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第53話「目覚め」
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部屋の窓から差し込む光が部屋の中を明るく照らしている。
しばらくして、部屋に差し込むその光が楓の頬を照らした時、楓は飛び起きるようにして目を覚ました。
「ここは…」
部屋の中を見渡してみると真正面には両開きの大きな窓がありカーテンは開かれて煌々と輝く光が窓を透過して楓を照らす。楓はその光に目をしかめた。
眩しい光を手で遮りながら部屋の中を確認する。
壁には淡いオレンジ色の照明が付いていて、アンティーク調の備え付けの椅子が1脚にテーブルが1つ置いてある。部屋や家具のデザインはまるで英国風の洋館を思わせる。
ここは地上にあるモラドの洋館の一室である。故に窓から部屋に差し込んでくる光は太陽の光であり現在の楓は地下世界アガルタから戻り地上で人間の姿になっていた。
そして、楓が起きたことを図ったように木製のドアをノックする乾いた音が聞こえる。
楓が返事をするとガチャリと音を立ててドアノブが回り、ドアが開く。
そして、ドアをノックしていた人物の姿が見える。その人物は竜太だった。楓の記憶に新しい竜太の姿とは違っていて、かっちりと紺のスーツを身にまとい、スカイブルーのワイシャツを着込んでいる。そして、普段はしていないネクタイまでしてやけに正装だった。
楓は日が差し込む部屋に気づいて慌てて部屋のカーテンを締めて部屋の明かりをつけた。
竜太は「わりぃな」と礼を言って楓が眠っていたベッドに腰を下ろして一つ息を吐いてネクタイを緩めた。
楓はベッドの上に座った状態で竜太の背中を見つめている。
「3日も寝てたんだぜ。楓」
楓は驚いて思わず聞き返した。そして、竜太は寝すぎだっつの、と言ってから話を続けた。
「今日何があるか知ってるか?」
「…いや」
「普段お世話になってる人間たちとの交流会があるんだと。本当は俺ら武闘会に出て参加しないはずだったらしいけど予定よりも早く戻ってきたから参加できるんだってさ。だから、今地上のここに戻ってきてるわけだ。楓もあとで顔だしとけよ」
楓がなんとなく状況を飲み込んだように頷いている。楓にとってなぜ今ここにいるのかはどうやら理解しているようだ。しかし、それよりも知りたいことは楓の中にあった。そして、竜太もそれを察していた。
「これも重要なことなんだけど楓が今知りたいのはそれじゃないだろうな」
竜太は楓に向けていた背を腰をひねって後ろを振り向き、楓に視線を向ける。
「楓がキースと戦ったこと覚えてるか?」
楓は断片的に存在する記憶を手繰り寄せてそれが確かなものであるか自分で理解した上で答えた。
「闘技場に入って観客のヴァンパイアの死体を見たところまでは覚えてる。でも、それから今目覚めるまでの記憶が無いんだ。…本当に何も」
竜太は楓の回答が想像できていたかのようにそっかと軽く頷いてから再び楓に背を向けた。そして、竜太は腰をかがめて膝の前で両手を組んで話し始めた。
その内容は闘技場で楓の謎の力が暴走していたこと、キースを倒したこと、京骸というモラドのヴァンパイアに暴走を止められたこと。そして、仲間を傷つけたことを竜太の口から知らされた。
「僕がそんな事を…」
「ああ、それでも烏丸ちゃんここに来る途中、目が覚めてからお前のことずっと心配してたんだぜ」
楓はディアス家の地下で烏丸と交わした会話を思い出し、自分が烏丸を巻き込んでしまった自責の念と仲間を自分が傷つけてしまった自分の不甲斐なさに掴んでいたシーツを握る手を強めた。
「竜太を助けるって烏丸さんに無理言って闘技場に戻ってきたのになんてことしてるんだ僕は」
俯く楓を見かねた竜太はベッドに乗り出して楓に近づいて肩を叩いて言った。
「あんまり抱え込むなよ。烏丸ちゃん生きてるんだし、鬼じゃないんだから許してもらえるって。今、下の階で交流会にいるから後でしっかり謝っとけよ」
「そうだね、許してもらえるかわからないけどちゃんと謝っておく」
「ああ、それがいい」
つぶやくように言った竜太はあぐらをかいて天井を仰ぐようにして見る。
「正直さ、お前のあの力がなかったら俺らはキースに勝てなかったと思う。いくら楓が不死身って言っても正気の状態の楓も俺らもキースと戦力差は大きくあった。それに、京骸さんがたまたま助けに来てくれたけどお前がキースを倒してなかったら連れ去られるのに間に合ったかどうかわからない状態だったんだ」
「そのキースってやつはそんなに強い相手だったの?」
「ああ、空太が頑張ってくれてたんだけどダメだった」
竜太は膝の上で握っている拳に力を込めた。
「俺はそれを指をくわえてみてることしかできなかった。いたたまれなくて俺も戦ったんだけど傷一つけるどころかただ遊ばれてるだけで全く戦力にならなかったよ。そしたら、あの様だった」
竜太はキースに鎖で拘束されていた両腕に視線を落とした。
「きっと、ALPHAにはもっと強い敵がいるんだろうな。もっと…もっと強くならないとダメなんだよ。俺たちは」
そして、握る拳に力を強める。
竜太は握った拳の力を徐々に緩めて自分を落ち着かせるように一つ息を吐いた。
「しかしさあ、お前の力すごかったぜALPHAの上位クラスのヴァンパイア倒したんだから。俺と空太で戦ったけど全く刃が立たなかった相手だ。そいつを倒した楓はすごかったよ。すごかったけどさ、」
竜太は途中まで言いかけると天井から視線を下ろして床を見つめた。カーテンからわずかにはみ出ていた太陽の光が雲に隠れたのか弱くなって部屋の中がわずかに暗くなった。
「あの時のお前ははっきり言って怖かったな。楓が楓じゃないっていうか。二重人格みたいに楓の中に誰か違う人格が入り込んでるみたいで」
「違う人格」と楓はつぶやくように言って自分の手のひらに視線を落とした。
「あの時のこと本当に記憶ないんだな」
「全く無いんだ。意識が次第の遠のいていってようやく意識が戻ったらここで寝ていたから」
竜太は「したら、しゃーないよな」と記憶を探している楓に少し首を傾けて笑みを見せて、少し間を開けてから続けた。
「てかさ、楓闘技場に帰ってくるまでの間どこで何してたんだ? 楓がおかしくなったのは闘技場に返ってきたときだったろ。鋼星とどっかに消えたような気がしたからなにかあったのかと思ったんだけど」
「それは…」
楓は口ごもって回答することをためらった。
ディアス家で行われた実験のことやディアス家の地下で目の当たりにした死にかけのヴァンパイアたち。そして、鋼星の本性。自分が正体不明の暴走をして周りに迷惑をかけた事でこれ以上回りに心配をかけたくなかった楓はこれらのことを竜太に伝えることはしなかった。
心配した竜太は楓が考え込んでいる間を埋めるように更に話を続ける。
「なんか鋼星のやつ楓が不死身であることを感づいてたようだから変なことされなかったかと思ってさ」
楓は首を振って否定した。
「ううん、何もされてないよ。鋼星と一緒に避難してただけ。そこで、烏丸さんが来て僕はは闘技場に戻って鋼星はディアス家の様子を見に行くってそこから別れたんだよ」
竜太は「そうか。アイツもなんか不気味だったからそっちは大丈夫そうで良かったよ」と納得している様子だった。
すると、ドアの向こうから竜太の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「やべ、そろそろ行かないと」と竜太はベッドから腰を上げて緩めたネクタイを苦い顔をしながら引き締めた。
「まあ、なんだ。色々あったけどとにかく元気出せよ」
「うん。ありがと」
竜太はドアに向かって歩を進め楓に背を向けたまま手を降って部屋を出ていった。
すると、ドアの影から一人の少年が楓の事をじーっと不思議そうな目で見つめている。
しばらくして、部屋に差し込むその光が楓の頬を照らした時、楓は飛び起きるようにして目を覚ました。
「ここは…」
部屋の中を見渡してみると真正面には両開きの大きな窓がありカーテンは開かれて煌々と輝く光が窓を透過して楓を照らす。楓はその光に目をしかめた。
眩しい光を手で遮りながら部屋の中を確認する。
壁には淡いオレンジ色の照明が付いていて、アンティーク調の備え付けの椅子が1脚にテーブルが1つ置いてある。部屋や家具のデザインはまるで英国風の洋館を思わせる。
ここは地上にあるモラドの洋館の一室である。故に窓から部屋に差し込んでくる光は太陽の光であり現在の楓は地下世界アガルタから戻り地上で人間の姿になっていた。
そして、楓が起きたことを図ったように木製のドアをノックする乾いた音が聞こえる。
楓が返事をするとガチャリと音を立ててドアノブが回り、ドアが開く。
そして、ドアをノックしていた人物の姿が見える。その人物は竜太だった。楓の記憶に新しい竜太の姿とは違っていて、かっちりと紺のスーツを身にまとい、スカイブルーのワイシャツを着込んでいる。そして、普段はしていないネクタイまでしてやけに正装だった。
楓は日が差し込む部屋に気づいて慌てて部屋のカーテンを締めて部屋の明かりをつけた。
竜太は「わりぃな」と礼を言って楓が眠っていたベッドに腰を下ろして一つ息を吐いてネクタイを緩めた。
楓はベッドの上に座った状態で竜太の背中を見つめている。
「3日も寝てたんだぜ。楓」
楓は驚いて思わず聞き返した。そして、竜太は寝すぎだっつの、と言ってから話を続けた。
「今日何があるか知ってるか?」
「…いや」
「普段お世話になってる人間たちとの交流会があるんだと。本当は俺ら武闘会に出て参加しないはずだったらしいけど予定よりも早く戻ってきたから参加できるんだってさ。だから、今地上のここに戻ってきてるわけだ。楓もあとで顔だしとけよ」
楓がなんとなく状況を飲み込んだように頷いている。楓にとってなぜ今ここにいるのかはどうやら理解しているようだ。しかし、それよりも知りたいことは楓の中にあった。そして、竜太もそれを察していた。
「これも重要なことなんだけど楓が今知りたいのはそれじゃないだろうな」
竜太は楓に向けていた背を腰をひねって後ろを振り向き、楓に視線を向ける。
「楓がキースと戦ったこと覚えてるか?」
楓は断片的に存在する記憶を手繰り寄せてそれが確かなものであるか自分で理解した上で答えた。
「闘技場に入って観客のヴァンパイアの死体を見たところまでは覚えてる。でも、それから今目覚めるまでの記憶が無いんだ。…本当に何も」
竜太は楓の回答が想像できていたかのようにそっかと軽く頷いてから再び楓に背を向けた。そして、竜太は腰をかがめて膝の前で両手を組んで話し始めた。
その内容は闘技場で楓の謎の力が暴走していたこと、キースを倒したこと、京骸というモラドのヴァンパイアに暴走を止められたこと。そして、仲間を傷つけたことを竜太の口から知らされた。
「僕がそんな事を…」
「ああ、それでも烏丸ちゃんここに来る途中、目が覚めてからお前のことずっと心配してたんだぜ」
楓はディアス家の地下で烏丸と交わした会話を思い出し、自分が烏丸を巻き込んでしまった自責の念と仲間を自分が傷つけてしまった自分の不甲斐なさに掴んでいたシーツを握る手を強めた。
「竜太を助けるって烏丸さんに無理言って闘技場に戻ってきたのになんてことしてるんだ僕は」
俯く楓を見かねた竜太はベッドに乗り出して楓に近づいて肩を叩いて言った。
「あんまり抱え込むなよ。烏丸ちゃん生きてるんだし、鬼じゃないんだから許してもらえるって。今、下の階で交流会にいるから後でしっかり謝っとけよ」
「そうだね、許してもらえるかわからないけどちゃんと謝っておく」
「ああ、それがいい」
つぶやくように言った竜太はあぐらをかいて天井を仰ぐようにして見る。
「正直さ、お前のあの力がなかったら俺らはキースに勝てなかったと思う。いくら楓が不死身って言っても正気の状態の楓も俺らもキースと戦力差は大きくあった。それに、京骸さんがたまたま助けに来てくれたけどお前がキースを倒してなかったら連れ去られるのに間に合ったかどうかわからない状態だったんだ」
「そのキースってやつはそんなに強い相手だったの?」
「ああ、空太が頑張ってくれてたんだけどダメだった」
竜太は膝の上で握っている拳に力を込めた。
「俺はそれを指をくわえてみてることしかできなかった。いたたまれなくて俺も戦ったんだけど傷一つけるどころかただ遊ばれてるだけで全く戦力にならなかったよ。そしたら、あの様だった」
竜太はキースに鎖で拘束されていた両腕に視線を落とした。
「きっと、ALPHAにはもっと強い敵がいるんだろうな。もっと…もっと強くならないとダメなんだよ。俺たちは」
そして、握る拳に力を強める。
竜太は握った拳の力を徐々に緩めて自分を落ち着かせるように一つ息を吐いた。
「しかしさあ、お前の力すごかったぜALPHAの上位クラスのヴァンパイア倒したんだから。俺と空太で戦ったけど全く刃が立たなかった相手だ。そいつを倒した楓はすごかったよ。すごかったけどさ、」
竜太は途中まで言いかけると天井から視線を下ろして床を見つめた。カーテンからわずかにはみ出ていた太陽の光が雲に隠れたのか弱くなって部屋の中がわずかに暗くなった。
「あの時のお前ははっきり言って怖かったな。楓が楓じゃないっていうか。二重人格みたいに楓の中に誰か違う人格が入り込んでるみたいで」
「違う人格」と楓はつぶやくように言って自分の手のひらに視線を落とした。
「あの時のこと本当に記憶ないんだな」
「全く無いんだ。意識が次第の遠のいていってようやく意識が戻ったらここで寝ていたから」
竜太は「したら、しゃーないよな」と記憶を探している楓に少し首を傾けて笑みを見せて、少し間を開けてから続けた。
「てかさ、楓闘技場に帰ってくるまでの間どこで何してたんだ? 楓がおかしくなったのは闘技場に返ってきたときだったろ。鋼星とどっかに消えたような気がしたからなにかあったのかと思ったんだけど」
「それは…」
楓は口ごもって回答することをためらった。
ディアス家で行われた実験のことやディアス家の地下で目の当たりにした死にかけのヴァンパイアたち。そして、鋼星の本性。自分が正体不明の暴走をして周りに迷惑をかけた事でこれ以上回りに心配をかけたくなかった楓はこれらのことを竜太に伝えることはしなかった。
心配した竜太は楓が考え込んでいる間を埋めるように更に話を続ける。
「なんか鋼星のやつ楓が不死身であることを感づいてたようだから変なことされなかったかと思ってさ」
楓は首を振って否定した。
「ううん、何もされてないよ。鋼星と一緒に避難してただけ。そこで、烏丸さんが来て僕はは闘技場に戻って鋼星はディアス家の様子を見に行くってそこから別れたんだよ」
竜太は「そうか。アイツもなんか不気味だったからそっちは大丈夫そうで良かったよ」と納得している様子だった。
すると、ドアの向こうから竜太の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「やべ、そろそろ行かないと」と竜太はベッドから腰を上げて緩めたネクタイを苦い顔をしながら引き締めた。
「まあ、なんだ。色々あったけどとにかく元気出せよ」
「うん。ありがと」
竜太はドアに向かって歩を進め楓に背を向けたまま手を降って部屋を出ていった。
すると、ドアの影から一人の少年が楓の事をじーっと不思議そうな目で見つめている。
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