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山崩れ
しおりを挟む雨が降りやまず、とうとう橋は通行止めになった。
川が増水して、危険水位になっていた。
対岸に渡ろうとしていたドライバーたちは、みな山沿いの道に向かい始めた。
「橋が通れなくなったか。これでは弟の家には行けまい。仕方ないな、山を迂回して行くとするか」
そう言って老人は山の方向に車を走らせた。
老人の車のあとを、何台もの車が続いて行った。
その中に、マーケットの買い物袋を後部座席に置いた、若い母親のミニバンもあった。
「山を迂回したら、一時間もよけいにかかってしまうわ。ビリーはフィッシュ&チップスを楽しみにしてるのに!」
若い母親は舌打ちをして、電子タバコを窓から放り投げた。
老人の車を先頭にして、のろのろとあとに車が続いて行く。
雨の中、老人の運転は慎重だった。
それがよけいに被害を拡大させた。
山沿いの道に車が連なった時、強い雨の音に混じって、何かの発破音がした。
それは、一度きりではなく、こだまのように何度も響いていった。
それを合図のように、山は大きく形を変えていった。
山は轟音をたてながら崩れていった。
雨水を大量に含んだ山は、爆薬によって、容易に崩壊したのだった。
老人の車を先頭にして、山のふもとを走っていた車は、土砂の波に押し流されて見えなくなった。
山は半壊し、道路は姿を消した。
そして、もうもうと土煙が上がった。
土煙の中、何もなかったように、雨音だけが響いていた。
この光景を、安全な場所から数人のウォーカーが見ていた。
「これはすごい。大成功じゃないか」
ウォーカーは放心状態になっていた。
「あぁ、まったくだ。オレはまだ震えが止まらないぜ」
ひとりのウォーカーは涙を流していた。
「やっとこれで、親父の仇を討てた気分だ」
そして、安堵の表情を浮かべて、
「これでまた、オレたちの力を証明できたな」
と言った。
土煙が、あたり一面に漂い、濁ったような臭いが充満していた。
ウォーカーたちは、しばらく無言で佇んでいたが、
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そう言って、崩れた山から離れていった。
雨は、相変わらず降っていたが、少しずつ小降りになっていた。
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