エスとオー

ケイ・ナック

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三十路女の誘惑

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オレは東海方面からの配送から帰社し、伝票を事務所に持っていった。

事務所には鈴木さん以外には誰もいず、いつもと違って静かだった。

鈴木さんはちょうど、コンパクトを持って化粧を直しているところだった。

「お疲れさま。今日はえらい早かったやん」
と言って伝票を受け取り、オレをねぎらってくれた。

そして立ち上がり、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出してオレにくれた。

「誰もいないから特別にこれあげるわ」
と言った。

珍しいこともあるもんやな、と思ったけど、オレは特に何も言わなかった。

缶コーヒーを受け取る時、ほのかに甘い香水の香りがした。

鈴木さんは身だしなみを綺麗に整えていて、いつも通り、色気を発散させていた。

そして、
「これ、明日の予定表よ」
と言って、一枚の紙をオレに手渡した。

予定表をもらう時、鈴木さんは左手でオレの腕にそっと触れた。

一瞬、オレはドキッとしたけど、
「了解です」
と言って、素知らぬふりをして紙を受け取った。

そして、事務所のドアを開けて出て行った。




そういえば、ここんとこ、鈴木さんは良くオレに触れてくる。

時には腕だったり、時には肩だったり。

単なる偶然だろうか、それとも何か思惑おもわくのあるボディタッチなのか。

気のせいなのかもしれないけど、誰もいない時、鈴木さんのオレを見る目が少し違うような気がする。

みょうつやっぽく微笑ほほえんでくる。

事務的な笑顔とは、とても思えない。

鈴木さんは結婚していて、旦那さんも子供もいるんだけど、それにしては主婦らしさは全然見られない。

旦那さんとは、うまくいっていないのだろうか。

もちろん、それは夜のいとなみもふくめてのことなのだが。





ある日、会社の休憩室でタバコを吸っていた時、休憩室のドアが開いて鈴木さんが入ってきた。

「あら、中村くん、今日はえらいひまそうやね」
と言って椅子いすに座った。

オレは、
「引き取り先の荷物がまだ梱包こんぽうされていないので、今は連絡待ちなんです」
と言った。

「ああそうなんやね。 あたしも今日は暇でねぇ」

休憩室にはオレと鈴木さんの二人きり。

会話が止まり、ちょっと気まずい雰囲気になりそうだなと思った時、
「それはそうと、中村くん、今度、京都にでも遊びに行かへん?」
と鈴木さんが言った。

「え? 京都? ええと、そ、そうですねぇ。でも京都に何かあるんですか?」
と、オレはあせりながら答えた。

「別に何もあらへんけど、ちょっとどうかなって思ってね」
鈴木さんは艶っぽい笑顔でそう言い、
「まあ、考えといて」
と言って、休憩室から出て行った。

休憩室には、鈴木さんの甘いのこただよっていた。

オレは背中にじっとりと汗をかいた。

これは完全に誘われているのだと思った。


オレの頭の中には、ビリー・ジョエルの「PRESSUREプレッシャー」が流れてきた。

気がつくと、タバコのフィルターがげていた。




「え!? 王崎が仕事中に怪我けがをしたって?」

突然の電話にオレは驚いた。

「それで容態はどうなんや?」

ここんとこ、お互いに仕事が忙しくて、しばらく連絡を取っていなかったけど、王崎の彼女、ユキがオレの職場に電話を入れてくれた。

「入院になったんよ。中村くん、とにかくすぐに来て」
と、切羽せっぱつまった様子でユキが言った。

ユキの話だと、王崎は重い材木をかついでいて、腰を痛めたとのことだった。

「わかった。もうすぐ仕事が終わるから、あとですぐに行くわ」

オレは仕事が終わると、タクトを飛ばして、ユキが教えてくれた病院に向かった。

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