不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第18話「アガルタのALPHA」

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 時は楓と竜太が喜崎町の廃材置き場で襲われた時まで遡る。

 ◇

 竜太の横腹に突き刺した刀を引き抜き傷口からはドボドボと血が溢れ出し、竜太は力ない人形のようにうなだれる。

「その人間から離れろ」

 ヴァンパイアは刀を手のひらで回転させ、止めを刺そうとした時、そのヴァンパイアの後方からどすの利いた声でそう言う者がいる。竜太にまたがるヴァンパイアは刀を握る力を緩めて警戒しながらゆっくりと後ろを振り向く。
 
「連堂か。チッ厄介な奴が来ちまったな」
「だったらどうした? 俺とやり合うか?」
 白い隊服を着たヴァンパイアは竜太を一瞥した。そして、上半身と下半身が別れ臓物が無惨にも飛び散り、修復を始めている楓に視線を移した。
「このガキはくれてやるよ。好きにしろ」
 そのヴァンパイアは力なく横たわる竜太を蹴り上げると、竜太の体は持ち上がり連堂の前に横たわる。

 連堂が竜太に一瞬視線を移した事を確認したそのヴァンパイアは地面を蹴り上げ砂埃を立てて楓の方へ一直線に飛ぶように向かい、楓をつかもうとして腕を伸ばした。
 しかし、その伸ばした腕は楓に届くこと無く、肘から下は切断されぼとりと鈍い音を立てて落下する。楓をつかもうと腕は空振りし、バランスを崩して転がり積み上げられている木材に体を打ちつけた。
「聞こえなかったのか? 人間から離れろと言ったはずだ」
 青い閃光を残して連堂は刀を鞘にしまう。
 腕を切り落とされたヴァンパイアの腕の断面からは勢いよく血が吹きだし、地面に血溜まりを作った。しかし、徐々に回復して腕の傷口は修復され始めている。

「混血に一歩でも近づいたら次は左腕を切り落とす。覚悟はいいな?」
 連堂は鞘に収めた刀にもう一度手を添えて居合の構えをする。そして、そのヴァンパイアの額から滴り落ちる汗が頬を伝い地面に落ち自身の血溜まりに落ちて赤く跳ね上がる。
 そのヴァンパイアは連堂の手元に視線を固定したまま、一歩二歩と距離を取り、ゆっくりと刀を鞘に収める。そして、戦闘する気は無いことを残った片手と半分の腕を挙げて意思表示する。
 そして、連堂はそのヴァンパイアの一挙手一投足を見逃すまいと赤い瞳が射抜くように目の前の敵の動きを目で追う。
「おいおい、そんなに熱くなるなよ。無駄な争いはやめようぜ。話し合いをしようじゃないか。俺はお前に勝てないんだ。それに、お前はモラドのヴァンパイアだ戦いたいわけじゃないだろ?」
 そのヴァンパイアはジリと砂利が擦れる音を立てて足半個分ほど楓に近づいた。
「がぁぁぁああああああああ」
 またたく間に残っていたもう片方の腕は切り落とされ絶叫がこだまする。
「いい加減にしろクソが! お前ら人間と仲良しごっこがしたいだけだろがぁ。だったら混血は必要ないはずだ。おとなしくこいつを俺らに渡したらどうなんだよ」
 連堂は青く光る刀に付着した血液を薙ぎ払い、前方に立っているヴァンパイアに刀の先端を向けた。
「次は首だ。死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」
 動揺の色を隠せずにるそのヴァンパイアはまた、一歩二歩と距離を取り、勢いよく首を振って辺りを見回し始めた。
「おい! 居るんだろ! 見てないで出てこい。俺を援護しろ」
 木材が積まれたただけの空間に向かって唾を飛ばしながら叫んだ。
「そこにいた奴はすでに始末した。あとは、お前だけだぞ」
 連堂はゆっくりと両腕を失ったヴァンパイアに近づいていく。
「わかった。ここは引いてやるよ。でも、あいつを奪いに来るのは俺だけじゃねぇ組織の奴が必ずそこのガキを手に入れてやるからな。覚悟しとけよ」
 両腕を失ったヴァンパイアは楓に顎をしゃくってそう吐き捨て、後方にある3階建ての建設途中のビルの屋上にジャンプしてそのまま夜の闇に姿を消した。





アガルタALPHA本部にて。
 
「ルイ様、ご報告がございます」
 暗闇の中、ルイと呼ばれたヴァンパイアは淡い間接照明に照らし出された花瓶にいけられたバラの花を一本手に取り、味わうように匂いを嗅いでいる。
「混血が目覚めたんでしょ」
 手元だけ見える暗闇の中から聞こえる声は男性の声か、女性の声か男性にしては高い声だったように思える。
「はい」
「で? 報告はそれだけじゃないでしょ?」
 白い隊服の両腕部分が切り取られたように無くなっているヴァンパイアはひざまずいて怯えながら大粒の汗を流している。
「その…モラドのヴァンパイアに邪魔され混血を連れ帰ることはで来ませんでした」
「だろうね、そのざまを見れば分かるよ」
 ルイは口元を緩めて薄笑いを浮かべながらそう言った。
「大変申し訳ございません。次は必ずや混血を取り戻してみせます」
 ルイの前にひざまずくヴァンパイアはルイの言葉を訊くと即座に頭を地面にこすりつけるように下げた。
 ルイは三段ほどの階段をゆっくりと降りて、頭を下げているヴァンパイアを憂うような目で見下ろしながら近づいていく。
 そして、しゃがみ込み頭を下げるヴァンパイアの頭に色白い手を優しく添える。
「君、名前は?」
「志木崎と申します」
「そっか。志木崎君顔を上げて」
 銀色の髪型をした中性的な顔立ちをしている少年はそう言って、志木崎は頭を下げたまま安堵した表情を浮かべて顔を上げた。その瞬間、
「ガハァッ」
 ルイと呼ばれた少年の腕が志木崎の左胸を貫通し、志木崎の呼吸は荒くなる。
 志木崎は目玉が飛び出るほど目を見開き吐血し、ルイの白い隊服に赤い模様を付けた。

「君はわかってないね。君みたいな雑魚の代わりはいくらでも居るんだよ? そんな報告をしにわざわざ帰ってきたの?」
 ルイの志木崎に差し込んだ腕が力を入れたように筋肉が動くと志木崎は苦しそうにもがき、更に大粒の汗を額ににじませる。
「君の心臓、鼓動が早いね。弱いやつほど力の差にすぐ怯えるんだよ」 
 ルイは志木崎の心臓を握る力を徐々に強めていく。
 志木崎の顔から血の気が引いていき死人のように青くなり始めていた。
 ルイは志木崎の耳元でささやいた。
「力がないと命はこうやって簡単に亡くなっちゃうんだよ。君が不死だったら別なんだけどね」
「か、必ず混血を連れて帰ります。ですからルイ様、私にもう一度だけチャンスを下さい」
 ズボッと音を立ててルイは志木崎の腹から腕を引き抜き、ルイは腕についた汚れを振り払ってひざまずく志木崎に浴びせかけた。
 志木崎の腹からはドロッとした血液が溢れ出す。顔色を真っ青にして、やっと空気を吸ったように肩を上下に揺らしてゆっくりと立ち上がりルイの背中に向かって頭を下げる。
「では、失礼いたします」
 ルイは志木崎の方を振り返ることなく再び暗闇の中に姿を消した。




 柊、楓、竜太の3人は偵察に行ったヴァンパイアと合流すべく地上の合流地点へ向かっていた。
「柊君偵察に行ったヴァンパイアはどこに居るの?」
「そろそろ落ち合えると思うけど」
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