不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第105話「鳥田VS鬼竜①『若き戦士』」

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「お前、この間吹っ飛ばしたやつや、名前は確か…」
「鬼竜奏手だけど」
「そやったな。鬼竜、お前ワシのことモテへん言うたやろ。あのな、男ってのは強さが全てや。強いやつが女をかっさらう。これが漢や」
「おー怖。君には女心というやつが一生わからないんだろうね」
「ほう、随分と余裕そうやんお前。ちょお、わからせてやるか」
 鬼竜は後方の山本達に言った。
「みんないくよ。全員でこいつを倒すんだ。君らの上司の敵を打ちたいだろ」
「もちろんです」と山本は即答する。
「人間のおっちゃんはええ戦いを見せてくれたお礼にお前ら全員もれなく相手したる。かかってこいや!」

 西園寺はその巨体を前進させようと足を踏み出したが歩くどころか地面に片膝をついていた。制御できない体に思わず西園寺は笑った。  
「ちょ、待てやなんやこれ。何が起きてん?」
 胸を押さえて咳き込むと血を吐き出した。西園寺が抑えている胸の部分は鳥田が穴を開けたところだった。
「なるほど。傷口は塞がっても完治はしてないわけか。相当深く差し込んだんじゃない」 

 鳥田が残した西園寺への傷跡。それがこの戦いでは大きな役目を果たした。
 鬼竜と山本隊の戦況は鳥田が西園寺に与えた傷跡のおかげで西園寺の動きは鈍くなり、互角の戦いになっていた。だからといって、油断はできなかった。互角では体力勝負でヴァンパイアが勝つ。人間を味方につけた鬼竜には不利に思われた。

 山本も木並も鷹橋も、自分ができることをやった。それでも、西園寺には届かなかった。鬼竜が西園寺の拳を二本の剣で持ち堪えていると。
「3人はもう逃げた方がいいかもね。京骸さんたちが地下通路に向かったらしいから援護が来るまで僕がここを受け持つよ」
「そんなこと…」
「そんなことできるわけない!」
 山本の主張を遮って鷹橋は言った。
「地下ではNo.4のケニーがいると報告を聞いてます。どう考えても一筋縄でいく相手とは思えません。しかも、No.5のAも目撃情報が入っています。その、京骸って方が合流するのはかなり時間がかかるかと…」
「なるほどね。たしかに時間はかかりそうだ。で、君たちはどうするの?」
 鷹橋の答えは決まっていた。
「僕らはここで鬼竜さんと戦います」
 鷹橋は鬼竜に懇願するように言うと鬼竜はその答えを待っていたかのようにニヤリと笑った。
「よく言った。坊ちゃん。正直、僕ら劣勢なんだけど、まあなんとかなるでしょ!」
 鬼竜は西園寺の攻撃をいなして山本達の元へ向かった。
「僕らの中でやつを倒した時に1人でも立ち上がってれば勝利だ。死ぬ覚悟はできてる?」
 3人は頷いた。だからこそ、その後の戦いは手負いではあるが鬼化した西園寺に対して互角に渡り合うことができたのだろう。

「あっ!…くそ」 
 西園寺に向かっていくもB級の鷹橋や木並ではまだ歯が立たない。
 山本と鬼竜はうまく息を合わせて手負いの西園寺についに攻撃が当たり始めた。もう少し、あと一歩というところまできているがまだ決定打に欠ける。
「僕もやらなきゃ」
「鷹橋、どこいくの?」
 鷹橋は地面に落ちている何かを拾い上げて首にかけた。
「鷹橋よせ! それは鳥田さんのアトンだ、B級のお前が使ったら…」
「構いません。それよりもここで足いでまといになるのが嫌なんです」
「あんた、正気なの?」
「僕は覚悟を決めたんだ」
 木並はネックレスに手をかけた鷹橋の腕を掴み、鷹橋が行おうとしている動作を止めた。鷹橋は木並のその行動を驚いたようにみる。そして、木並は言った。
「死ぬのだけは止めて」
 鷹橋は頷いて、首にかけたネックレスを両手で握り願いをこめるように目をつむった。そして、意識を集中し、眩い光がネックレスから放たれて鷹橋の体を覆う。やがて、その光はさらに輝きを増してアトンの表面ではスパークを繰り返し、放出を待ち侘びている高エネルギーが鷹橋を包む。
「鳥田さんが繋いでくれた思いを、みんなが紡いでくれ意志を無駄にはできない」
 鷹橋は胸の前で手をかざすと身体中にまとっている高エネルギーは槍の形を作り始めた。しかし、形成している途中で形が途絶え、口元は血を吐き出して赤く染まっている。
「やっぱり、肉体が耐えられないんだ。もういい、もういいから鷹橋。俺たちがなんとかする」
「山本くん、部下が一度決めた覚悟だよ。上司はそれを見守ってやるのが仕事でしょ」
「でも、鬼竜さん」
「いいから! それよりも俺らが今できることをやるんだ」
 
 鷹橋は体全体に力をこめる。体の内側から弾けるようなそんな
 鷹橋の手のひらの上で形成していた槍は再び形を作り始め、ついに手で掴めるまでに実体化することができた。鳥田が数十分前まで使っていた槍と同じもので、大きさは2mを超える。当然、鷹橋の身長よりもはるかに長い。

 鬼竜と山本は西園寺に立ち向かう、木並も2人に続く。西園寺が投げてくる瓦礫などもはやいちいち避けてはいられない。刀で砕けるだけ砕いて、多少の破片が自分の体に当たるのはやむおえないと真正面から西園寺に斬りかかる。
「そのガキなかなかやりよるやん。お前ら消したらじっくり相手してやるわ」
 西園寺が降った拳を鬼竜は間一髪で避けたが脇腹をえぐり、両手に持つ剣を手放してしまった。しかし、鬼竜はそれでも前進し、西園寺の片腕にしがみつく。
 山本は西園寺の蹴りを腹でモロに食らったがそれでも全身を続けてなんとかもう片方の腕にしがみついた。
 木並は陽鉄泉(オレンジに輝く太刀)を西園寺の足に切り込んでなんとかして足を封じ込めようとしていた。刀は切り込んではいるが両手で押し込んでようやく片足を切断してもう片方の足を両手で抱え込んで封じ込めた。西園寺の切断したもう片方の足で何度も蹴られるがそれでも木並はそこを離れるつもりはない。
「ちょ、待てや。お前ら本気すぎんか? 鬼竜、内臓えぐったで? 山本、あばらいったやろ? 木並、お前は肩いかれたやろ? なんなんお前達、ほんっと…」
 鷹橋は自分の体よりも大きな槍を手に持ってようやく一歩を前に踏み出した。二歩、三歩と徐々に踏み出す足はリズムが速くなって走り始めた。
 大きな槍は西園寺の額目掛けて振り下ろされてしっかりと額から後頭部に槍が貫通して脳を破壊した。
「しつこいわ」

 貫通した直後、鷹橋の槍は姿を決して身に纏っていた高エネルギーの鎧はなくなり。元に戻った、18歳という若く華奢な体躯は地面に張り付くように寝そべっている。その横には頭の大きさだけで鷹橋の半分くらいはありそうな西園寺が額に穴を開けて大の字になっている。
「なあ、小僧。ワシの独り言や。もし、ワシがALPHAじゃなかったらお前らと分かり合えたと思うか?」
 鷹橋は何も迷うことがなかった。
「それはない」
 その即答に、西園寺は思わず笑った。
「せやろな。どうしてこうなったんやろなぁ」
 西園寺は空を見上げて信仰する人物の名前を上げてつぶやいた。
「きっと、ルイ様に出会ったからやろなぁ。そういうても、後悔してないんよ。ワシの人生」
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