糸魚川さんと雨宿り

ひとまる

文字の大きさ
上 下
3 / 5

3.好きという気持ち

しおりを挟む


週間天気予防は全て晴れマークで、降水確率5%の表記に俺はスマホをベッドに投げ捨てた。梅雨明けが恨めしい。



もう糸魚川さんに何日会ってないのだろう。別に恋人でもなんでもないセフレだから、会えなくてもいいはずなのに。

身体の中の熱が消えない。





傑には断りの連絡を入れた。傑は恭平さんと俺の関係を知らない。言うべきか悩んだけど、兄に自分の秘密まで打ち明けるのは躊躇われた。同性愛者の俺が弟だと知ったら傑はどう思う?それに両親に知られたら?



暗い気持ちで空を見上げる。このまま夏季休暇に入ってしまったら、本気で傑が恭平さんを連れてこちらに旅行がてら来てしまいそうだ。



会いたくない。怖い。もう嫌なんだ。



全ての快楽を教え込まれた俺の身体は、また恭平さんに会ったら求めてしまうのだろうか?



いや、違う。俺が今会いたいのは、抱きしめて欲しいのは──

そこまで思って必死に振り払った。





「雨…降ってくれよ…」





そうすれば、何も無かったように、会いに行けるのに。







◆◆◆







蝉の声が煩いほど鳴り響き、俺は大学の掲示板で試験結果を確認する。追試は無し。これで俺は夏休みに入る。



夏休みと言っても授業の代わりにバイトが入るだけで変わりのない日常が始まる。大学が休みになったら、更に通学帰りに糸魚川さんの家に雨宿りに寄るという言い訳は使えなくなる。



セフレなら、仕方ないのかもしれない。会いたいと言える立場じゃない。ああ、もう認めてしまいたくなる。自分の気持ちを。糸魚川さんと出会ってから、彼以外と関係は持ってないのも、雨を待ち遠しく思うのも─…





何回目かわからないため息を吐き、大学を後にしようとした時、校門に寄りかかる男を見て、心臓が音を立てた。



まさか…



何で──





「久しぶり」





目が合った瞬間、背中に大量の汗が流れ落ちる。真夏なのに、指先が冷たくなっていく。





「俺から逃げられると思った?」





ニヤリと笑った男の顔は、以前と変わりなくて、触れられそうになって身体が強張るのが分かった。







「恭…平…さん、何で…」







やっと喉から出た声は、掠れて小さくて、自分でも呆れるほど弱々しかった──









◆◆◆









「やめてっ!!もう、俺は恭平さんの玩具じゃないっ!!」



体格差もあり、掴まれた腕はびくともしなくて、大学近くで騒ぎになるのを恐れて何も出来ない俺は大学の近くのホテルに無理やり連れ込まれてしまった。ドアが閉まった瞬間に暴れても、全く歯が立たない。



浴室に放り込まれ、一気にズボンを下げ慣れた手つきで俺を解そうとしてくる恭平さんに恐怖を感じる。このまま、また身体をいいようにされるのか…道具の様に性処理として使われる?冗談じゃない。



シャワーで服が濡れつつも、俺は必死で抵抗する。



「大人しくしろよ、お前の身体を一番知ってるのは俺だ。すぐ思い出させてやる。お前は俺の物なんだってな」



「俺は、もうあんたの物じゃない!あんたより…好きな奴が出来たんだ。俺は…もう…その人にしか…抱かれたくないんだ」



涙が零れた。俺の本心で、ずっとずっと、心の奥に閉じ込めていた気持ちが溢れてくる。





「糸魚川さんにしか…抱かれたくない…」





好きだ。もう二度と、恋愛なんてごめんだと思っていた。それでも、彼に惹かれてしまった。信じられないくらい優しく、甘く抱いてくれる彼が…





「うるさい。俺以外、お前は無理なんだよ、お前は、俺が」



「あんたなんて、もう好きじゃない!」





そうきっぱり言った瞬間、雷が近くに落ちた音が聞こえ、視界が真っ暗になった。停電─…?



恭平さんが怯んだ瞬間に俺は浴室を出て必死にホテルの部屋から飛び出した。

階段を駆け下り、ホテルの玄関を飛び出る。



滝のような雨に打たれ、雷がまだ鳴り響く中、俺は迷わず走り出した。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)
BL
わけありイケメンバーテンダー×接触恐怖症の公務員。居場所探し系です。 【あらすじ】  軽い接触恐怖症がある比野和希(ひびのかずき)は、ある日、不良少年に襲われて倒れていたところを、通りかかったバーテンダー沢村慎一(さわむらしんいち)に助けられる。彼の店に連れていかれ、出された酒に酔って眠り込んでしまったことから、和希と慎一との間に不思議な縁が生まれ……。  慎一になら触られても怖くない。酒でもなんでも、少しずつ慣れていけばいいのだと言われ、ゆっくりと距離を縮めてゆく二人。  小さな縁をきっかけに、自分の居場所に出会うお話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~

琴葉悠
BL
俺の名前はニュクス。 少しばかり人と違う、男と女のを持っている。 両性具有って昔の言葉があるがそれだ。 そして今は「魔の子」と呼ばれている。 おかげで色んな連中に追われていたんだが、最近追われず、隠れ家のような住居で家族と暮らしていたんだが――…… 俺の元に厄介な事が舞い込んできた「魔王の息子の花嫁」になれってな!! ふざけんじゃねぇよ!! 俺は男でも女でもねぇし、恋愛対象どっちでもねーんだよ!! え? じゃなきゃ自分達が殺される? 知るか!! とっとと滅べ!! そう対処していたのに――やってきたんだ、魔王が。 これは俺達が壊れていく過程の物語――

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

上司と俺のSM関係

雫@夜更新予定!今日はなし
BL
タイトルの通りです。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...