上 下
100 / 126

第100話「連堂VSパッチ④『自分探し』」

しおりを挟む
 パッチは失った腕とは逆の腕で大鎌を拾って立ち上がった。
 片手で振る鎌は十分に威力があるが、それでも両手で振るときほどの破壊力は存在しない。
 今度は連堂の方が優位になりここで距離を詰める。青い刀をパッチに向ける。片腕を失い紫に光る大鎌を地面に引きずりながらパッチは後退していくと後ろは壁で逃げ場を失った。
「ここまでだ、この戦いを終わらせよう」
 連堂はパッチの喉元に刃先を向けた。パッチの仮面の下から滲む汗が滴り落ちて喉元を滑り落ちてゆく。 
 すると、パッチの体が突然震え始めた。初めは微振動で徐々に体を左右に揺らして。
「グウゥウオオオオォォォォオオオオ」
 言葉にならないような声。獣が低い音で唸り声を上げているような音に近かった。
 パッチの体の中が沸騰しているみたいに皮膚の下がボコボコと泡立ち始めてそれはやがて額にも届いていた。額の泡は弾けて仮面の上部から二本の角が生える。それは鬼化が始まったことを意味していた。

 その後、パッチの体は風船のように膨れ上がり始めた。爆弾のように今にも破裂しそうな勢いで膨れ上がっている。敵はALPHAのNo2。どんな手を使ってくるかわからない。そう思った連堂は一度距離をとって様子をみることにした。
 パッチの体はさらに膨れ上がる。元の体の10倍ほどの厚さに膨れ上がると膨張はピタッと止まり。いきなり収縮し、しぼみ始めた。パッチの元の体を中心に膨らんでいた体は元あった場所に戻るように吸い寄せられる。
 その衝撃波は辺りに広がり、連堂はさらに距離をとってその衝撃波に備えた。衝撃波がおさまった後は、パッチを中心にして大きな穴が出来上がる。

 砂煙が晴れてパッチの姿をようやく確認できるようになった。
 そこに立っていた姿は、頭に○を書いて、首から下は「大」の字を書いたような棒人間そのものだった。首は角が生えたこと以外に変化はないが、首から下はそのような大きな変化があった。
 そして、その棒人間のような体をしたパッチは新しく生え揃った両腕で体よりも何倍も太い大鎌を構えた。

「それがお前の本来の姿ってわけか」
「××××××××××××××××」
 パッチが何かしゃべっているようだが言葉として意味をなしておらず誰も意味を理解できない、しわがれたような掠れたようなハスキーのような聞いたことないような声で何かを言い放ったそれは不明な音となって空気中に溶けてゆく。

 パッチは何度かその意味不明な音を出して何か意味のある言葉を紡ごうとしている様子だった。
「よう××××××やk××××××××く××××しゃべ××れた」
「ようやくしゃべれた? お前元々話せなかったのか?」
「お前含めて××××しゃ××べれ××××××たの、2××××回目」
「2回目?」
「お××××××まえ×××僕×××の×××××××××強さ×認めた。××××××うれ×××しい」
 ケラケラと笑っているのかパッチは首を上下してそんなことを思わせるような動作をしている。

「僕も××『思い』見せる」
 パッチは質量を感じさせないほどの細い腕で大きな鎌を振り上げた、そして振り下ろす。
 鎌が投げられる。その動きからどんな攻撃が繰り出されるのか連堂はわかっていた。パッチが投げた大鎌は縦回転しながら飛んできた。腕の角度、鎌の回転速度から軌道もわかっていたはずなのに、交わせなかった。
 投げられた大鎌は連堂の片腕をそいで再びUの字を描いてカーブし、持ち主の元へ戻った。連堂は切断されて少してから避ける体制に入り横へ転がった。避ける動作がだいぶ遅かった。
 痛む腕を連堂は抑えて前方の敵を睨みつける。
「大垣さんのために俺は負けられない」
 
「ルイ××様。僕は負けません。あの時から僕の命はルイ様のために」



「お前の顔気持ち悪りぃんだよ。俺たちの視界に入ってくんな」
「…」
「こいつ声キモイから喋らないんだよ。最後に喋ったのなんて2年前らしいから」
「マジ? だったら、告げ口される心配ねぇから、もっとやっちまおうぜ」
「やろやろ」「さんせーい」
 
 しばらく気を失ってたのだろうか。目の前が真っ暗になってようやく目を覚ました。まず初めに感じたのは唇が切れてて痛かったこと。それから、鼻の骨が折れててジンとした鈍い痛みも遅れてやってきたことだ。
 僕のことを殴っていった奴らは声が聞こえないからどこかにいったらしい。でも、僕の目の前に誰かいる。地面に横になってるから足しか見えなかったけど、まだ奴らの仲間が残っていたのか。また殴られるんだな、いやだな。

 僕は視線を上げてその人物を見上げた。
 その人物は銀の髪色をしていて瞳はヴァンパイアにしては珍しい青色の瞳をしている。
 みたことない顔だった、同じ学校だったらこんな目立つ容姿をしていたら友達のいない僕でも存在自体は知っているはずだし、どこの誰だか知らないけどこの場所を知ってるってことは学校の生徒だろう。きっと、僕のことをいじめに来たに違いない。きっとそうだ。
 僕がこの場を去ろうと立ち上がろうとしたとき、その少年は僕が予想しなかったことを言った。
「無理しないで傷口が開くよ。これで血を拭いて」
 そう言って僕にハンカチをくれた。これは僕を助けたってことなのか? 何か言ったほうがいいのだろうか? よくわからない体験に僕は戸惑った。なぜなら初めての体験だったから。

 ハンカチを受け取った時、彼と目が合ってしまった。僕は咄嗟に自分の顔を両手で隠した。
 僕は自分の汚い声が嫌でしゃべらないようにしてるし、醜い顔だから誰かと目を合わせないようにしている。それでも、そのヴァンアイアはしっかりと僕の顔をみて、目を合わせて言った。
「君はいずれ本当の自分を見つけるよ。そしたらまた会おう。僕は君の本物を知っている」
 名前を…聞けなかった。僕は誰とも話さないようにしているけど彼は今まで会ったヴァンパイアとは何か違った。僕にそんなこと言ってくれるヴァンパイアなんて今までいなかったからだろうか。
 僕は差し出されたハンカチを手にとって自分の顔の血を拭った。一通り拭ってそのヴァンパイアに返そうとしたがなぜか姿が見えなくなってしまった。
 本当の自分…。
 それがなんなのかわからなかった。それから僕は向きあいたくもない現実と向きあいながら僕はそれを考え続けた。

 その出来事から数日後、また僕をいじめる奴らから学校の校舎裏に呼び出され僕は言われるがままに向かった。
 あの時会ったヴァンパイアの言葉がずっとひっかかっていた。だから、今日の僕はいつもとは考え方を変えていた。もう何年間も嫌がらせを受けてきた自分を変えなくちゃいけない、そう思ってたからだ。

「そのお面なに? キモ」
「きっと、自分のキモイ顔を隠そうとしてるんだよな」
「うわ、怖。お前さ今日からその面ずっとつけてろよ、キモイから。それ罰ゲームな。そんなことよりもさ、なんで呼び出されたか、わ、か、る?」
「…」
「喋るわけねぇよなクソブスが」
 3人はただそれだけのやりとりをすると何も話さない僕の顔をみて腹を抱えて笑っている。
 今日の僕は違う、行動を起こすんだ。だから、勇気を振り絞った。僕には僕のまだみない力があるはずなんだ。だから、勇気を振り絞れ!

「お、おいよせよ。なんだよそれ」
「冗談だろどうせお前がそんなことできるわけないだろ」
 僕は、学校の倉庫から持ってきた草を狩る鎌を背中から取り出して3人に突きつけた。今まで、何年もやられっぱなしだったけど今日は違う。初めて僕は一歩前進するんだ。

 僕はその鎌一本で3人をバラバラにした。断末魔がうるさくて口に手を突っ込んで黙らせた奴もいたが全員もれなく原型をとどめないほどバラバラの細切れにしてやった。身体中に返り血を浴びて、目の前で3人が死んでいることを確認してようやく気がついた。
 気持ちいいって。
 この瞬間、自分の内側が解放されたような快楽を感じた。刃物で肉を切り裂く感覚が自分の手に伝わって妙にしっくりくる。これが本物の自分なんだって、初めて銀髪のヴァンパイアが言ったことが理解できた。

「なんだ、笑えるじゃん」
 木陰から1人の少年が出てきた。 
 彼は、あの時会ったヴァンパイアだった。銀髪に青い瞳を持った異彩を放つヴァンパイア。
「あなたは…」
「僕はルイ。君を正しい方向へ導くものだよ」
 僕はルイのおかげで進むべき道がわかったような気がする。
 この時、僕はようやくあの時のハンカチをルイ様に返すことができた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】婚約者様の仰られる通りの素晴らしい女性になるため、日々、精進しております!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のバーバラは幼くして、名門侯爵家の若君と婚約をする。 両家の顔合わせで、バーバラは婚約者に罵倒されてしまう。 どうやら婚約者はバーバラのふくよかな体形(デブ)がお気に召さなかったようだ。 父親である侯爵による「愛の鞭」にも屈しないほどに。 文句をいう婚約者は大変な美少年だ。バーバラも相手の美貌をみて頷けるものがあった。 両親は、この婚約(クソガキ)に難色を示すも、婚約は続行されることに。 帰りの馬車のなかで婚約者を罵りまくる両親。 それでも婚約を辞めることは出来ない。 なにやら複雑な理由がある模様。 幼過ぎる娘に、婚約の何たるかを話すことはないものの、バーバラは察するところがあった。 回避できないのならば、とバーバラは一大決心する。 食べることが大好きな少女は過酷なダイエットで僅か一年でスリム体形を手に入れた。 婚約者は、更なる試練ともいえることを言い放つも、未来の旦那様のため、引いては伯爵家のためにと、バーバラの奮闘が始まった。 連載開始しました。

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

絶対不死身の狂戦士(バーサーカー)

チタン
ファンタジー
【あらすじ】 大学生でゲーマーの富士見 鋼(フジミ コウ)は、 目を覚ますと親友とともに異世界に転生していた。 彼らは王国を魔物から救うために 〈迷宮-ダンジョン-〉攻略を依頼される。 しかし〈迷宮〉攻略の最中、コウの親友である フレッドは命を落としてしまう……。 コウは親友の死を目の当たりにし、 死の恐怖に囚われ〈狂戦士-バーサーカー-〉 と呼ばれるほどの戦士へと変貌を遂げる。 「不死身の肉体」&「痛覚無視」の 〈狂戦士〉による無双譚ここに開幕!

処理中です...