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第112話「地上実験室」

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「このヴァンパイアがルイですか、うわさでは聞いてましたけど嫌な雰囲気出てますね」
 ルイから感じる雰囲気に立華は思わず苦笑いを浮かべる。
「空太、勝てる保証はある?」
「ルイに勝てるわけないじゃないですか。僕らが君みたいにいくらでも修羅場を迎えても生きていられる肉体をしていたら別でしょうけど、そうもいきません」

 楓が言おうとしたことを察したように立華は話を続けた。
「まともに戦っても勝てないんですけどねぇ。そもそも、僕らはルイとまともに戦う必要はないんですよ」
「空太、それってどう言うこと?」
 その問いを待っていたかのように立華はニヤリと笑った。
「ついに、見つかったんですよ」
「見つかったって何が?」
「楓君は鈍いですね。察してください。ALPHAが開発した不死身化する装置ですよ。ALPHAは混血の血を使って全てのヴァンパイアを不死身にすることができる装置を開発したんです、それで今、大垣さんがその装置を見つけて調査を行っているところなんですよ」

「じゃあ、ルイを倒さなくてもその装置さえ壊せば…」
「そうなんですね。だから、楓君がここで直接ルイとやり合う必要はないんですよね。せめて、楓君だけ逃して僕らで足止めしようってことです」

 話を聞いていたルイは不敵に笑っている。
「大垣が見つけたんだね。それじゃあ、僕も地上へ行ってそれを防がないといけないな」
 ルイは両手の爪を伸ばして刀を持つ立華と烏丸を交互に見た。
「ここを離れてください楓君。もう交渉なんてする必要ないですから」
 立華と烏丸は体が動かない楓の肩を担いで部屋を出ようとした。当然、ルイはそうさせるつもりはない。
 ルイが立華と烏丸に斬りかかろうとした時だった。部屋を出ようと走る3人の向かい側から風のようにある人物が現れた。

「ここからは俺たちがお前の相手だ」
 ルイの爪は弾かれて2人には当たらなかった。着ていた白い隊服が脱ぎ捨ててそれが二着床に落ちる。
 ルイの攻撃を防いだヴァンパイアはボサボサの髪型に血走った目をして紫色のヴェードをした二刀流。京骸亮一郎きょうがいりょういちろうとその隣に大胆に胸元が開いたスーツを着ている美波立花みなみりつかがいた。

「どうやら、実験施設で装置を壊すのに混血の血が鍵になってるらしいの。だから坊やが行けば装置を壊せるわ。ここは私たちに任せてあなたたちは先に行きなさい」
 楓が逃げるべきか逡巡の色を見せいていると京骸は楓に言った。
「お前の父が地上の実験施設にいたらしい。鬼化に利用されて衰弱してはいるがさすがは不死身だよな、まだ生きてるってよ。だから、さっさといけ」
 
「わかりました。あとはお願いします」と楓は決意を固める。
「ああ、任せろ。俺たちを誰だと思ってんだよ」
「京骸さん、美波さんそれではお願いします。僕らも終わったら加勢します」
 2人は頷くと「行こ」と烏丸は楓に声をかけて部屋の去り際に楓は2人を見た。その時見た2人の先輩の背中は楓にとってより大きく見えた。

「さて、部下たちにいいカッコ見せたけどどう倒す? 京骸」
「決まってんだろいつも通り。ズタボロに切り刻んでやるだけだ」


 3人は京骸たちがルイの相手をしている間にゲートから地上へ出ると太陽は沈み始め、夜が始まりヴァンパイアの時間が始まっていた。また1人、2人と楓の視界の中で人間が命を落としてゆく。まだ、決着のつかないこの戦いに3人はこれから大きな変化を起こそうとしている。

 立華と烏丸の案内でALPHAの地上実験室の場所まで急いで走っていった。そして、烏丸と立華はある場所で立ち止まった。
「こんなところに実験場があったのか」
「初めは驚きましたよ。灯台下暗しって言いますけど、洋館からこんな近い距離にあったんあんて」

 3人の正面にはさびびついた鉄格子の門に鎖がつけられた南京錠で鍵がかけらておりその門の向こうには、随分昔までは稼働していたであろう工場跡があった。
 その鉄格子の門の周りは長い間手入れされておらず草が多い茂っており、3人の身長と同じくらいの背丈がある。そこの深く草が茂るところからかさかさと物音がした。

「やっぱり大垣さんだったんですね。なんか匂いがするなって思ってましたよ」
 立華は嬉しそうに顔を綻ばし、烏丸も大垣会えてほっとした表情だった。楓も大垣の姿を見て無事だったことに安堵した。
「大垣さん1人なんですか?」と楓は大垣の後方を確認した。
「そうだね。地上が大変なことになっているんだ少しでもみんなに協力したくてね。中の構造は偵察に行った部隊から詳しく聞いているし、データも取り込んでいるから大丈夫だよ」
 大垣は腕時計型のウェアラブル端末を見せた。

「無理しないでください。大垣さんに何かあったら大変なことになりますから」
「すまないね。でも、この周辺はALPHAのヴァンパイアはいないようだよ。ところで、伊純君はルイに会ったのかい?」
「はい、会いました」
 楓はルイと出会ったことを身振り手振りで表現しようと試みた。
「なんか、こう。冷たい感じっていうか、大きな恐怖を感じてそれでいて人形見たいな綺麗な容姿をしていて」
 ルイを見て感じたことを表現しようと考える楓だったがわかりやすい表現が見つからず、頭を掻いていると大垣は楓が言わんとすることを理解した様子だった。

「ルイはヴァンパイアの血を飲んで自らの血を入れ替え、若さを保ち続けていると聞いたことがある。彼のその人形のような容姿はそこからきているものだろうね。それは永遠の命に執着するあまり同種を食すことをも厭わなくなったヴァンパイアとして醜悪な姿だ。力というのは恐ろしい。でも、何はともあれ…」
 大垣は楓の肩に手を置いて嬉しそうに笑った。
「伊純君が無事で本当によかった。まだ戦争は終わってないが、これから行うことは私たちの勝利に大きく前進する。さ、行こうか」
 3人は力強く頷き、勝利を手繰り寄せる選択に胸を膨らませた。


 4人は工場跡に入っていった。入口をゆっくりと開けて入るとまず広いがるのは昔は現役で動いていたであろう工作機械の数々で、それらは死んでしまったかのように錆びついて動く気配もない。
 そして、表面が擦り切れているベルトコンベア、長年雨風に打たれて劣化し、剥がれ落ちた天井など、侵入して辺りを見渡す限り誰が見ても使用されなくなったただの廃工場にしか見えなかった。
 
 中に入ってからしばらく行くと大垣は地面を指差した。
「入り口は地下にある」
「地下ですか? ただのコンクリートの地面ですが…」
 立華が大垣が指差す方向を訝しんで見つめていると大垣は何もないコンクリートの地面に手を置いて下に力を加えた。すると、大垣の手のひらの大きさに地面は凹むと人一人分ぐらいが入れる大きさの正方形の大きな穴ができた。

「まさか、本当にこんなところにあるなんて」
 そう言った楓を大垣は真剣な表情で見て言う。
「伊純君この下には伊純君の父親がいる。まずは、父を助けるんだ。そのために、下にいるヴァンパイアは全員拘束してほしい。最悪、殺してしまってもかまわない」
 3人は大垣の言うことに頷く。そして、大垣は地面に空いた穴に視線を落とした。
「ここの管理をしているのは神原というヴァンパイアの研究者だ。地下世界の中でも指折りの実力を持った研究者らしい。そいつは、拘束して捉えてもらいたい。色々と聞き出したいとこがあるからね」

 4人は物音を立てないようにその穴の中に入っていった。全員が入り切ると自動扉のように天井の穴は閉じて辺りは真っ暗になった。
 そして、暗闇の中で大垣が一歩足を踏み出した時だった。大きな破裂音が密閉された空間で広がった。
「大垣さん大丈夫ですか」
「ああ、すまない立華君。私としたことが罠にも気がつかないなんて」
「大丈夫です。僕らがついてますから。絶対、大垣さんを守りますよ」
「頼もしいね。君たちはやはり私の宝だよ」

 烏丸が前方で聞こえる微かな物音に気がついた。立華、大垣、楓を手で制して壁に耳を当ててその音のありかを特定する。
「壁の向こうに誰かいます」
 そして、烏丸は壁に手を添えた。
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