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第89話「楓VSケニー②『真実』」
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楓は刀を握る手が震えていたが力だけでその震えを止めて、正常な状態に戻した。
「お前を、殺す。絶対に」
楓は、滲む赤色の瞳を目の前にいる敵に、鋭く向けた。
「うげぇ、どうしようマジじゃん。僕冗談のつもりで、言ったのに」
ケニーはまたわざとらしくちょっと腰を引いて驚いたふりをする。
楓は緑の太刀で攻撃し、ケニーは青緑色の光を放つ短剣をクロスさせて攻撃を受け止めた。
それから楓は目にも留まらぬ速さで連撃を繰り出す。数発はケニーの体をかすめるものの致命傷を与えるようなダメージは与えることが出来なかった。
ケニーは頬から流れ落ちる血を自分の舌ですくい上げて喉を鳴らして飲み込んだ。
「なかなかやるぅ~」
ケニーはお返しとばかりに楓と同じように二本の刀を使って連撃を繰り出した。懸命に攻撃していた楓の真似事でもするように同じような動きだったが、小さな刀、そして細い腕にも関わらず一撃一撃がずっしりと重く、楓は防ぐので精一杯で、攻撃を受け止めながら何歩か後退していく。
ケニーは「止めの一撃ぃ」と心臓めがけて刀を刺しに言った。楓もすぐに反応して攻撃を防ぎにかかったが、蓄積していたダメージもあってタイミングが少し遅かった。
短刀は右胸の上部、肩に近いところに刺さり、派手に血しぶきが上がる。その短刀を伝って血が滴り落ちている。
「チェストぅ!」
心臓を狙ったのもは外れて、今度こそ止めの一撃を刺そうとケニーは額めがけてもう片方の短刀を突きつけた。楓は右手に持つ刀で防ごうとしたが胸に刀が刺さって力が入らない。急いで左手で、手の甲でその刀を受けた。刀は手を貫通して、額に切っ先がつくギリギリのところで止まり、握った手のひらから切っ先が覗いている。
そして、楓はようやく力が戻ったもう片方の腕を振り上げて右胸に刺さる短刀を握るケニーの腕を切断した。切断されたケニーの腕は楓の胸に腕ごと刺さってだらしなくぶら下がっている。楓は、自分の胸に刺さったケニーの腕と短刀を痛みを堪えながら一思いに一気に引き抜く。傷口からはドロッとした血液が飛び出している。
楓は膝を付いて、胸部を抑えた。出血が多いせいで顔色も青ざめ始めている。
ケニーもまさか自分の腕を切断されるとは思っていなかったのか、「およよ?」っと驚いた様子で、本能で察したのか楓から一旦距離を取った。
ケニーは切断された腕の断面をしばらく凝視してから、へへっ、へへっ、へへっと目の焦点は空を見上げてよだれを垂らして笑っている。しばらく、笑って鼻から大きく息を吸った。全身で大地の力を感じと取るように大きく手を広げて、体全体を大の字に広げた。
「きぃもちぇええ!」
目玉が飛び出そうな程、天に向かって咆哮したのもつかの間、口からだらんと垂らした舌をしまって急に真顔になった。
「こら、ケニーはしたないぞ。こっちもダメージを受けているんだ反撃しなさい」
真顔になったと思ったら今度は、また口から舌をだらんと垂らす。
「だってぇ、痛いの気持ちいぃんだもん。この快楽やめらんないねぇ」
「こりゃたまらん!」とケニーは声を裏返して、痛みという快楽を味わっていながら、ケニーはジャックとしばらくの会話を終えて、視線の先にいる楓に向けていった。
「不死身って良いなぁ。痛みを永遠に味わい続けられるんだから。ああ、僕も早く不死身になりたいよぉ」
楓は胸部と手を刺された痛みに堪えながら、小さく言った。
「どいつもこいつも…イかれてる」
お互いの体に刃物を刺して痛みを感じても文字通り温度差が激しかった。
楓はまだ出血は止まらない状態だがふらつきながら立ち上がり、快楽にヒクヒクしているケニーに向かって痛みを堪えながらまた攻撃を繰り出す。
懸命に攻撃する楓に対して、ケニーは自分の致命傷になる場所は避けつつ最大限攻撃を受けた。いや、時にはわざと当たりに行った。
ケニーがジャンプする度にばさばさと音を立てて揺れていたマントは足首まで長さがあったが、攻撃を受けている内に股間の下辺りで切られて、素足が見えた。
楓も想像していたが、足も腕同様に入れ墨だらけで本来の肌の色が殆ど見つからない。紫や青緑色でドクロやらバラやら勾玉のようなペイズリーが皮膚に所狭しと刻み込まれている。
しかし、攻撃を受け続けたケニーはあまりの痛みに両膝を地面についた。といってもその表情を見るにもはや快楽だけで死んでしまいそうなほど自身で至高の領域に到達している様子だった。もはや昇天している。
十分に快楽を満喫したケニーはゆっくりと立ち上がる。初めは地面を見ながら徐々に視線を上げて楓に視線を合わせた。
「はあーあ、久しぶりにこんなに気持ちよくなった。混血って意外とやるんだねぇ」
ほぅと静かな息を吐くように混血に対して感嘆の意を見せる。
と思ったら、ケニーは地面に尻をついて股間のあたりで砂遊びをしながらぽろっと思っていたことを漏らした。
「あの人間がもっと早く混血が誕生したことを知らせてくれたら今頃、僕は痛みを感じ放題だったのになぁ」
目の前に敵がいるというのに悠然と地面に視線を落として砂遊びをしているケニーに目を離さないようにしていた楓だったが、その発言に疑念を抱いた。
「あの人間?」
砂遊びに夢中になっていたケニーはまるで体に電撃が走ったように、急に顔を持ち上げた。
「こら! ケニーそれは言ってはいけない決まりだぞ」
「あれ? そうだっけ? でももういいんじゃない? だって、あれはもう始末するんでしょ」
何度見ても1つの肉体で行われているやり取りとは信じがたい光景に戸惑いがある楓だったが、警戒を忘れずそっと訊いた。
「お前達、何を言ってる」
「ほら、まだ気づいてないじゃん。ってことで、ギリギリセーフ」
楓の慎重な動作とは裏腹にケニーは楓を指差して自分に自分で言ってケラケラ笑っている。
「ふざけるな! 知っていることを話せ! でないと、今度はこの刀で心臓を貫く」
「いいよ、教えてあげる」
否定するのかと思いきやあっさりと言ってのける。
「ケニー!」
「いいじゃん別に。僕がコイツを捕まえればチャラ。それに、僕この子気に入っちゃった。僕の体内に取り込む前に1つくらいはお願いを叶えてあげようよ」
また瞬時に真顔になる。それから、深くため息を吐いて
「わかった。そう言うなら仕方がない。お前は口が下手だ、代わりに私が説明しよう」
今まで、ニタニタと笑って、ずっと広角を上げていたケニーからは想像出来ないほど、表情が一気に引き締まって真剣な顔つきになった。
「こうやって話すのは初めてだろう。私はジャックだよろしく」
「…」
急な変化に楓は念の為、片手で持つ刀を握る力を強めて警戒を強めた。楓はジャックが話している姿は見てきたがいざ話しかけられると、子供のような高い声のケニーよりも声も少し低くなって人生経験を多く重ねた、しっかりとした大人と会話しているような感覚になった。
ジャックはその容姿には似合わないほどに淡々と知性的な喋り方で語り始めた。
「ケニーが君を気に入った。つまり、私も君を認めよう。そのため、君が抱いている疑問にもお答えしよう。まあ安心したまえ、戦うのはケニーのほうが得意だ、いきなり手を出したりはしない」
ジャックは地面についた尻を持ち上げて、服についた砂を手で振り払った。楓は目の前のヴァンパイアの一挙手一投足を見逃すまいと、その言葉を信用せず、刀を構えたまま、さっさと本題に入るように目で訴えかけた。相手の言葉は鵜呑みにはせず最大限の警戒を保ち続けた。
「どうやら。挨拶は短いほうが良かったようだね。では、端的に結論から説明しよう。君が混血になる前、普通の人間として生活していた時だ。ヴァンパイアが行動できない陽が昇っている間、君という実験対象を誰が監視していたと思う?」
「誰? だと…もったいぶらずにさっさと答えろ」
ジャックは回答を急かす楓にフッと鼻で笑った。これから答えることを聞かせることが楽しみであるかのようだった。
「人間だ」
その回答を訊いた楓には、当然ながら衝撃が走った。ALPHAに協力する人間がいるのか? そんな疑問が即座に浮かび、ジャックに問いかけるとジャックはゆっくりとうなずいた。
「誰がお前たちなんかに協力してるんだ。お前らは人間だったら構わず殺すような奴ら。そんな奴らに協力する人間なんているはずがない」
ジャックは胸の前で両手を広げ、「まあ、落ち着いてくれ」と冷静だった。二人の間で温度感の差が徐々に広がってゆく。
言い切って息を荒げている楓に対して、ジャックは静かにゆっくりと語り始める。
「しかし、後に発覚したことだが、その人間は混血が誕生したとき私達に虚偽の報告をしてきた。私達を裏切ったのだ。モラドに混血を横取りされた理由はこれが原因だろう。君が今、私達と対峙してそこに立って生命活動を続けていられるのは言ってしまえば、その人間のおかげとも言える」
ジャックは自分自身で言ってることを自身で納得して得々と語る。
「我々はその人間を粛清しなくてはならない。これはルイ様の命令だ。そして私は今、それを実行することを決めた。組織がいらないと判断したんだ。丁度いい、君にその人間を会わせてあげよう。あの人間の臭いは覚えている」
ジャックは急に楓に背を向けて駆け出した。そして、ケニーが鬼ごっこをしていたときほどの速さではないが今いる地上のビル街から遠ざかるような方向に向かっている。
「待て! どこへ行く! …そっちは」
返事も返ってこないジャックにすぐに楓は後を追う。走りながら、視界のあちこちでゼロとALPHAが戦っているのが見えた。ALPHAの方が戦闘状況では押しているためゼロの人間が楓のすぐ近くで体を切られ、血しぶきを上げ、吸血されている光景がそこここで散見される。
立ち止まって助けなければいけない、そんな思いが楓にあったが今は目の前に敵を野放しにしておくことが最悪の事態につながると考えた楓は奥歯を噛み締め、迷いを振り払いジャックを追いかけた。
地上をしばらく走ってから、路地裏のマンホールに滑り込むようにジャックは入り楓も続く。そして、地下通路にでた。
ここでは戦闘は行われておらず地上の喧騒は嘘のように静まり返っていた。
地下通路では、コンクリートを叩くジャックの裸足と楓の革靴の音だけが響いている。しばらく同じリズムで音が聞こえたが、その音は、やがて止まり、ジャックの背中が楓に近づくとジャックはある人物の前で立ち止まっていた。
その人間は急に目の前に現れた入れ墨だらけのヴァンパイアにおびえて、足が震え逃げられないでいる。ケニーの大きな口がニッと頬まで広角が上がったことが楓は追いかける後方からも見えた。
ケニーは追いかけて、到着した楓に振り向き、トロンとした目をして、へへへといつもの表情に変わっていた。
「ジャックの方が性格悪いでしょ。混血倒す前に公開処刑するなんて、僕は思いつかなかったな」
「違うぞ。これは粛清だ、決して私の趣味ではない」
ケニーはその人間の首に手を回し、頭に短刀の切っ先を向けて構えている。その人間は、首に回された腕を振りほどこうと必死にもがいているがケニーの腕はびくともしない。
「君等の裏切り者ぉ。これから、ご対めーん」
ケニーがその人間を抱え込みながら楓の方に振り向いた時、その人間の姿が楓の前でようやく明らかになった。
「なんで…君が」
「お前を、殺す。絶対に」
楓は、滲む赤色の瞳を目の前にいる敵に、鋭く向けた。
「うげぇ、どうしようマジじゃん。僕冗談のつもりで、言ったのに」
ケニーはまたわざとらしくちょっと腰を引いて驚いたふりをする。
楓は緑の太刀で攻撃し、ケニーは青緑色の光を放つ短剣をクロスさせて攻撃を受け止めた。
それから楓は目にも留まらぬ速さで連撃を繰り出す。数発はケニーの体をかすめるものの致命傷を与えるようなダメージは与えることが出来なかった。
ケニーは頬から流れ落ちる血を自分の舌ですくい上げて喉を鳴らして飲み込んだ。
「なかなかやるぅ~」
ケニーはお返しとばかりに楓と同じように二本の刀を使って連撃を繰り出した。懸命に攻撃していた楓の真似事でもするように同じような動きだったが、小さな刀、そして細い腕にも関わらず一撃一撃がずっしりと重く、楓は防ぐので精一杯で、攻撃を受け止めながら何歩か後退していく。
ケニーは「止めの一撃ぃ」と心臓めがけて刀を刺しに言った。楓もすぐに反応して攻撃を防ぎにかかったが、蓄積していたダメージもあってタイミングが少し遅かった。
短刀は右胸の上部、肩に近いところに刺さり、派手に血しぶきが上がる。その短刀を伝って血が滴り落ちている。
「チェストぅ!」
心臓を狙ったのもは外れて、今度こそ止めの一撃を刺そうとケニーは額めがけてもう片方の短刀を突きつけた。楓は右手に持つ刀で防ごうとしたが胸に刀が刺さって力が入らない。急いで左手で、手の甲でその刀を受けた。刀は手を貫通して、額に切っ先がつくギリギリのところで止まり、握った手のひらから切っ先が覗いている。
そして、楓はようやく力が戻ったもう片方の腕を振り上げて右胸に刺さる短刀を握るケニーの腕を切断した。切断されたケニーの腕は楓の胸に腕ごと刺さってだらしなくぶら下がっている。楓は、自分の胸に刺さったケニーの腕と短刀を痛みを堪えながら一思いに一気に引き抜く。傷口からはドロッとした血液が飛び出している。
楓は膝を付いて、胸部を抑えた。出血が多いせいで顔色も青ざめ始めている。
ケニーもまさか自分の腕を切断されるとは思っていなかったのか、「およよ?」っと驚いた様子で、本能で察したのか楓から一旦距離を取った。
ケニーは切断された腕の断面をしばらく凝視してから、へへっ、へへっ、へへっと目の焦点は空を見上げてよだれを垂らして笑っている。しばらく、笑って鼻から大きく息を吸った。全身で大地の力を感じと取るように大きく手を広げて、体全体を大の字に広げた。
「きぃもちぇええ!」
目玉が飛び出そうな程、天に向かって咆哮したのもつかの間、口からだらんと垂らした舌をしまって急に真顔になった。
「こら、ケニーはしたないぞ。こっちもダメージを受けているんだ反撃しなさい」
真顔になったと思ったら今度は、また口から舌をだらんと垂らす。
「だってぇ、痛いの気持ちいぃんだもん。この快楽やめらんないねぇ」
「こりゃたまらん!」とケニーは声を裏返して、痛みという快楽を味わっていながら、ケニーはジャックとしばらくの会話を終えて、視線の先にいる楓に向けていった。
「不死身って良いなぁ。痛みを永遠に味わい続けられるんだから。ああ、僕も早く不死身になりたいよぉ」
楓は胸部と手を刺された痛みに堪えながら、小さく言った。
「どいつもこいつも…イかれてる」
お互いの体に刃物を刺して痛みを感じても文字通り温度差が激しかった。
楓はまだ出血は止まらない状態だがふらつきながら立ち上がり、快楽にヒクヒクしているケニーに向かって痛みを堪えながらまた攻撃を繰り出す。
懸命に攻撃する楓に対して、ケニーは自分の致命傷になる場所は避けつつ最大限攻撃を受けた。いや、時にはわざと当たりに行った。
ケニーがジャンプする度にばさばさと音を立てて揺れていたマントは足首まで長さがあったが、攻撃を受けている内に股間の下辺りで切られて、素足が見えた。
楓も想像していたが、足も腕同様に入れ墨だらけで本来の肌の色が殆ど見つからない。紫や青緑色でドクロやらバラやら勾玉のようなペイズリーが皮膚に所狭しと刻み込まれている。
しかし、攻撃を受け続けたケニーはあまりの痛みに両膝を地面についた。といってもその表情を見るにもはや快楽だけで死んでしまいそうなほど自身で至高の領域に到達している様子だった。もはや昇天している。
十分に快楽を満喫したケニーはゆっくりと立ち上がる。初めは地面を見ながら徐々に視線を上げて楓に視線を合わせた。
「はあーあ、久しぶりにこんなに気持ちよくなった。混血って意外とやるんだねぇ」
ほぅと静かな息を吐くように混血に対して感嘆の意を見せる。
と思ったら、ケニーは地面に尻をついて股間のあたりで砂遊びをしながらぽろっと思っていたことを漏らした。
「あの人間がもっと早く混血が誕生したことを知らせてくれたら今頃、僕は痛みを感じ放題だったのになぁ」
目の前に敵がいるというのに悠然と地面に視線を落として砂遊びをしているケニーに目を離さないようにしていた楓だったが、その発言に疑念を抱いた。
「あの人間?」
砂遊びに夢中になっていたケニーはまるで体に電撃が走ったように、急に顔を持ち上げた。
「こら! ケニーそれは言ってはいけない決まりだぞ」
「あれ? そうだっけ? でももういいんじゃない? だって、あれはもう始末するんでしょ」
何度見ても1つの肉体で行われているやり取りとは信じがたい光景に戸惑いがある楓だったが、警戒を忘れずそっと訊いた。
「お前達、何を言ってる」
「ほら、まだ気づいてないじゃん。ってことで、ギリギリセーフ」
楓の慎重な動作とは裏腹にケニーは楓を指差して自分に自分で言ってケラケラ笑っている。
「ふざけるな! 知っていることを話せ! でないと、今度はこの刀で心臓を貫く」
「いいよ、教えてあげる」
否定するのかと思いきやあっさりと言ってのける。
「ケニー!」
「いいじゃん別に。僕がコイツを捕まえればチャラ。それに、僕この子気に入っちゃった。僕の体内に取り込む前に1つくらいはお願いを叶えてあげようよ」
また瞬時に真顔になる。それから、深くため息を吐いて
「わかった。そう言うなら仕方がない。お前は口が下手だ、代わりに私が説明しよう」
今まで、ニタニタと笑って、ずっと広角を上げていたケニーからは想像出来ないほど、表情が一気に引き締まって真剣な顔つきになった。
「こうやって話すのは初めてだろう。私はジャックだよろしく」
「…」
急な変化に楓は念の為、片手で持つ刀を握る力を強めて警戒を強めた。楓はジャックが話している姿は見てきたがいざ話しかけられると、子供のような高い声のケニーよりも声も少し低くなって人生経験を多く重ねた、しっかりとした大人と会話しているような感覚になった。
ジャックはその容姿には似合わないほどに淡々と知性的な喋り方で語り始めた。
「ケニーが君を気に入った。つまり、私も君を認めよう。そのため、君が抱いている疑問にもお答えしよう。まあ安心したまえ、戦うのはケニーのほうが得意だ、いきなり手を出したりはしない」
ジャックは地面についた尻を持ち上げて、服についた砂を手で振り払った。楓は目の前のヴァンパイアの一挙手一投足を見逃すまいと、その言葉を信用せず、刀を構えたまま、さっさと本題に入るように目で訴えかけた。相手の言葉は鵜呑みにはせず最大限の警戒を保ち続けた。
「どうやら。挨拶は短いほうが良かったようだね。では、端的に結論から説明しよう。君が混血になる前、普通の人間として生活していた時だ。ヴァンパイアが行動できない陽が昇っている間、君という実験対象を誰が監視していたと思う?」
「誰? だと…もったいぶらずにさっさと答えろ」
ジャックは回答を急かす楓にフッと鼻で笑った。これから答えることを聞かせることが楽しみであるかのようだった。
「人間だ」
その回答を訊いた楓には、当然ながら衝撃が走った。ALPHAに協力する人間がいるのか? そんな疑問が即座に浮かび、ジャックに問いかけるとジャックはゆっくりとうなずいた。
「誰がお前たちなんかに協力してるんだ。お前らは人間だったら構わず殺すような奴ら。そんな奴らに協力する人間なんているはずがない」
ジャックは胸の前で両手を広げ、「まあ、落ち着いてくれ」と冷静だった。二人の間で温度感の差が徐々に広がってゆく。
言い切って息を荒げている楓に対して、ジャックは静かにゆっくりと語り始める。
「しかし、後に発覚したことだが、その人間は混血が誕生したとき私達に虚偽の報告をしてきた。私達を裏切ったのだ。モラドに混血を横取りされた理由はこれが原因だろう。君が今、私達と対峙してそこに立って生命活動を続けていられるのは言ってしまえば、その人間のおかげとも言える」
ジャックは自分自身で言ってることを自身で納得して得々と語る。
「我々はその人間を粛清しなくてはならない。これはルイ様の命令だ。そして私は今、それを実行することを決めた。組織がいらないと判断したんだ。丁度いい、君にその人間を会わせてあげよう。あの人間の臭いは覚えている」
ジャックは急に楓に背を向けて駆け出した。そして、ケニーが鬼ごっこをしていたときほどの速さではないが今いる地上のビル街から遠ざかるような方向に向かっている。
「待て! どこへ行く! …そっちは」
返事も返ってこないジャックにすぐに楓は後を追う。走りながら、視界のあちこちでゼロとALPHAが戦っているのが見えた。ALPHAの方が戦闘状況では押しているためゼロの人間が楓のすぐ近くで体を切られ、血しぶきを上げ、吸血されている光景がそこここで散見される。
立ち止まって助けなければいけない、そんな思いが楓にあったが今は目の前に敵を野放しにしておくことが最悪の事態につながると考えた楓は奥歯を噛み締め、迷いを振り払いジャックを追いかけた。
地上をしばらく走ってから、路地裏のマンホールに滑り込むようにジャックは入り楓も続く。そして、地下通路にでた。
ここでは戦闘は行われておらず地上の喧騒は嘘のように静まり返っていた。
地下通路では、コンクリートを叩くジャックの裸足と楓の革靴の音だけが響いている。しばらく同じリズムで音が聞こえたが、その音は、やがて止まり、ジャックの背中が楓に近づくとジャックはある人物の前で立ち止まっていた。
その人間は急に目の前に現れた入れ墨だらけのヴァンパイアにおびえて、足が震え逃げられないでいる。ケニーの大きな口がニッと頬まで広角が上がったことが楓は追いかける後方からも見えた。
ケニーは追いかけて、到着した楓に振り向き、トロンとした目をして、へへへといつもの表情に変わっていた。
「ジャックの方が性格悪いでしょ。混血倒す前に公開処刑するなんて、僕は思いつかなかったな」
「違うぞ。これは粛清だ、決して私の趣味ではない」
ケニーはその人間の首に手を回し、頭に短刀の切っ先を向けて構えている。その人間は、首に回された腕を振りほどこうと必死にもがいているがケニーの腕はびくともしない。
「君等の裏切り者ぉ。これから、ご対めーん」
ケニーがその人間を抱え込みながら楓の方に振り向いた時、その人間の姿が楓の前でようやく明らかになった。
「なんで…君が」
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