不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

文字の大きさ
上 下
45 / 126

第44話「狂楽④」

しおりを挟む
「アーニー辞めなさい!」 

 険しい顔つきで実験室に入ってきたのはアーノルドの父ディアス・バートンと母ディアス・ルーゼルだった。
 実験室の急な来客にアーノルドは顔を真っ青にしてたじろぐ。
「お、お父さん。お母さん。こ、これは違うんだよ。これはその…わけがあってね…」
「お前の言い訳なんか訊きたくない! なんでこんな事をしてるんだということだ。ちゃんと私とルーゼルに納得できるように説明しなさい!」
 バートンは頭の上から湯気が上がりそうなくらいの剣幕でアーノルドに怒鳴りつける。
 楓はいきなり目の前で繰り広げられる親子喧嘩をほぼ思考停止した状態で呆然と見つめていた。
 父、バートンは目の前で親子喧嘩が見られているなんてことは全く気にする様子もなく実験室の入り口からずんずんと歩いてアーノルドが持っている杭をむしり取るようにして奪い取った。
「お前というやつは親に黙ってこんな事をして、全く…」
 バートンは奪い取った杭を見つめる。そして、沸騰していた怒りが嘘のように消え失せて一つの溜息を吐いてから言った。

「全く羨ましい奴めぇ!」

 バートンは楓の方を向き、抑え込んだ怒りをこの一投に賭けるかのように野球ボールを投げるフォームで楓の額めがけてその杭を押し込んだ。杭はまるで、毛玉にまち針を指すようにプスッと入っていった。

「は?」

 楓は額に突き刺さる杭を緋色の瞳を上方に寄せて見上げる。
「あ~、お父さんずーるーいー。頭は僕がやりたかったのにぃ」
「こんな良いおもちゃを独り占めしてるお前が悪いんだぞ。さ、次はルーゼルがやりなさい」
 さっきまでのアーノルドを叱っていたバートンの表情は消えて無くなり嬉々として家族との談笑を楽しんでいる。その姿はまさに家族を愛する父親の顔をしている。
「あら? いいのかしら?」
 アーニーは逸る気持ちを抑えつつ親の意見には従ったようだった。
 しずしずともう一本の杭を手にとって楓に向かって歩くルーゼルに対し、アーニーは「どうぞどうぞ」と手を添えてお辞儀をする。
 ぷすり♡と杭を刺したルーゼルが終わった後、アーノルドはわずかに残る額の面積に杭を刺せる余白を楓の前髪をかき分けながら探して額を指の腹で叩いて狙いを意識した。
「せいやぁ~」
 楓の意識はバートンの杭が刺された時点でもう無い。
「うおぁーやべぇ。コウフンするぅ! うへぇーい。 ヤッバ!? チ●コびんびんになってきたぁ」
 アーノルドはパツパツに締め付けるの白ブリーフのゴムを広げて自分の局部を覗く。
「アーニーもまだまだ子供だな。このぐらいで興奮してしまうなんて」
 アーノルドは子供らしくテヘヘと満開の笑顔を見せる。
 そこでようやく、ディアス一家は楓が動かなくなったことに気が付いた。
「あれ? 壊れちゃったのかな?」とアーノルドは楓の体をなめるように見回した。
「これは壊れないんじゃなかったのか? もし壊れたら捨てるしか無いな」と父バートンは心配そうに眉を寄せて対応策について思索に耽る。
 すると、母ルーゼルは思いついたように手のひらに拳を落として言った。
「そうだわ。血を与えましょ! 機械でもオイルを入れたら動くでしょ? それと同じよ!」
 アーノルドとバートンは電撃が走ったように背筋を伸ばして「「ナイスアイディア、マム!!」」と親指を立てて親子同じポーズを取った。
 ルーゼルはどこからか持ってきたのか不明だが石油ストーブに石油を注ぐときに使うポリタンクのようなものを持ってきた。それは満タンに血液が入っているため外見は真っ赤に染まっている。
 力仕事は男の仕事よとルーゼルはアーノルドにそのポリタンクを授ける。
 四肢は切断され、白目を剥き、額には3本の杭が刺さって変わり果てた姿の楓にアーノルドはよいしょよいしょとシャツからはみ出る肉を揺らしながらポリタンクを引きずり、楓のそばに近寄る。そして、ポリタンクから出ているノズルを楓の口内に突き刺した。ノズルは初め喉の手前でつっかえたがアーノルドはノズルを回し込んで強引に体の中に押し込んでいった。
 アーノルドがノズルに付いているボタンを押すと電動音が鳴りポリタンクに溜まった血液が吸い上げられてノズルを通過し、楓の体内に強制的に注入される。
 すると、みるみるうちに楓の治癒しかけている腹は膨れていき1時間ほどが経過した辺りでその膨らみは萎んでいきいつもの細身の体に戻っていった。
 体に激痛が走り、手足が不自由になっている自分の状況を再度認識する。
 それは見たくなかった現実に間違いはない。

 

 楓は今までの出来事が夢であることを期待した。しかし、楓の視界に写る現実には楓の返り血で真っ赤に染まって談笑するディアス家の一家団欒を過ごすしている瞬間があるだけだった。
「ようやく元に戻った。やっぱ、血を与えないとダメなんだな。お父さん血液もっと必要になるからお小遣い増やしてよ」とアーノルドが言いバートンは「これは家族で飼うからその必要はない」と一蹴した。
 楓は「…血?」と短く聞き返すとアーノルドはキョトンとした。
「これのこと?」とアーノルドはポリタンクをひょいと持ち上げて楓の前に突き出す。
 ポリタンクの中には残り数滴だけの赤い液体が入ってるだけだった。
「それは?」と楓が問う。
「決まってんじゃん、人間の血液だよ。これは全部君が飲んだの。いや、飲んだと言うより直接注入したというのが正しい表現かもね。感謝してよ、昨日仕入れた人間の搾りたての血液なんだからな」とアーノルドはこともなげに言ってみせる。
「それを? 僕が…全部飲んだ?」
 信じがたいという表情で楓はぽつりぽつりと言葉を落としていく。 
「人の血を?」
 アーノルドは何を当たり前なことを訊いてくるのか? とでもいいたげに億劫そうな空返事だけしてから、テーブルを囲んで談笑する母と父の元へ去っていった。
 
「フフ…ハ、ハハ。ハハハハ」

 僕はあれを全て飲んだのか? ヒトの血を…提供されたものではなく殺されたヒトの血。コイツらに生命を絶たれたヒトの血。しかも昨日まで生きてたヒトの血。それを僕はあんなに飲んだのか?
 楓はふと立華が固形の血液を摂取した時の事を思い出した。
 その固形血液は楓が液体として摂取することに抵抗を感じているためモラドで特別に作らせたと言っていたものだったが、鋼星と行った特訓で大怪我をした楓だったがそれをたった2粒の摂取しただけで体の傷が癒えるスピードが早かったことを自覚していた。

 楓は拘束された体で視界が届く限り自分の体を確認すると、手足は繋がりえぐり取られた内臓も元に戻っている。

 笑みをこぼす楓にディアス家の3人は談笑を止めて憐憫のまなざしを送った。
「…こわ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

処理中です...