糸魚川さんと雨宿り

ひとまる

文字の大きさ
上 下
5 / 5

5. 糸魚川さんと雨宿り

しおりを挟む



「遥君…」



「ん…っ、もう、来て…」





ベッドの上で重なり合い、性急に繋がった。余裕が無さそうに腰を打ち付けてくる糸魚川さんが愛おしくて、頬を伝って流れ落ちる汗に口付ける。



想いが通じ合うって、こんなにも違うものか。お互いの体温が混ざり合って、弾けて、愛おしさで狂ってしまいそうだ。



身体の至る所に紅い華を咲かせていく糸魚川さんに、まるで所有印を付けられている様で嬉しくなる。お返しにと、俺も糸魚川さんの胸元に吸い付くが、上手く跡は付かなかった。くすぐったそうに糸魚川さんが笑った。





「もっと、強く吸って、そう、上手」





教えて貰いながら、吸い付くと、糸魚川さんの胸元に真っ赤な華が咲いた。初めて付ける、俺の印。糸魚川さんが俺に印を付けたがる理由が何となく分かった気がした。



「糸魚川さんに、俺の印、ついたね」



嬉しくなって、胸元の紅い印を撫でながら糸魚川さんに微笑むと、



「…っ!!もう、煽るのが上手ですね」



「ええ!?」



何故か糸魚川さんに火をつけてしまった様で、彼の瞳にまた熱が灯ったのが分かった。





「ああっ──」





お互いに熱を吐き出し合ってそれでもまだ足りなくて。何回も欲しくなる。やっと満たされた時には、夜が更けて、更に薄ら朝陽が昇りかけていた。





横ですやすやと眠る糸魚川さんに目を細めて、その綺麗な顔に似合わない無精ひげをそっと撫でた。









◆◆◆









「い、糸魚川さん、どういうこと?」



「え?遥君、俺が遥君を苦しめた男をそのまま見逃すと思った?」





糸魚川さんと思が通じ合った時に、恭平さんにあの日ホテルに連れ込まれた事は伝えておいた。そしたらとんでもない位に心配してくれて、強制的にほぼ同棲状態の蜜月を過ごす事になってしまった。



恭平さんにあの後も付きまとわれ、執着されることを怖れていたんだけど、あれ以来ぱったり姿を見なくて不思議に思っていた所、兄の傑からとんでもない知らせが来た。



地元の恭平さんの勤め先で彼の不祥事が発覚し、今の地位から降格、地方の支社に飛ばされたとのこと。地元からも、ここからも飛行機が無いと行けない距離の支社で、恭平さんと会うことも無い物理的な距離ができたことにほっと胸を撫で下ろした。



でも突然、何故!?と思っていたところに、機嫌良さそうな糸魚川さんが目に入り、まさかと思い問いただしてみると…





「僕ね、バーテンダーしてるので、色々な繋がりがあるんです。あの男は当分姿も現せないでしょうね。まあ、遥君に何かするようなら、僕が手を下すので、遥君は安心してくださいね」





なんて、すっごい悪い笑顔を見せる糸魚川さんは、絶対に敵に回してはいけないと思った。





「遥君は僕だけ見ててくれればいいですからね」



「なっ!もう、糸魚川さんは心配し過ぎなんだよっ!」





過保護だと思っていた糸魚川さんは、心配性でヤキモチ妬きで。甘々に甘やかされて、俺はもう糸魚川さんに堕ちて、毒されて、糸魚川さん以外は眼中にないのに。





「遥君は自分の評価をもっと上げた方がいいですよ。君は魅力的で、僕はいつも心配が尽きません」



「そんなこと言ったら糸魚川さんなんて、すっごいモテそうだし!俺の方が心配なんだからね!」





俺が少し拗ねると、糸魚川さんがふっと笑った。その大人っぽい表情にもドキドキしてしまい、何だか負けた気になった。





「やっぱり…遥君には敵わないなぁ…」





思いもよらない糸魚川さんの言葉に俺はぽかんとした表情になってしまう。どう考えたって俺の方が劣勢な気がするのに。目を細めて糸魚川さんが俺を見つめる。その優しい表情…反則だ。





「好き過ぎて、おかしくなる」





そう言ってキスを落とされ、ぎゅっと抱きしめられた。もう雨は降っていない。雨宿りもしない。晴れ渡った空を窓越しに見ながら、俺はそっと、糸魚川さんの背中に腕を回した。









END







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ACCOMPLICE

子犬一 はぁて
BL
欠陥品のα(狼上司)×完全無欠のΩ(大型犬部下)その行為は同情からくるものか、あるいは羨望からくるものか。  産まれつき種を持たないアルファである小鳥遊駿輔は住販会社で働いている。己の欠陥をひた隠し「普通」のアルファとして生きてきた。  新年度、新しく入社してきた岸本雄馬は上司にも物怖じせず意見を言ってくる新進気鋭の新人社員だった。彼を部下に据え一から営業を叩き込むことを指示された小鳥遊は厳しく指導をする。そんな小鳥遊に一切音を上げず一ヶ月働き続けた岸本に、ひょんなことから小鳥遊の秘密を知られてしまう。それ以来岸本はたびたび小鳥遊を脅すようになる。  お互いの秘密を共有したとき、二人は共犯者になった。両者の欠陥を補うように二人の関係は変わっていく。 ACCOMPLICEーー共犯ーー ※この作品はフィクションです。オメガバースの世界観をベースにしていますが、一部解釈を変えている部分があります。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)
BL
わけありイケメンバーテンダー×接触恐怖症の公務員。居場所探し系です。 【あらすじ】  軽い接触恐怖症がある比野和希(ひびのかずき)は、ある日、不良少年に襲われて倒れていたところを、通りかかったバーテンダー沢村慎一(さわむらしんいち)に助けられる。彼の店に連れていかれ、出された酒に酔って眠り込んでしまったことから、和希と慎一との間に不思議な縁が生まれ……。  慎一になら触られても怖くない。酒でもなんでも、少しずつ慣れていけばいいのだと言われ、ゆっくりと距離を縮めてゆく二人。  小さな縁をきっかけに、自分の居場所に出会うお話です。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...