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第71話「決闘」
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「わりぃな楓。これ以上話しても俺の意思は変わらない。ヴァンパイアになった時、お前に救ってもらった命とか言っといてこんな結果になったのはすまないと思ってる。でも、俺にもたまにはわがまま言わせてくれよ」
竜太も楓と同じく腰に携えた鞘から刀に手を添えた。その手はゆっくりとそして着実に伸びて次第に持ち手の部分を掴んだ。
「引く気はないんだね」
「当然だ」
お互いが鞘にかけた手を引いて鮮やかに黄緑色に光る刀を引いた。その鮮やかな光は月光が照らす深淵の夜にはよく輝いて強調して見える。
竜太は目をつむった。意識を集中して特訓で行ったように負の感情を脳内で再現し、制御する。すると、黄緑色に光るヴェードの刀は緑色に変化して刀を取り囲む光量もより一層増して輝きを強めた。
「お前も力を開放しろよ。その得体の知れないバケモノみたいな力を。ALPHAの実験とやらでチートみてぇな力を持ってんだろ?」
挑発するように言う竜太の言葉に楓は刀を握る手を強めて意識を集中させて力を開放しようと試みた。
楓の瞳は白目が赤くにごり始めた。しかし、それは一瞬だけでその後は潮が引くように白目を染めかけた赤い色は引いていった。
「なんでだ…」
竜太は一度登ったブロック塀を降りて軽やかに楓と同じ目線に着地した。
「それがお前の覚悟でいいんだな」
竜太は緑色に輝く刀を、そして楓は黄緑色に輝く刀をお互いに切っ先を向けて対峙した。
真っ白な白目に緋色の瞳を見せる楓。目をつむり意識を集中させた。この間、何度も自分が恐怖する光景を脳裏に思い浮かべてはみたが力が発芽することはなかった。今これほどに自分の力を自由自在に扱えない状況を悔いたことはなかった。可能ならばルーロで暴走したときのような圧倒的な力を持って竜太を半殺しにしてでもALPHAに行くことを止めたいとさえ楓は願っていた。
ただ、今この瞬間に力を発芽させない楓に発芽することを待ってくれる時間を竜太は与えるつもりは無いようだった。
切っ先を地面に向けて真正面から竜太は楓に向かってくる。
竜太は楓に向かって刀を振った。この攻撃は竜太がただの警告として冗談でやっているわけではない。そう思ったのは竜太が楓の首元を狙っていることを知ったときだった。
楓にいくらどんな攻撃を仕掛けたところで死ぬことはない。それでも、竜太は楓を殺す気で向かってきていることを楓は理解した。
楓がかろうじてそれを防御したが衝撃を吸収して手がしびれている。力の強さはヴェードの差の通り竜太の方に分があった。
「どうして…どうして竜太は変わっちゃたんだ」
竜太は緑に映える刀を肩の高さから足元の位置まで振り払った。そして、目を細めて刀を持っていない手のひらを見つめた。それは近くを見ているはずなのにどこか遠い目をしているようだった。
「俺は変わっちゃいないよ。ずっと、同じだ。ただ、新しい選択肢を見つけただけなんだよ。それがたまたまALPHAだった。それだけだ」
「納得いかないよそんなの。一緒に共存を目指そうって言ったじゃないか」
竜太は呆れたようにため息をついた。
「いい加減目を覚ましてくれ楓。共存なんかはなから無理だった。自分のために生きたほうが最も賢い生き方なんだ」
竜太は一歩ずつ楓に歩み寄る。静寂に包まれる夜中の空間に革靴がコンクリートの地面を踏む高い音だけが虚しく響く。
その音はやがて止まる。
「俺はな、死なないお前を羨ましいとまで思った。だって、どんな相手と戦っても絶対に負けないんだぜ? どんな病気にかかっても地上の太陽の光を浴びても生きていられるんだぜ? 死の恐怖から開放されるんだ」
はじめはおどけたように両手を広げて話していた竜太は話の後半に両目を見開いて楓を見つめた。まるで別人だった。そこに、楓が知っている今までの竜太を感じることはできなかった。
楓が刀を伸ばせば切っ先が肌に触れるほど竜太は近づいていた。お互いの赤く染まる瞳の視線が混じり合う。
そして、楓は首を横に振った。まるで竜太にそれをしっかりと認識させるかのようにゆっくりだった。
「そんなことない。僕は何度も今、死ねたら、逃げられたらどんなに楽になれるだろうって思った時があった。不死身でいることがいいなんてそんなことはないんだよ。苦痛が延々に続くのが不死身でいることなんだ」
「俺の気持ちがお前にわかんのかよ? お前は死なないからそんなこと簡単に言えんだよ。変わったのは俺じゃないお前の方だ。死なない力を手に入れて死という恐怖が無くなったお前の方が変わったんじゃないのか?」
竜太は刀にもう片方の手を添えた。これ以上話し合いをする気はないという様子だった。
楓もやむを得ずもう片方の手を刀に添えた。
それからすぐに、黄緑色の光と緑色の光がぶつかり合って鮮やかな弾ける光を真っ白な月光を背景に弾け飛ばした。
激しい打ち合いが続いた。そして、防御一辺倒だった楓を見かねて竜太は言った。
「戦う気はないのか? こっちは遠慮しないぞ。きっと俺がモラドとしてお前と刃を交える最後の機会になるかも知れないんだ」
楓は攻撃を受け流してから後方へ跳躍し竜太と距離を取った。それは竜太が一度に飛んでこれる距離を予測して多めに取った距離だった。
「僕は竜太を絶対に取り戻す。竜太が間違った道を選ぶなら僕はそれを全力で止める」
竜太はため息を吐いて呆れた。刀を片手で持ち換えてまごの手でも使うように刀の柄の部分で自分の肩を数回たたいた。
「勘違いしてるな」
そして、中腰になった瞬間楓の目の前に現れた。そして、刀の切っ先を楓の額に接する寸前まで持ち上げた。
「間違えた? 勝手に俺の価値観をすべて理解したみたいに言うなよ。お前に取って共存することが正なのかも知れないが今の俺にとってそれは正じゃない。俺は間違えた選択肢を選んだとは思ってないんだよ」
刀が楓の額に軽く当たる。額からは血が出て鼻の付け根でそれは2つに分かれて顔の表面を伝っていった。
しかし、楓は額に刀を突き付けられても動じることはなかった。
ゆっくりとまぶたを閉じてそして、肩を上下に小さく揺らし、元々色白い肌は次第に血が通っていないかのように青ざめ始めていた。
まぶたを上げた。
その瞳はルーロで暴走していたときのように白目の部分も赤く染まっている。
楓は額に突きつけられた刀を素手で掴んで振り払った。楓の手のひらは刀の部分を握りしめて出血しているがそんなことは全く意に介さない。
竜太は体ごと持っていかれそうになり、かろうじて地面に足を付けたまま状態で体が持ち上がることはなかったが少しよろついた。
楓は徐々に乱れていた呼吸を落ち着かせて最後に一つ大きく息を吐いてから言った。
「だったら半殺しにしてでも竜太を連れ帰る。竜太がどう考えていようが竜太に人殺しもALPHAの敷地一歩も踏ませはしない」
「そうかよ。随分と力を制御できるようになったんだな。俺より素質があるんじゃないか?」
竜太はこの時を待っていたかのように不敵に笑ってみせる。ただ、目の前の強大な力を前に嫌な汗が頬を伝っているのは竜太も自覚していた。
楓は竜太の問に答えることはない。その間、楓が握る刀から放たれる光が黄緑色から鮮やかな緑色に変わる。
それを確認した竜太は言う。
「これがお前と刃を交える最後の機会だ。せいぜい後悔するなよ」
お互いの刀は緑色に輝いている。同じヴェードだった。
竜太は立ち上がり刀を胸の前で構え直した。するとすぐに、地面に付いていた足元には小さな砂煙が上がった。楓に攻撃を仕掛けた。
無風の空間に強い風が吹いた。それは逆方向からぶつかった衝撃によって生じたものだった。
竜太は自分の出せる瞬発力をすべて出しきって最初の一歩目の足を踏み出した。その証拠にコンクリートの地面には日々が入っている。一撃で決着をつける…はずだった…。
楓は竜太の速さに反応して付いてくる。そして、刃を交え竜太は楓にはダメージを与えることはできない。
緑色の閃光がしばらくの間交わり続けた。辺りでは砂煙が立ち上る。あまりの速さに人物の形が歪んで見えるほどだった。常人の人間の目では二人の速さを捉えることができない。刀をぶつけたときの火花で二人の存在を視認できるほどだった。
身体能力やヴァンパイアとしての素質は今まで竜太の方が勝っていた。それでも、現在の力の差は楓の方が圧倒しているように見えた。同じヴェードの色の中でも力の差は存在する。それが如実にこの戦いでは現れているように見える。
砂煙が晴れて二人の姿を確認できた。片方が立ち、もう片方が地面に片膝を付いているシルエットが見える。
「お前と本気でぶつかるのは俺がヴァンパイアになったとき以来だよな」
地面に片膝を付く竜太は口元ににじみ出る血を手の甲で拭い取ってそう言った。
「そんなことはどうでもいい。僕は竜太を止める」
「雑談にもつきあっちゃくれないのか。まあ、いいや」
竜太は片膝に手を添えて立ち上がった。
それ以降、二人の勝負は楓が優勢だった。それでも竜太は持ち前の身体能力を駆使して半殺しにしようと考える楓に抵抗した。そして、そうはいかないまでも体力の消耗具合や体のダメージも明らかに竜太の方が劣勢に立たされていることが見て取れる。勝負はついたかのように見えた。
「このまま俺を抵抗できないようにするか?」
楓は無言でうなずき、竜太に馬乗りになって腹部に刀を突き刺す構えを見せる。
「これで終わりだ」
竜太は腹部に向けられる刀に動揺している様子はない。むしろ、あきらめに近い表情だった。
「そうか。お前の方がALPHAのチートみたいな力があるから強いのかもな。ルーロでお前を見た時、お前が俺よりも強いだろうなってことはなんとなくわかってたよ。適正が俺にあったとしても改良されたお前の方が強かった」
楓は竜太がそう言っていることをまるで聞こえていなかったように、そして、竜太が死なないように心臓を外した腹部を狙って刀を振った。
竜太は自分の思惑が楓に遮られたと確信して楓に殺されるならと敗北を決したようにうなだれている。勝負は着いた。はずだった…。
楓が竜太の腹部を狙って振り下ろした刀が素手で止められた。当然、その手は刀が指に食い込んで手の肉が裂けている。しかし、それでもそんなことは気にしていなかったかのように素手で楓の攻撃を止めた。
竜太も楓と同じく腰に携えた鞘から刀に手を添えた。その手はゆっくりとそして着実に伸びて次第に持ち手の部分を掴んだ。
「引く気はないんだね」
「当然だ」
お互いが鞘にかけた手を引いて鮮やかに黄緑色に光る刀を引いた。その鮮やかな光は月光が照らす深淵の夜にはよく輝いて強調して見える。
竜太は目をつむった。意識を集中して特訓で行ったように負の感情を脳内で再現し、制御する。すると、黄緑色に光るヴェードの刀は緑色に変化して刀を取り囲む光量もより一層増して輝きを強めた。
「お前も力を開放しろよ。その得体の知れないバケモノみたいな力を。ALPHAの実験とやらでチートみてぇな力を持ってんだろ?」
挑発するように言う竜太の言葉に楓は刀を握る手を強めて意識を集中させて力を開放しようと試みた。
楓の瞳は白目が赤くにごり始めた。しかし、それは一瞬だけでその後は潮が引くように白目を染めかけた赤い色は引いていった。
「なんでだ…」
竜太は一度登ったブロック塀を降りて軽やかに楓と同じ目線に着地した。
「それがお前の覚悟でいいんだな」
竜太は緑色に輝く刀を、そして楓は黄緑色に輝く刀をお互いに切っ先を向けて対峙した。
真っ白な白目に緋色の瞳を見せる楓。目をつむり意識を集中させた。この間、何度も自分が恐怖する光景を脳裏に思い浮かべてはみたが力が発芽することはなかった。今これほどに自分の力を自由自在に扱えない状況を悔いたことはなかった。可能ならばルーロで暴走したときのような圧倒的な力を持って竜太を半殺しにしてでもALPHAに行くことを止めたいとさえ楓は願っていた。
ただ、今この瞬間に力を発芽させない楓に発芽することを待ってくれる時間を竜太は与えるつもりは無いようだった。
切っ先を地面に向けて真正面から竜太は楓に向かってくる。
竜太は楓に向かって刀を振った。この攻撃は竜太がただの警告として冗談でやっているわけではない。そう思ったのは竜太が楓の首元を狙っていることを知ったときだった。
楓にいくらどんな攻撃を仕掛けたところで死ぬことはない。それでも、竜太は楓を殺す気で向かってきていることを楓は理解した。
楓がかろうじてそれを防御したが衝撃を吸収して手がしびれている。力の強さはヴェードの差の通り竜太の方に分があった。
「どうして…どうして竜太は変わっちゃたんだ」
竜太は緑に映える刀を肩の高さから足元の位置まで振り払った。そして、目を細めて刀を持っていない手のひらを見つめた。それは近くを見ているはずなのにどこか遠い目をしているようだった。
「俺は変わっちゃいないよ。ずっと、同じだ。ただ、新しい選択肢を見つけただけなんだよ。それがたまたまALPHAだった。それだけだ」
「納得いかないよそんなの。一緒に共存を目指そうって言ったじゃないか」
竜太は呆れたようにため息をついた。
「いい加減目を覚ましてくれ楓。共存なんかはなから無理だった。自分のために生きたほうが最も賢い生き方なんだ」
竜太は一歩ずつ楓に歩み寄る。静寂に包まれる夜中の空間に革靴がコンクリートの地面を踏む高い音だけが虚しく響く。
その音はやがて止まる。
「俺はな、死なないお前を羨ましいとまで思った。だって、どんな相手と戦っても絶対に負けないんだぜ? どんな病気にかかっても地上の太陽の光を浴びても生きていられるんだぜ? 死の恐怖から開放されるんだ」
はじめはおどけたように両手を広げて話していた竜太は話の後半に両目を見開いて楓を見つめた。まるで別人だった。そこに、楓が知っている今までの竜太を感じることはできなかった。
楓が刀を伸ばせば切っ先が肌に触れるほど竜太は近づいていた。お互いの赤く染まる瞳の視線が混じり合う。
そして、楓は首を横に振った。まるで竜太にそれをしっかりと認識させるかのようにゆっくりだった。
「そんなことない。僕は何度も今、死ねたら、逃げられたらどんなに楽になれるだろうって思った時があった。不死身でいることがいいなんてそんなことはないんだよ。苦痛が延々に続くのが不死身でいることなんだ」
「俺の気持ちがお前にわかんのかよ? お前は死なないからそんなこと簡単に言えんだよ。変わったのは俺じゃないお前の方だ。死なない力を手に入れて死という恐怖が無くなったお前の方が変わったんじゃないのか?」
竜太は刀にもう片方の手を添えた。これ以上話し合いをする気はないという様子だった。
楓もやむを得ずもう片方の手を刀に添えた。
それからすぐに、黄緑色の光と緑色の光がぶつかり合って鮮やかな弾ける光を真っ白な月光を背景に弾け飛ばした。
激しい打ち合いが続いた。そして、防御一辺倒だった楓を見かねて竜太は言った。
「戦う気はないのか? こっちは遠慮しないぞ。きっと俺がモラドとしてお前と刃を交える最後の機会になるかも知れないんだ」
楓は攻撃を受け流してから後方へ跳躍し竜太と距離を取った。それは竜太が一度に飛んでこれる距離を予測して多めに取った距離だった。
「僕は竜太を絶対に取り戻す。竜太が間違った道を選ぶなら僕はそれを全力で止める」
竜太はため息を吐いて呆れた。刀を片手で持ち換えてまごの手でも使うように刀の柄の部分で自分の肩を数回たたいた。
「勘違いしてるな」
そして、中腰になった瞬間楓の目の前に現れた。そして、刀の切っ先を楓の額に接する寸前まで持ち上げた。
「間違えた? 勝手に俺の価値観をすべて理解したみたいに言うなよ。お前に取って共存することが正なのかも知れないが今の俺にとってそれは正じゃない。俺は間違えた選択肢を選んだとは思ってないんだよ」
刀が楓の額に軽く当たる。額からは血が出て鼻の付け根でそれは2つに分かれて顔の表面を伝っていった。
しかし、楓は額に刀を突き付けられても動じることはなかった。
ゆっくりとまぶたを閉じてそして、肩を上下に小さく揺らし、元々色白い肌は次第に血が通っていないかのように青ざめ始めていた。
まぶたを上げた。
その瞳はルーロで暴走していたときのように白目の部分も赤く染まっている。
楓は額に突きつけられた刀を素手で掴んで振り払った。楓の手のひらは刀の部分を握りしめて出血しているがそんなことは全く意に介さない。
竜太は体ごと持っていかれそうになり、かろうじて地面に足を付けたまま状態で体が持ち上がることはなかったが少しよろついた。
楓は徐々に乱れていた呼吸を落ち着かせて最後に一つ大きく息を吐いてから言った。
「だったら半殺しにしてでも竜太を連れ帰る。竜太がどう考えていようが竜太に人殺しもALPHAの敷地一歩も踏ませはしない」
「そうかよ。随分と力を制御できるようになったんだな。俺より素質があるんじゃないか?」
竜太はこの時を待っていたかのように不敵に笑ってみせる。ただ、目の前の強大な力を前に嫌な汗が頬を伝っているのは竜太も自覚していた。
楓は竜太の問に答えることはない。その間、楓が握る刀から放たれる光が黄緑色から鮮やかな緑色に変わる。
それを確認した竜太は言う。
「これがお前と刃を交える最後の機会だ。せいぜい後悔するなよ」
お互いの刀は緑色に輝いている。同じヴェードだった。
竜太は立ち上がり刀を胸の前で構え直した。するとすぐに、地面に付いていた足元には小さな砂煙が上がった。楓に攻撃を仕掛けた。
無風の空間に強い風が吹いた。それは逆方向からぶつかった衝撃によって生じたものだった。
竜太は自分の出せる瞬発力をすべて出しきって最初の一歩目の足を踏み出した。その証拠にコンクリートの地面には日々が入っている。一撃で決着をつける…はずだった…。
楓は竜太の速さに反応して付いてくる。そして、刃を交え竜太は楓にはダメージを与えることはできない。
緑色の閃光がしばらくの間交わり続けた。辺りでは砂煙が立ち上る。あまりの速さに人物の形が歪んで見えるほどだった。常人の人間の目では二人の速さを捉えることができない。刀をぶつけたときの火花で二人の存在を視認できるほどだった。
身体能力やヴァンパイアとしての素質は今まで竜太の方が勝っていた。それでも、現在の力の差は楓の方が圧倒しているように見えた。同じヴェードの色の中でも力の差は存在する。それが如実にこの戦いでは現れているように見える。
砂煙が晴れて二人の姿を確認できた。片方が立ち、もう片方が地面に片膝を付いているシルエットが見える。
「お前と本気でぶつかるのは俺がヴァンパイアになったとき以来だよな」
地面に片膝を付く竜太は口元ににじみ出る血を手の甲で拭い取ってそう言った。
「そんなことはどうでもいい。僕は竜太を止める」
「雑談にもつきあっちゃくれないのか。まあ、いいや」
竜太は片膝に手を添えて立ち上がった。
それ以降、二人の勝負は楓が優勢だった。それでも竜太は持ち前の身体能力を駆使して半殺しにしようと考える楓に抵抗した。そして、そうはいかないまでも体力の消耗具合や体のダメージも明らかに竜太の方が劣勢に立たされていることが見て取れる。勝負はついたかのように見えた。
「このまま俺を抵抗できないようにするか?」
楓は無言でうなずき、竜太に馬乗りになって腹部に刀を突き刺す構えを見せる。
「これで終わりだ」
竜太は腹部に向けられる刀に動揺している様子はない。むしろ、あきらめに近い表情だった。
「そうか。お前の方がALPHAのチートみたいな力があるから強いのかもな。ルーロでお前を見た時、お前が俺よりも強いだろうなってことはなんとなくわかってたよ。適正が俺にあったとしても改良されたお前の方が強かった」
楓は竜太がそう言っていることをまるで聞こえていなかったように、そして、竜太が死なないように心臓を外した腹部を狙って刀を振った。
竜太は自分の思惑が楓に遮られたと確信して楓に殺されるならと敗北を決したようにうなだれている。勝負は着いた。はずだった…。
楓が竜太の腹部を狙って振り下ろした刀が素手で止められた。当然、その手は刀が指に食い込んで手の肉が裂けている。しかし、それでもそんなことは気にしていなかったかのように素手で楓の攻撃を止めた。
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