね」

 僕の社交辞令にマリアーナの表情が一変して「是非ともそうしてくださいね」と言ってその場は収めてくれた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...