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第57話「混血」

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「実は混血のヴァンパイアというのは今までの人間、そしてヴァンパイアの歴史の中で楓君だけじゃないんだ。その証拠にその手記を書いた私の先祖である大垣左之助もそこに書いてあるとおり混血のヴァンパイアに出会っている」
「それは本当ですか?」と楓は確かめるように訊くと大垣は深く頷いた。

「混血ははるか昔から存在している。一説には人間を創造した神とヴァンパイアを創造した神の間で生まれる神の子、なんて言われているんだ。もちろん科学の道で生きてきた私にとって信じがたいことだけどね」
「神の子?」と楓は聞き返す。楓の後ろに立っている文五郎は荒唐無稽だとでも言わんばかりに訝しんでした。
 それを確認した大垣が言う。
「冗談だと思うかも知れないね。そもそも、混血とは人間とヴァンパイアの間に生まれる子のことを言うが、単純に考えればそれだったら私達モラド内で混血が誕生していてもおかしくない。しかし、今までモラドに混血が誕生したことがないのが事実だ。それどころか人間とヴァンパイアが恋に発展することすら無かった。これはなぜだかわかるかい?」
 大垣は首を傾げて語りかけるように言うと、楓とタケルはしばらく思索を巡らせていたが二人の回答を待つまでもなく文五郎が答えた。
「根本的に違う生き物だからですよね」
 大垣は頷いた。
「その通りだよ。人間とヴァンパイアは容姿こそ似ているが体の仕組みは根本的に違う。ヴァンパイアの身体能力や生命力、人間の血液を主食とするところ日光に弱いところなんかそうだね。故に全く違う生物でありその2種が性行為を行ったとしても異種の卵子と精子は結合することさえないんだ」
「違う生き物が子供生んだらダメなの?」
 澄んだ瞳を大垣に向けるタケルは純粋にその問を知りたいと言わんばかりだった。
 そして、大垣は首を横に振り、タケルに目線を合わせるように腰をかがめて答える。
「ダメというわけではないんだよ。現に異種で子供を生んでいる実例はあるんだ。ただ、これはね生物学的に子孫繁栄、いや…子供を生んで家族を作ることに大きな問題が生じるんだよ」
 頭の上に「?」を浮かべるタケルに大垣は腰を浮かしてしばらく考えてから再びタケルに視線を合わせた。
 
「ライガーという動物を知ってるかい?」
 文五郎が答えようとしたがそれよりも先にタケルが顔を突き出して答えた。
「知ってるよ! ライオンとトラの子供でしょ?」
 大垣は自慢気に話すタケルに目尻のシワを深めて笑った。
 そして、大垣が「よく知ってるね」とタケルにいうと「この前動物園で見てきた」と鼻息荒くして言った。
「タケルくんの言う通りライガーはライオンとトラという異種の間で生まれた子供だ。しかし、このライガーは接合後隔離と言って生まれても生殖能力が欠如している。本来生物は生殖機能を持つことができなければ子孫を残すことはできないはずなんだ」
 タケルは「せいしょくきのうがけつじょって何?」と楓の顔を見上げて楓は慎重に言葉を選んでから言った。
「つまり、子供が作れないってことだよ。生殖機能が欠如していたらタケルのお父さんとお母さんからタケルは生まれてこなかってことだよ」と楓が説明するとタケルはぞっとした表情を見せる。

 そして、大垣は楓に視線を移してから続けて言った。
「しかし、楓君が17年前に生まれたと言うのは紛れもない事実だ。その証拠に混血である伊純君には親がいる。混血が子孫を残すことができるという時点で科学的には説明できないことなんだよ。だから、人間の神とヴァンパイアの神の間で生まれた子供という表現をしてるんだ」
「僕の親は混血ってことはどこかで生きているってことですか?」

「もちろん伊純君の両親が生きている可能性は高いだろう。私達も伊純君を保護してから両親の行方を探しているところなんだ」
 楓が少し期待の色を見せて「じゃあ…」と言いかけたが余計な期待をふくらませることをむしろ良くないと思ったのか大垣は楓の発言を全て聞き取る前に首を横に振った。
「残念ながら何も手がかりが見つかっていないんだ。伊純君の両親も混血である可能性が高いためALPHAもそれに気づいている可能性だってありえる」
 すると、文五郎は首を傾げてから大垣に視線を向けた。
「しかし、奴らが楓君の親が混血であることを知っていたとすると目的のために利用されているはずです。だから今回のように楓君を連れ去ろうなんて思わないはずでは?」と文五郎は顎に手を添えて思慮を巡らせながら言った。そして、大垣は頷く。

「そうなんだ。もし楓君の親が混血だと知っていたらALPHAの計画はすでに始動しているはず。しかし、楓君を取りに来ようとしていることから恐らくALPHAの元から逃走したか何らかの理由があってまだ見つけられていない、または実験に利用したが目的通りの結果が得られなかったというように考えている」
 まだ文五郎は顎に手を添えて考え込んでいる。
「そうですね。そう考えるのが妥当な線だと思います」
 大垣はテーブルの上に広げられている日記に視線を落としてから言った。
「伊純君の両親のどちらかが私の先祖が出会ったという混血の血族、もしくは本人である可能性が高いと私は考えているんだ。これで1つ目の回答になっているかな?」
 大垣は3人に向けて首を傾げた。そして、3人は頷いて応える。

 そして、文五郎は納得してから大垣に問いかけた。
「では、アガルタを照らす光の正体については」
 すると、大垣は申し訳無さそうに目をつむって首を横に振った。
「実はそれについて多くはわかっていない。しかし、2つだけ私から言えることがある。一つはアガルタの力の源と言われていることだ。ゲートやヴェードなど科学では証明できない力の源になっていると言われているけどね。そして、二つ目はあの光が昇りそして、沈む場所はある。そこは地下世界の東端に存在するバスティニアという国だ。そこは、ALPHAの本拠地である国でもある。しかし、申し訳ないが私達の今までの情報を持ってしてもあの光の正体は解明できていないんだ。はるか昔から存在していた地下世界と同時に誕生したといわれているけどそれも本当なのかはわからない」

「…そうですか」と文五郎は肩を落として言った。
 すると、大垣は落ち込む文五郎を慰めるように笑みを浮かべて言った。
「地下世界はまだまだ謎に満ちている。混血の存在もそして、その歴史も我々モラドが知らないことばかりだ。だから、今後調査を続けていけばその謎も解明できるはずだよ」
 文五郎は「僕も協力します」と言うと大垣は大きく頷いた。そして、大垣はテーブルに広げていた日記を引き出しにしまって、大垣が入ってきた回転扉のような本棚を半分ほど開いた。外の部屋の光が室内に溢れこんでくる。
「さて、今日は交流会だ。一階では伊純君に是非会ってみたいという人もいるんだよ。タケル君もお母さんが心配しているだろうから戻ろうか」
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