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第82話「それぞれの意志」
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東京都新宿区高層ビルが立ち並ぶこの新宿の中にゼロ本部30階建てのビルの屋上で鷹橋と山本は缶コーヒーを片手に眼下に広がる東京の街を眺めていた。
「鷹橋、珍しいな君から僕を呼び出すなんて。大きな戦いがあったばかりだからな何か悩みでもあるのか? 僕が力になれることだったら何でも言ってくれ」
鷹橋は手に持っている缶コーヒーに視線を落としてからしばらく考え込んだ後に言った。
「あの山本さん。僕、前にヴァンパイアって本当に悪者ばかりなんですかってきいたことありましたよね」
「ああ、そうだね。驚いたよ一体どうしたのかなって思ったさ」
「変なことを訊きますが、もしも…もしも、人間に味方するヴァンパイアが本当に存在していたらどう思いますか?」
山本はおかしなことでも訊いたかのようだったが、それでも若人特有の悩みに向き合おうとする大人の姿勢を見せた。
「あんな大規模な戦いがあった後だ、そう考えたくなるのはわかるよ鷹橋。確かに鷹橋の言う通り人を殺したがらないヴァンパイアは存在する。しかし、彼らが栄養にしているのは紛れもなく僕らの血だ。人間が彼らの食料とされている以上そう考えるのは現実的じゃないよ。僕らゼロがやるべきことは人間が安心して夜の街を歩けるように一匹残らずヴァンパイアを殲滅することなんだ」
山本は鷹橋に「そのために、次もA級目指してがんばれよ」と肩を叩いた。
屋上から落ち始めた夕日を眺めていた鷹橋は視線を下げて捕まっている手すりに視線を落としていた。そして、握っていた缶コーヒーの缶に力を入れて、アルミ缶が凹む音がした。
「でも、ヴァンパイアを全滅させるために戦うだけじゃ終わらないです」
山本は若者が言う無謀な将来の夢を冗談半分で応援するように言った。
「そうか。そういう時代が来たら良いね」
鷹橋は山本を見たまましばらく動かなかった。そして、意を決したように持っているアルミ缶を握りつぶした。
「実は…」
◇
「ねぇ烏丸さん。美波さんの部屋ってここであってるの?」
ユキは烏丸に訊ねると烏丸は頷いた。そして、ユキはその部屋を恐る恐るではあるがノックした。
すると、中から返事が聞こえる。烏丸とユキは目を合わせた。
中に入るとユキは思わず「キャッ!」と声を上げたと「すいません」と目を手で覆った。部屋の中にいた美波は風呂上がりでパンツを一枚はいているだけで他に何も身に着けていなかったからだ。かろうじて首からかけているタオルが胸元を隠しているが美波はそれ自体特に気にしていない様子だった。
「あら、あなたは」と当然のようにユキを見てから隣に立つ烏丸を見た。
「随分丸くなったのね。お友達と行動するなんて」
「まあ色々とあったので」
美波は鼻で笑うと来客に裸を見られても全く動じること無く悠然と着替えを始める。
「あの、さっきの話なんですけど…」
ユキが言いかけた時、美波はその話を予測していたように即答した。
「やってもいいわ。けど、やるなら坊やが死ぬことを覚悟しなさい。もし私が坊やと対峙したらたとえ貴方の友達だろうと元モラドだろうと迷わず殺すわ。奪還なんて考えない」
「でも…」
「でもじゃないの。貴方は知らないと思うけどそういう世界なのここは中途半端な覚悟で戦って勝てるような相手じゃないの。私はね余計な戦いに仲間を失いたくないのよ。これ以上何も話すことはないわ出ていって」
「空太ここが京骸さんの部屋でいいの?」
楓は立華にそう訊ねると立華は頷いて答えた。
楓はドアをノックする。中から返事は聞こえないが楓がドアノブを回してみると鍵は開いているようだった。楓はゆっくりとドアを開く。
すると、何かが楓の頬を掠めて通過した。楓は自分の頬を掠めたもののゆくへを見ると万年筆が矢のように壁に突き刺さっていた。
「何のようだ?」
京骸が投げた万年筆は楓の頬は少し切れて血がたれていた。楓は後方の壁から声のする方へ振り向く。
「さっきのことでお話に来ました」
「ALPHAは倒す。だが、竜太は救わない。それだけだ」
「京骸さん楓君はALPHAの上位クラスを一人で倒したんです。その功績に免じて協力していただけませんかね?」
「だからといってALPHAに落ちたヴァンパイアを救う理由にはならない」
楓は床に両膝を付いた。腰を低くして両手を床について京骸を見上げる。
「どうしても竜太を助けたいんです。お願いします。どうか力を貸してください」
「楓君…」
それを見た京骸は座っていた椅子から立ち上がり頭を下げる楓の元へと近づいてゆく。やがて楓の前で立ち止まって楓の頭頂部を見下ろす形になった。
黒いスーツ首元は緩めたネクタイとボタンを第2ボタンまで外したワイシャツ、そしてところどころちぎれているワイシャツはズボンにしまい込まれること無くすべて出されている。
京骸は頭を下げる楓の後頭部を踏みつけた。
「いい加減お友達ごっこは止めろ。お前らのそのごっこごときで組織を巻き込むな」
京骸は棚の上にある花を生けてある花瓶を手にとって、逆さまにして楓の頭に冷水を浴びせかけた。
そして、京骸は部屋を出ていった。それは話し合いをする気は全く無いという様子だった。
楓は濡れた頭をあげる。頬にピタリとついた葉を指でどける。
「楓君。こういうときもありますって。京骸さんもたまたま機嫌が悪かっただ…」
立華はなんとか楓を励まそうとした。そして、途中まで言った時。
「ダメだよ。説得しなくちゃ京骸さんや美波さんだったら絶対に竜太を殺してしまう。このままじゃ…」
楓がそう言いかけたときだった、洋館の来客を告げるベルの音が鳴った。
「鷹橋、珍しいな君から僕を呼び出すなんて。大きな戦いがあったばかりだからな何か悩みでもあるのか? 僕が力になれることだったら何でも言ってくれ」
鷹橋は手に持っている缶コーヒーに視線を落としてからしばらく考え込んだ後に言った。
「あの山本さん。僕、前にヴァンパイアって本当に悪者ばかりなんですかってきいたことありましたよね」
「ああ、そうだね。驚いたよ一体どうしたのかなって思ったさ」
「変なことを訊きますが、もしも…もしも、人間に味方するヴァンパイアが本当に存在していたらどう思いますか?」
山本はおかしなことでも訊いたかのようだったが、それでも若人特有の悩みに向き合おうとする大人の姿勢を見せた。
「あんな大規模な戦いがあった後だ、そう考えたくなるのはわかるよ鷹橋。確かに鷹橋の言う通り人を殺したがらないヴァンパイアは存在する。しかし、彼らが栄養にしているのは紛れもなく僕らの血だ。人間が彼らの食料とされている以上そう考えるのは現実的じゃないよ。僕らゼロがやるべきことは人間が安心して夜の街を歩けるように一匹残らずヴァンパイアを殲滅することなんだ」
山本は鷹橋に「そのために、次もA級目指してがんばれよ」と肩を叩いた。
屋上から落ち始めた夕日を眺めていた鷹橋は視線を下げて捕まっている手すりに視線を落としていた。そして、握っていた缶コーヒーの缶に力を入れて、アルミ缶が凹む音がした。
「でも、ヴァンパイアを全滅させるために戦うだけじゃ終わらないです」
山本は若者が言う無謀な将来の夢を冗談半分で応援するように言った。
「そうか。そういう時代が来たら良いね」
鷹橋は山本を見たまましばらく動かなかった。そして、意を決したように持っているアルミ缶を握りつぶした。
「実は…」
◇
「ねぇ烏丸さん。美波さんの部屋ってここであってるの?」
ユキは烏丸に訊ねると烏丸は頷いた。そして、ユキはその部屋を恐る恐るではあるがノックした。
すると、中から返事が聞こえる。烏丸とユキは目を合わせた。
中に入るとユキは思わず「キャッ!」と声を上げたと「すいません」と目を手で覆った。部屋の中にいた美波は風呂上がりでパンツを一枚はいているだけで他に何も身に着けていなかったからだ。かろうじて首からかけているタオルが胸元を隠しているが美波はそれ自体特に気にしていない様子だった。
「あら、あなたは」と当然のようにユキを見てから隣に立つ烏丸を見た。
「随分丸くなったのね。お友達と行動するなんて」
「まあ色々とあったので」
美波は鼻で笑うと来客に裸を見られても全く動じること無く悠然と着替えを始める。
「あの、さっきの話なんですけど…」
ユキが言いかけた時、美波はその話を予測していたように即答した。
「やってもいいわ。けど、やるなら坊やが死ぬことを覚悟しなさい。もし私が坊やと対峙したらたとえ貴方の友達だろうと元モラドだろうと迷わず殺すわ。奪還なんて考えない」
「でも…」
「でもじゃないの。貴方は知らないと思うけどそういう世界なのここは中途半端な覚悟で戦って勝てるような相手じゃないの。私はね余計な戦いに仲間を失いたくないのよ。これ以上何も話すことはないわ出ていって」
「空太ここが京骸さんの部屋でいいの?」
楓は立華にそう訊ねると立華は頷いて答えた。
楓はドアをノックする。中から返事は聞こえないが楓がドアノブを回してみると鍵は開いているようだった。楓はゆっくりとドアを開く。
すると、何かが楓の頬を掠めて通過した。楓は自分の頬を掠めたもののゆくへを見ると万年筆が矢のように壁に突き刺さっていた。
「何のようだ?」
京骸が投げた万年筆は楓の頬は少し切れて血がたれていた。楓は後方の壁から声のする方へ振り向く。
「さっきのことでお話に来ました」
「ALPHAは倒す。だが、竜太は救わない。それだけだ」
「京骸さん楓君はALPHAの上位クラスを一人で倒したんです。その功績に免じて協力していただけませんかね?」
「だからといってALPHAに落ちたヴァンパイアを救う理由にはならない」
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「どうしても竜太を助けたいんです。お願いします。どうか力を貸してください」
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それを見た京骸は座っていた椅子から立ち上がり頭を下げる楓の元へと近づいてゆく。やがて楓の前で立ち止まって楓の頭頂部を見下ろす形になった。
黒いスーツ首元は緩めたネクタイとボタンを第2ボタンまで外したワイシャツ、そしてところどころちぎれているワイシャツはズボンにしまい込まれること無くすべて出されている。
京骸は頭を下げる楓の後頭部を踏みつけた。
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「楓君。こういうときもありますって。京骸さんもたまたま機嫌が悪かっただ…」
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