不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第58話「交流会」

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3人は大垣と共に地下1階から地上1階に上がりモラドの洋館に入ってすぐにある大きな扉を開くと中はパーティ会場のように広々としていた。
 会場にはヴァンパイアそして、人間がみな正装をしてグラスを片手に談笑している。

 会場に入った途端タケルは「お母さーん」と言って一人の女性のもとへと走っていった。そして、文五郎も「僕もパーティを楽しむよ」と言い残して同じような容姿のヴァンパイアのもとへ話しかけに行った。
 母親を見つけたタケルは嬉しそうにして母親の顔を見上げている。母とその隣で話している男性も楓たちに気づいて笑みを見せて軽く会釈をした。
「あの2人は医者なんだ」と大垣は会釈した2人に手を差し出して楓に教えた。
 楓は少し驚いたという様子だった。
「タケルのお母さんって医者だったですね」
 大垣は頷いて応える。
「私の病院と提携して彼らの病院もモラドの活動に協力してもらってるんだよ。協力してくれる医師はここに来ている人だと彼ら以外にも多くいる。だから、彼らの協力があって私達は安定した血液の供給ができるんだ。決して私一人の力では成し得ないことなんだよ」
「すごいですね。そんなに協力してくださる方がいるんですか」
 
 大垣は口角を上げて顔のシワを少し深めた。
「もちろん医療関係者以外にも私達に協力してくれる人はいるよ。例えば…」
 大垣は大勢の人の中から少し背筋を伸ばして行き交う人々を見渡してから一人を指差した。
 その人物は話している時の動作が激しい人で声が大きく楓たちの方まで声が聞こえてくる。その男性が話しているのは一人のヴァンパイアだった。
「彼はモラドのヴァンパイアが使っている銃や刀を作っている工場を運営している鉄山さんだよ」
 楓は大垣が鉄山と呼んだ老人を見た。彼はすでに歯が何本か抜けていて大きなだみ声が特徴的だった。そして、話しかけられているヴァンパイアはめんどくさそうにして頷いて話を聞いているだけだのように見えた。
 楓はその2人の会話が聞こえてくるので話を聞いていた。

「亮一郎久しぶりじゃねぇか。ついこの間まで俺と同じ年齢だったのに全く年取らねぇなぁオメェは」
 大垣が鉄山と呼んだ老人は亮一郎と呼んだヴァンパイアの肩に手を回して昔ながらの友人と会話するように馴れ馴れしく話している。そして、会話相手のヴァンパイアは億劫そうにして答えた。
「ヴァンパイアなんだから当然だろ。あと、気安く肩組むんじゃねぇよ」
 楓はその嫌がってるヴァンパイアに見覚えがあった。
「確か…京骸きょうがいさん? ですよね?」と楓は確かめるように大垣に訊いた。
 すると、大垣は頷いて、
「京骸君は昔鉄山さんの工場で働いていたんだよ。もちろん夜勤でね」と言った。
 
 楓は2人の会話を再び聞いた。
「あの頃よりたくましくなったなぁ。えぇ? うちで働いてたときはまだ頼りない青二才だったのになぁ。そうだ、うちの現場でまた新人が辞めちまってよ。だからいつでも人手不足なんだ、いつでも工場に戻ってこいよ」
 鉄山が京骸の肩を叩いて京骸は嫌そうにその手を振り払っていた。

 続いて、大垣が楓に紹介したのは白い割烹着を着て曲げた腰に手を回し、ふんふんと頷いて話を聞いている老婆を指差した。
「彼女は絹田きぬたさんだよ。我々モラドのスーツを作っている呉服店を営んでいるんだ。みんな絹婆きぬばあさんと呼んでいる」
 絹婆さんの前でペラペラと得意げに話しているのは立華だったその横にいるのは安中で遠目からでもわかるが立華の長話に付き合わされている事がわかる。安中はめんどくさそうにしているが絹婆さんは低い腰を頷きながら何度も揺らして話を聞いていた。
 

 そして、大垣は「今日、伊純君に紹介したい人がいてね」と楓に視線を送った。
「紹介したい人?」
 そして、大垣が楓に説明した人物は連堂と工藤に身振り手振りを交えながら何やら話していた。その人物は外見からすると20代前半くらいの大学生のように見えるが、天然パーマで黒縁のメガネに白いシャツに黒いジャケットを羽織っており服装は大人っぽさを感じさせた。
 3人は大垣と楓が見ていることに気がついて工藤と黒縁のメガネをかけた青年はこちらに手を振った。そして、3人は大垣と楓の元へ来た。
「久しぶりだな伊純」と連堂が言う。隣の工藤は連堂とは対照的で「おかえりー。怪我はなかった?」と心配していたようだったので楓は返答すると「よかった。貴重なサンプルだもんね」と工藤なりに慰めの言葉を放ったつもりだったが楓は少し複雑な心境だった。

「大垣さん。お久しぶりです! 以前お会いしたのは新規事業立ち上げたときでしたね」
「久しぶりだね西郷君。あの時の事業は順調かな?」
 西郷と呼ばれた青年は「もちろんですよ」と自信満々に胸を張った。
「えっと、そちらの方は?」
 西郷は大垣の隣に立っている楓を人差し指をクルクルと回しながら楓を指差した。
 大垣は楓の紹介を西郷にした。
「ワァーオ。君が噂の子か。初めまして僕は株式会社CATsCEOの西郷政清。これから付き合いが増えると思うからよろしくね」
 握手を求める西郷に楓はつられて手を差し出しすと西郷は楓の手を掴んで両手で手を握った。
「楓君すっかり有名人だね」と工藤が言ったが楓はちょっと嫌そうな笑みを見せた。
「おっ、楓君は恥ずかしがり屋さんだな~」と人差し指を回しながら西郷は楓を指差していった。

「伊純君、彼はね大学時代に起業してホログラム事業を拡大して今ではIT業界を牽引する会社の代表なんだよ」
「やめてくださいよ大垣さん。そんな事言われたら僕、照れちゃいますって」
 そうは言いつつも西郷は頭を掻いて満足気に笑っている。
 すると、連堂が鼻の下を掻いている西郷を上から見下ろしながら少し表情を緩めたあと大垣に言った。
「大垣さんCATsの方で例のロボが完成したようです」
 大垣はうんうんと頷いて西郷に「ありがとう」と礼を言って握手を求めた。
「いいんですよ。うちの会社の技術力を持ってすれば戦闘型ホログラムAIの作成なんてお茶の子さいさいですから」
 楓は目の前で繰り返される会話のキャッチボールを目で追っていたが頭の上に「?」が浮かんでいた。
「戦闘型ホログラムAI?」とついに聞き返した。

 そして、連堂が答える。
「お前たちが武闘会の遠征に行っている間に西郷に頼んで訓練ロボ作ってもらってたんだ。2週間後お前と新地をCATs管理下の訓練場で隔離してこちらで特訓を積んでもらう」
 まだ疲労が取れておらず目の下の隈を白い肌に滲ませている楓は状況が飲み込めていなかった。
「えっと、随分急に決まったんですね。2週間後ですか」と苦笑いを見せる。
「そうだ。立華から話を聞いたが旅の途中で知り合った者に鍛えてもらったんだろう。今回はその力試しだ。ホログラムAIは完成したばかりなので本日から2週間のテスト運用期間を経て正式に使用することになる」
 自社製品の実践を楽しみにしている西郷は好奇心に満ちた表情だった。
「そういうことだよ楓君。よろしくね。うちのエンジニアもちょっと労働時間が増えちゃってるけど一生懸命作ってるんだ。きっと満足のいく仕上がりになってるよ」
 そこまでされては楓は「ありがとうございます」としか言うことはできなかった。

 西郷は腕時計に視線を落とす。
「おっと、もうこんな時間だ。社内の定例会議の時間なんだもう行かないと。みなさん今日は楽しかったです。楓君後日また会えるのを楽しみにしてるよ」
 そう言い残して西郷は秘書らしき女性が西郷の元へやってきてスケジュール確認やら電話対応やらしながら会場をあとにした。 

 連堂は楓に残りの時間は自由に楽しめと言った。そして、連堂はさり際に背を向けて言う。
「交流会が終わったら2階に来い。お前に起こったことについて大垣さんと上位クラスのヴァンパイアで話し合いがある」
 そう言って3人はそれぞれ来客の対応に向かって行き楓はそこで取り残された。
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