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3.好きという気持ち
しおりを挟む週間天気予防は全て晴れマークで、降水確率5%の表記に俺はスマホをベッドに投げ捨てた。梅雨明けが恨めしい。
もう糸魚川さんに何日会ってないのだろう。別に恋人でもなんでもないセフレだから、会えなくてもいいはずなのに。
身体の中の熱が消えない。
傑には断りの連絡を入れた。傑は恭平さんと俺の関係を知らない。言うべきか悩んだけど、兄に自分の秘密まで打ち明けるのは躊躇われた。同性愛者の俺が弟だと知ったら傑はどう思う?それに両親に知られたら?
暗い気持ちで空を見上げる。このまま夏季休暇に入ってしまったら、本気で傑が恭平さんを連れてこちらに旅行がてら来てしまいそうだ。
会いたくない。怖い。もう嫌なんだ。
全ての快楽を教え込まれた俺の身体は、また恭平さんに会ったら求めてしまうのだろうか?
いや、違う。俺が今会いたいのは、抱きしめて欲しいのは──
そこまで思って必死に振り払った。
「雨…降ってくれよ…」
そうすれば、何も無かったように、会いに行けるのに。
◆◆◆
蝉の声が煩いほど鳴り響き、俺は大学の掲示板で試験結果を確認する。追試は無し。これで俺は夏休みに入る。
夏休みと言っても授業の代わりにバイトが入るだけで変わりのない日常が始まる。大学が休みになったら、更に通学帰りに糸魚川さんの家に雨宿りに寄るという言い訳は使えなくなる。
セフレなら、仕方ないのかもしれない。会いたいと言える立場じゃない。ああ、もう認めてしまいたくなる。自分の気持ちを。糸魚川さんと出会ってから、彼以外と関係は持ってないのも、雨を待ち遠しく思うのも─…
何回目かわからないため息を吐き、大学を後にしようとした時、校門に寄りかかる男を見て、心臓が音を立てた。
まさか…
何で──
「久しぶり」
目が合った瞬間、背中に大量の汗が流れ落ちる。真夏なのに、指先が冷たくなっていく。
「俺から逃げられると思った?」
ニヤリと笑った男の顔は、以前と変わりなくて、触れられそうになって身体が強張るのが分かった。
「恭…平…さん、何で…」
やっと喉から出た声は、掠れて小さくて、自分でも呆れるほど弱々しかった──
◆◆◆
「やめてっ!!もう、俺は恭平さんの玩具じゃないっ!!」
体格差もあり、掴まれた腕はびくともしなくて、大学近くで騒ぎになるのを恐れて何も出来ない俺は大学の近くのホテルに無理やり連れ込まれてしまった。ドアが閉まった瞬間に暴れても、全く歯が立たない。
浴室に放り込まれ、一気にズボンを下げ慣れた手つきで俺を解そうとしてくる恭平さんに恐怖を感じる。このまま、また身体をいいようにされるのか…道具の様に性処理として使われる?冗談じゃない。
シャワーで服が濡れつつも、俺は必死で抵抗する。
「大人しくしろよ、お前の身体を一番知ってるのは俺だ。すぐ思い出させてやる。お前は俺の物なんだってな」
「俺は、もうあんたの物じゃない!あんたより…好きな奴が出来たんだ。俺は…もう…その人にしか…抱かれたくないんだ」
涙が零れた。俺の本心で、ずっとずっと、心の奥に閉じ込めていた気持ちが溢れてくる。
「糸魚川さんにしか…抱かれたくない…」
好きだ。もう二度と、恋愛なんてごめんだと思っていた。それでも、彼に惹かれてしまった。信じられないくらい優しく、甘く抱いてくれる彼が…
「うるさい。俺以外、お前は無理なんだよ、お前は、俺が」
「あんたなんて、もう好きじゃない!」
そうきっぱり言った瞬間、雷が近くに落ちた音が聞こえ、視界が真っ暗になった。停電─…?
恭平さんが怯んだ瞬間に俺は浴室を出て必死にホテルの部屋から飛び出した。
階段を駆け下り、ホテルの玄関を飛び出る。
滝のような雨に打たれ、雷がまだ鳴り響く中、俺は迷わず走り出した。
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