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第27話「同士」
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楓たちはルーロの武闘会に出場するためキエスからルーロまでの途中、シゼナという国でホテルに宿泊していた。
時は深夜3時をまわり楓は隣で鳴り響く轟音に目を覚ました。
竜太のイビキうるさいな。そう言えば、2年の修学旅行の時も竜太のいびきがうるさくて深夜に起こされたんだっけ。
部屋の明かりが消えて暗闇の中ではあるがヴァンパイアの視力で見えるのは隣で気持ちよさそうに眠る竜太だった。
楓はそれから何度か入眠を心がけるもののどれも不発に終わり諦めて風に当たろうと3人で泊る部屋を出ることにして、ゴウゴウといびきを立てる竜太とスウスウと子供のように寝息を立てる立華に気付かれないようにつま先立ちでドアまで歩いて、そうっとドアノブに手をかけてゆっくりと回し、最小限の隙間だけ確保して隙間から体を滑らせるようにして廊下へ出た。
すると、ちょうど楓が通路に出た時に隣の部屋305号室の扉が締まり烏丸が中に入っていくのが見えた。
烏丸さんこんな遅くに何やってるんだろう? でも、まだ会話したこと無いから訊くのは気まずいな。
楓は昼間の烏丸の無愛想な態度を思い出し、気づかれぬように咄嗟に物陰に隠れて305号室のドアが閉まるまで息を殺して待機していた。
烏丸はどうやら楓のことは気づいていなかったようでドアが閉まっても再び開けて出てくることはなかった。
それを確認するために数秒間の様子を伺った楓はもう一度305号室の扉が開かれないことを確認してから屋上へ続く階段へ向かって歩を進めた。
深夜にそんな出来事があってから辺りが薄明るくなった時間に楓は304号室の2人が眠る部屋にも戻り再び入眠を試みた。結果として、楓の入眠は成功してそれからぐっすりと眠ることが出来たようだった。
しかし、アガルタの日が出始めた頃に廊下で騒ぎ声が聞こえて再び楓の睡眠は邪魔された。
「お客様、料金を払っていただかなくては困ります」
昨日の夜フロントで聞こえた宿屋の従業員の声が3階のフロアで早朝にも関わらず大きな声を発していた、そしてなんだか慌ただしい。
楓はフロアに鳴り響くその声に短い睡眠を妨害されて再び目を覚ます。
「だから、金がないんだって。あ、そうだ。ここで働いたらいい? 力仕事だったら何でもするよ」
室内から聞こえる声では男がそう言っているのが聞こえた。
「いえ、それよりも宿泊代をお支払いください」
宿屋の女将は肉体労働を提案する男の提案を拒否して宿泊代の請求を懇願して瑠ようだった。
流石に、立華も竜太も目を覚まして立華が部屋の扉をゆっくりと開けてドアの隙間から外の様子を確認した。
宿屋の女将から逃げ続ける男は少し顔を出した立華に瞬時に気がついてすぐさま立華の元へ移動した。
「坊や頼む! 宿泊代を払ってくれ!」
初対面にも関わらず金をせびってくる様子はもはや目についた者であれば誰でもいいと言うほどだった。
そう頭を下げているのは、その体のシルエットは逆三角形をした筋骨隆々でタンクトップを着たその男は立華に土下座した。人間の年齢で言ったらおそらく10歳位は男の方が上になるだろう。
指だけ出すタイプの手袋をしたその両手を地面について盛り上がった上腕二頭筋が収縮し更に太さが増した。そして、彼は床に額を叩きつける勢いで土下座して大きな体を丸めているが、それ以上に彼の体はこの状況も相まってより小さく見えるような気がする。
立華は呆れた様子でため息を付く。
「たく、しょうがないでですねぇ。しっかり返してくださいよ」
立華は床に額を擦り付けるほどに土下座している男をニヤニヤと笑みを浮かべながら脳天をポツポツと人差し指で叩いた。
「空太、そんなヤツ放っておけよ。しかも、それもらった金だろ? ここで使うのはもったいないし、こいつが働いて返せばいいだけの話だろ」と竜太は言う。
しかし、立華は顔の前で人差し指を左右に振ってから竜太の耳元で小さく囁いた。
「恩は先に売っとくものですよ。後で何か良いことがあるかも知れないじゃないですか」
何やら怪しい微笑を浮かべて立華は恐らく経験則でそういうことを言っているのだろう。なんとなくそんな感じがする。
「烏丸さんもいいですよね?」と立華は言った。
「別にいいんじゃない」と腕を組んで手すりに寄りかかっていた烏丸はこの出来事に対してあまり興味を持っていなさそうな様子だった。
立華は竜太に話していたことは土下座する男に聞こえている気がしたがどうやら土下座している男は全く聞こえていないようで「くー! マジで感謝!」と叫び、喜びを押し殺していた。
「しっかり感謝してくださいね。まあ、ルーロまでの旅でもまだ余るくらいお金もらってるんで、一人分の宿泊費くらい出したって大丈夫ですよ。どうせあとで返してもらいますし」
立華は麻袋を手に取りジャリジャリを音を鳴らして小銭をかき集めその大男の宿泊費を払った。
その光景を土下座しながら上目遣いでその姿を見ている男のヴァンパイアは何度も何度も感謝を伝えるように床に頭を打ち付けた。
「あの、床の修理代が増えるので止めてもらえます?」
立華は至って冷静にそう言いうとそのヴァンパイアはようやく落ち着いた。
「本当にすまん! 金欠で困ってたんだ」
「いいですよ。顔上げてください」
「いやーまさか払ってもらえるなんて思ってなかったぜ。ホントにお前たちには感謝してもしきれないわな」
タンクトップのヴァンパイアはそう喋りながら当たり前のように楓たちの部屋にズカズカと入ってきて。屈託のない笑みを見せながら頭を掻いていた。
「なんでちゃっかり入ってきてんだよ」と竜太はすかさず突っ込む。
「いい人そうだしいいんじゃない」と楓が竜太をなだめた。
タンクトップのヴァンパイアは大きな手で楓の肩を掴みんだ。その大きな手は楓の決してたくましくはない肩を包み込むようだった。
だいぶ暑苦しい正確なんだな…。でも、悪いヴァンパイアではなさそう。
「ありがとう少年!」とそのヴァンパイアは言うとなにか思い出したようだった。
「そう言えば自己紹介してなかったな。俺は大胡鋼星。鋼星って呼んでくれ」
大胡鋼星と名乗ったヴァンパイアは白い歯を輝かせながら4人の前に親指を突き立てた。
そして、誰も聞いていなかったが鋼星は更に話を始めた。
「ルーロの武闘会に出るんだけどよ、一文無しだから馬車も捕まんないし泊まるところもないしまいったぜ。んで、走ってルーロまで行こうとしたんだけどな。無理だったんだわ」
鋼星はガハハと豪快に笑って顔の前で手を叩いて1人で盛り上がった。
「僕らが馬車で3日かけて行こうとした道を走っていこうとしたの?」
と楓が訊くと鋼星は当然のように力強く頷いた。
「俺らはとんでもない脳筋を引き入れたんだな」
竜太は鋼星の破天荒ぶりに少し呆れたようだった。
「ノウキン? なにそれ?」と少年のような純粋な表情を浮かべる鋼星に竜太は「いや、なんでも無い」と説明するのが面倒くさいと思ったのか説明を省いた。
「でも、奇遇ですねこの2人も武闘会に出るんですよ」と立華は弾むように言った。
「お! マジで! じゃあ一緒に武闘会に向けて特訓しよぜ! こういうのは多いほうが楽しいからな」
と鋼星は乗り気で2人を誘っていた。
「そうだ! すぐそこに空き地があるんだ。皆で行こうぜ。時間がもったいねぇ!」
鋼星はそう言うと両手の拳をバシバシとぶつけて何やら興奮気味のまま言った。
「鋼星くんはなんで武闘会に出るの?」と楓は気合十分の鋼星に言った。
「そりゃ強いやつと戦えるからだろ。それと…」
鋼星は途中まで言いかけると少し息を吸ってから言い直した。
「俺の雇い主が楽しみにしてんだよ。活躍しないと恥ずかしいとこ見せらんねぇからな」
「雇い主?」と楓は聞き返す。
「おう、俺は貴族様の使用人をしてんだよ。武闘会出るってご主人さまから休暇もらってここまで来てんだ。だから、全力で優勝を取りに行くぜ」
この世界にも貴族とかいるんだな。
「貴族って鋼星くんはどこの国の貴族に仕えてるの?」と楓が訊くと鋼星は真顔で答えた。
「フォンツだけど」
すると、立華が一瞬キョトンとした顔になってから言った。
「フォンツからルーロに行きたいならこっちは真逆ですよ。鋼星くんは方向音痴ですねー」
「マジかよ、鋼星面白すぎるわ!」
竜太は腹を抱えてゲラゲラと笑った。
そして、隣に並ぶ烏丸は首を横に振って呆れている様子だった。
「は? それどういうことだよ」
その事実をようやく知った鋼星は驚きのあまり目を丸くしていた。
「だからこういうことですよ」
立華はリュックから荷台で楓たちの前に広げた地図をもう一度鋼星の前で広げると、鋼星は硬直したように固まって何度も何度もフォンツからルーロのルートを地図上で指でなぞった。
「おい、まじかよ。俺は真逆に走り続けてたってことか」
「ええ、そういうことですね。まあ、お疲れさまです」と立華は表情を変えること無く淡々と答える。
すると、鋼星は「クソ!」と叫びながら頭をむしゃくしゃと掻きむしったがフーっと一息ついて表情を変えた。
「まあいいや。こうしてお前たちに会えたんだしこれはこれで運が良かった。うん、俺はツイてる!」
鋼星は自分で納得してから開き直った。
「恐るべき楽観主義だな」と竜太はポツリと言ったが鋼星が「ん?」と聞き返したが竜太は「なんでもない」と濁して余計なコミュニケーションを取るまいと会話を終了した。
鋼星は肩を上から下に落として深呼吸するようにまた大きく息を吐いた。
「これでルーロの位置もわかったし、それじゃあ皆で特訓しようぜ」
残酷な現実を突きつけられたのにも関わらず鋼星はまるで遊びを楽しもうとする少年のような瞳を輝かせたまま目の前の男3人を見渡した。そして、立華が言う。
「僕らもルーロに行くので着いてきてもいいですよ。それに、今日は元々特訓する日でしたから丁度いいですね」
「お! そうだったのか! そしたら俺がビシバシ鍛えてやるから安心しとけ」
そう言って鋼星はまた拳を叩きつけながらバシバシと音を立てた。
時は深夜3時をまわり楓は隣で鳴り響く轟音に目を覚ました。
竜太のイビキうるさいな。そう言えば、2年の修学旅行の時も竜太のいびきがうるさくて深夜に起こされたんだっけ。
部屋の明かりが消えて暗闇の中ではあるがヴァンパイアの視力で見えるのは隣で気持ちよさそうに眠る竜太だった。
楓はそれから何度か入眠を心がけるもののどれも不発に終わり諦めて風に当たろうと3人で泊る部屋を出ることにして、ゴウゴウといびきを立てる竜太とスウスウと子供のように寝息を立てる立華に気付かれないようにつま先立ちでドアまで歩いて、そうっとドアノブに手をかけてゆっくりと回し、最小限の隙間だけ確保して隙間から体を滑らせるようにして廊下へ出た。
すると、ちょうど楓が通路に出た時に隣の部屋305号室の扉が締まり烏丸が中に入っていくのが見えた。
烏丸さんこんな遅くに何やってるんだろう? でも、まだ会話したこと無いから訊くのは気まずいな。
楓は昼間の烏丸の無愛想な態度を思い出し、気づかれぬように咄嗟に物陰に隠れて305号室のドアが閉まるまで息を殺して待機していた。
烏丸はどうやら楓のことは気づいていなかったようでドアが閉まっても再び開けて出てくることはなかった。
それを確認するために数秒間の様子を伺った楓はもう一度305号室の扉が開かれないことを確認してから屋上へ続く階段へ向かって歩を進めた。
深夜にそんな出来事があってから辺りが薄明るくなった時間に楓は304号室の2人が眠る部屋にも戻り再び入眠を試みた。結果として、楓の入眠は成功してそれからぐっすりと眠ることが出来たようだった。
しかし、アガルタの日が出始めた頃に廊下で騒ぎ声が聞こえて再び楓の睡眠は邪魔された。
「お客様、料金を払っていただかなくては困ります」
昨日の夜フロントで聞こえた宿屋の従業員の声が3階のフロアで早朝にも関わらず大きな声を発していた、そしてなんだか慌ただしい。
楓はフロアに鳴り響くその声に短い睡眠を妨害されて再び目を覚ます。
「だから、金がないんだって。あ、そうだ。ここで働いたらいい? 力仕事だったら何でもするよ」
室内から聞こえる声では男がそう言っているのが聞こえた。
「いえ、それよりも宿泊代をお支払いください」
宿屋の女将は肉体労働を提案する男の提案を拒否して宿泊代の請求を懇願して瑠ようだった。
流石に、立華も竜太も目を覚まして立華が部屋の扉をゆっくりと開けてドアの隙間から外の様子を確認した。
宿屋の女将から逃げ続ける男は少し顔を出した立華に瞬時に気がついてすぐさま立華の元へ移動した。
「坊や頼む! 宿泊代を払ってくれ!」
初対面にも関わらず金をせびってくる様子はもはや目についた者であれば誰でもいいと言うほどだった。
そう頭を下げているのは、その体のシルエットは逆三角形をした筋骨隆々でタンクトップを着たその男は立華に土下座した。人間の年齢で言ったらおそらく10歳位は男の方が上になるだろう。
指だけ出すタイプの手袋をしたその両手を地面について盛り上がった上腕二頭筋が収縮し更に太さが増した。そして、彼は床に額を叩きつける勢いで土下座して大きな体を丸めているが、それ以上に彼の体はこの状況も相まってより小さく見えるような気がする。
立華は呆れた様子でため息を付く。
「たく、しょうがないでですねぇ。しっかり返してくださいよ」
立華は床に額を擦り付けるほどに土下座している男をニヤニヤと笑みを浮かべながら脳天をポツポツと人差し指で叩いた。
「空太、そんなヤツ放っておけよ。しかも、それもらった金だろ? ここで使うのはもったいないし、こいつが働いて返せばいいだけの話だろ」と竜太は言う。
しかし、立華は顔の前で人差し指を左右に振ってから竜太の耳元で小さく囁いた。
「恩は先に売っとくものですよ。後で何か良いことがあるかも知れないじゃないですか」
何やら怪しい微笑を浮かべて立華は恐らく経験則でそういうことを言っているのだろう。なんとなくそんな感じがする。
「烏丸さんもいいですよね?」と立華は言った。
「別にいいんじゃない」と腕を組んで手すりに寄りかかっていた烏丸はこの出来事に対してあまり興味を持っていなさそうな様子だった。
立華は竜太に話していたことは土下座する男に聞こえている気がしたがどうやら土下座している男は全く聞こえていないようで「くー! マジで感謝!」と叫び、喜びを押し殺していた。
「しっかり感謝してくださいね。まあ、ルーロまでの旅でもまだ余るくらいお金もらってるんで、一人分の宿泊費くらい出したって大丈夫ですよ。どうせあとで返してもらいますし」
立華は麻袋を手に取りジャリジャリを音を鳴らして小銭をかき集めその大男の宿泊費を払った。
その光景を土下座しながら上目遣いでその姿を見ている男のヴァンパイアは何度も何度も感謝を伝えるように床に頭を打ち付けた。
「あの、床の修理代が増えるので止めてもらえます?」
立華は至って冷静にそう言いうとそのヴァンパイアはようやく落ち着いた。
「本当にすまん! 金欠で困ってたんだ」
「いいですよ。顔上げてください」
「いやーまさか払ってもらえるなんて思ってなかったぜ。ホントにお前たちには感謝してもしきれないわな」
タンクトップのヴァンパイアはそう喋りながら当たり前のように楓たちの部屋にズカズカと入ってきて。屈託のない笑みを見せながら頭を掻いていた。
「なんでちゃっかり入ってきてんだよ」と竜太はすかさず突っ込む。
「いい人そうだしいいんじゃない」と楓が竜太をなだめた。
タンクトップのヴァンパイアは大きな手で楓の肩を掴みんだ。その大きな手は楓の決してたくましくはない肩を包み込むようだった。
だいぶ暑苦しい正確なんだな…。でも、悪いヴァンパイアではなさそう。
「ありがとう少年!」とそのヴァンパイアは言うとなにか思い出したようだった。
「そう言えば自己紹介してなかったな。俺は大胡鋼星。鋼星って呼んでくれ」
大胡鋼星と名乗ったヴァンパイアは白い歯を輝かせながら4人の前に親指を突き立てた。
そして、誰も聞いていなかったが鋼星は更に話を始めた。
「ルーロの武闘会に出るんだけどよ、一文無しだから馬車も捕まんないし泊まるところもないしまいったぜ。んで、走ってルーロまで行こうとしたんだけどな。無理だったんだわ」
鋼星はガハハと豪快に笑って顔の前で手を叩いて1人で盛り上がった。
「僕らが馬車で3日かけて行こうとした道を走っていこうとしたの?」
と楓が訊くと鋼星は当然のように力強く頷いた。
「俺らはとんでもない脳筋を引き入れたんだな」
竜太は鋼星の破天荒ぶりに少し呆れたようだった。
「ノウキン? なにそれ?」と少年のような純粋な表情を浮かべる鋼星に竜太は「いや、なんでも無い」と説明するのが面倒くさいと思ったのか説明を省いた。
「でも、奇遇ですねこの2人も武闘会に出るんですよ」と立華は弾むように言った。
「お! マジで! じゃあ一緒に武闘会に向けて特訓しよぜ! こういうのは多いほうが楽しいからな」
と鋼星は乗り気で2人を誘っていた。
「そうだ! すぐそこに空き地があるんだ。皆で行こうぜ。時間がもったいねぇ!」
鋼星はそう言うと両手の拳をバシバシとぶつけて何やら興奮気味のまま言った。
「鋼星くんはなんで武闘会に出るの?」と楓は気合十分の鋼星に言った。
「そりゃ強いやつと戦えるからだろ。それと…」
鋼星は途中まで言いかけると少し息を吸ってから言い直した。
「俺の雇い主が楽しみにしてんだよ。活躍しないと恥ずかしいとこ見せらんねぇからな」
「雇い主?」と楓は聞き返す。
「おう、俺は貴族様の使用人をしてんだよ。武闘会出るってご主人さまから休暇もらってここまで来てんだ。だから、全力で優勝を取りに行くぜ」
この世界にも貴族とかいるんだな。
「貴族って鋼星くんはどこの国の貴族に仕えてるの?」と楓が訊くと鋼星は真顔で答えた。
「フォンツだけど」
すると、立華が一瞬キョトンとした顔になってから言った。
「フォンツからルーロに行きたいならこっちは真逆ですよ。鋼星くんは方向音痴ですねー」
「マジかよ、鋼星面白すぎるわ!」
竜太は腹を抱えてゲラゲラと笑った。
そして、隣に並ぶ烏丸は首を横に振って呆れている様子だった。
「は? それどういうことだよ」
その事実をようやく知った鋼星は驚きのあまり目を丸くしていた。
「だからこういうことですよ」
立華はリュックから荷台で楓たちの前に広げた地図をもう一度鋼星の前で広げると、鋼星は硬直したように固まって何度も何度もフォンツからルーロのルートを地図上で指でなぞった。
「おい、まじかよ。俺は真逆に走り続けてたってことか」
「ええ、そういうことですね。まあ、お疲れさまです」と立華は表情を変えること無く淡々と答える。
すると、鋼星は「クソ!」と叫びながら頭をむしゃくしゃと掻きむしったがフーっと一息ついて表情を変えた。
「まあいいや。こうしてお前たちに会えたんだしこれはこれで運が良かった。うん、俺はツイてる!」
鋼星は自分で納得してから開き直った。
「恐るべき楽観主義だな」と竜太はポツリと言ったが鋼星が「ん?」と聞き返したが竜太は「なんでもない」と濁して余計なコミュニケーションを取るまいと会話を終了した。
鋼星は肩を上から下に落として深呼吸するようにまた大きく息を吐いた。
「これでルーロの位置もわかったし、それじゃあ皆で特訓しようぜ」
残酷な現実を突きつけられたのにも関わらず鋼星はまるで遊びを楽しもうとする少年のような瞳を輝かせたまま目の前の男3人を見渡した。そして、立華が言う。
「僕らもルーロに行くので着いてきてもいいですよ。それに、今日は元々特訓する日でしたから丁度いいですね」
「お! そうだったのか! そしたら俺がビシバシ鍛えてやるから安心しとけ」
そう言って鋼星はまた拳を叩きつけながらバシバシと音を立てた。
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