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第12話「地下の秘密」
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「連堂さん大事なこと言ってなかったんだね」
「大事なこと?」
「楓君はヴァンパイアと人間の歴史について連堂さんからなにか訊いたことがある?」
優しく問いかけるような声の柊に答えようとする楓はしばらく考え込んだようだが直近の記憶では心当たりは一つしか思いつかなかった。
「連堂さんじゃなくて工藤さんが昔ヴァンパイアと人間は協力して生活していたって訊いたけど」
柊はうんうんと頷いた。
「そうだね。その後ヴァンパイアは人間に追い込まれてしまうんだけど、どうしてそうなったか知ってる?」
楓はさっきの考え込んでいた様子とは違って質問を訊いてから答えるまでの時間が短くなっていた。
「たしか、鉄砲や爆弾の遠距離武器の発明で遠距離から弱点を狙えるようになったから人間がヴァンパイアを絶滅に追い込めたってことは学校の授業で習ったよ」
勉強があまり得意ではない楓でもそのことはテレビのニュースで何度も流れており人間の常識とも言えるくらい人間たちの間では浸透している知識であるため、楓はすぐに答えることが出来た。
「じゃあ今もヴァンパイアは見ての通り存在しているけど、どうして人間の武器が発達しても生き残っていると思う?」
まるで、一つ一つ段階を踏むように、そして理解を促すように質問してくる柊に歴史の授業を受けているような感覚になる。
楓は脳内にある数少ない歴史の授業で受けた記憶を再び探るようにして「うーん」と頭を抱えて唸っていた。
「これかな?」
楓は床に置いていた刀を指差した。
「ヴェードもヴァンパイアと人間の力の差を埋めた理由の一つだけど実はそれだけじゃないんだ」
また、唸りながら考える楓に答えが出なさそうだと見込んだ柊は地面を指差して楓に言った。
「地下だよ」
「地下?」
聞き返す楓に柊は頷いて話を続ける。
「そう。地下。僕らヴァンパイアは太陽の影響を受けない地下に住処を移して独自に文化を築いてきたんだ。モラドでは人間の協力もあったけどね」
急な柊の回答に一瞬、呼吸を忘れた楓は呼吸を思い出したようにして息が荒くなる。
その理由は、楓が人間として学校生活を送ってきて今まで教わってきたことにヴァンパイアが地下で文明を築いてるなんてことは教わったことがなかった。もちろん、楓が歴史の授業中いつも上の空であるため知らなかったわけではなく、学校の授業でもニュース番組でもヴァンパイアが地下に住処を移したという情報は教えられていない。
「ちょ、ちょっとまって、柊君。この更に下にヴァンパイアが暮らしてるってこと?」
楓は床を指差しながら言って、柊は表情を変えること無くただ淡々と「そう」と一言言った。
「地下では様々な国があって地下に存在するこれらを全てまとめてアガルタと呼んでるんだ」
まだ柊が言ったことを飲み込むことが出来ない様子の楓は更に質問を続けた。
「でも柊君。僕が学校で地下にヴァンパイアが文明を築いてるなんて訊いたことが無いんだけど…」
柊は「そうだね」と話す前に一言置いてから息を吸った。
「これ以上人間と戦えば全滅すると考えた当時のヴァンパイアたちは地上では勢力を失ったことにして、地下でひっそりと生きていく事を決めたんだ。だから、地下でヴァンパイア独自に文化を築くことを決めた」
「それでもゼロにアガルタの存在が見つかることはないの?」
「ゼロもアガルタの存在は知ってるよ。彼らも何度かアガルタに侵入を試みたんだけど彼らが着ているパワードスーツでも肉体が耐えきれずに来ることは出来なかったらしいよ。それに、これたとしても地下深くは地上と温度が違うから生身の人間じゃ耐え切れないと思うけどな」
「でも、ゼロはアガルタの存在を知ってるのになんで僕らには知らせなかったんだろう?」
「恐らく人間が生きてる地面の下でヴァンパイアがたくさんいるなんて言ったら国中が混乱するから情報は伏せてるんだと思うよ。多分、人間が思ってるヴァンパイアのイメージとして地下にいるなんてわからないだろうからね」
楓は次々に柊から繰り出される衝撃的な事実をゆっくりと自分の中に飲み込んでいく。
そして、今日あった出来事の記憶の糸を手繰り寄せるように何か思い出したようだった。
「もしかしてエレベーターのAgって書いてあったボタンはAghartaへ行くボタンだったってこと?」
「そうだねエレベーターでもアガルタに行くことができる」
「エレベーターでも? ってことは他にも行く方法があるの?」
そう聞き返すと柊はその質問を待っていたかのようにまた優しく微笑んだ。
「そう。アガルタと地上を直接つなぐゲートがあるんだよ。だから、今はエレベーターでアガルタに行くことは殆ど無いよ。ゲートのほうがエレベーターより早いからね」
「まさか、そんな物があったなんて…」
驚いた楓は言葉を失っていた。
「そうだ!」と柊は右手の拳を左手の手のひらに落とした。
「今から行ってみない?」
「どこへ?」
「アガルタだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地上1階の医務室での竜太と楓のやりとりから1日が経過して工藤が医務室を訪問していた。
「新地君だったよね? お腹すいてない?」
医務室のドアを開けて赤い液体の入ったコップを持ち、白衣を着た工藤がニコニコと笑顔を浮かべながら入室する。
その工藤を竜太はベッドに座って睨みつけるように見ていた。
「誰ですか?」
急な来訪者に竜太も少し警戒して怪訝な表情で尋ねる。
「私は大垣さんの病院でお手伝いをしてる工藤だよ。見ての通り人間です」とわざとらしく両腕を広げてアピールする。
竜太は一つため息をついた。
「病院の人が俺に何の用ですか?」
工藤は竜太の態度を意に介すこともなく「ふふふ」と笑みを浮かべた。
「お腹すいてないかなーと思って。これ飲むかい?」
工藤はベッドに座る竜太の前に立って、血液の入ったコップを竜太の方へ差し出した。
すると、竜太は不機嫌そうな表情を浮かべる。
「人の血なんて飲みたくないですよ」
一方、工藤は少し首を傾げて「でも、君はヴァンパイアだよ?」と竜太のことを見つめる。
竜太は血液を飲むことをしばらく拒絶していたが言葉とは裏腹に目の前に差し出される血液を前にお腹が鳴って、ヴァンパイアとして体が素直に反応していた。
その音を聞き逃さなかった工藤は「ほらね」とメガネを輝かせた。
「クソ。なんで人の血なんかに反応しちまうんだよこの体は」
拳を自分のももに叩きつける竜太。
「一口でいいから飲んでみなよ。丸一日何も食べてないんでしょ? せっかく生き返ったのにまた死んじゃうよ? 君は不死身のお友達とは違うんだから」
工藤は「ほれほれ」と言いながら、竜太の頬にくっつくほどコップを更に近づける。
「ちょっやめろって」
竜太の声が漏れたが、あまりに強引な工藤に根負けした竜太はため息をつき、そのコップを手に取り訝しんだ様子で鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
竜太は犬が水を飲むようにコップを斜めに傾けて舌先で血液をタッチするように軽く触れてからすぐに舌を引っ込めた。
舌先に触れた血液の味を確かめるように口の中をもぞもぞと動かしてから目を絞るようにつむってから、飲み込んだようで喉仏が一度下がってから元の位置に戻った。
舌先の血液を飲み込んだ竜太は手に持っているコップにもう一度視線を落とす。
始めは一口飲み、また口の中でもぞもぞと動かし、次にもう一口、そしてもう一口と繰り返していき次第にコップの中の血液は空っぽになっていた。
空っぽになったコップを見た工藤は竜太に小さく拍手を送った。
「おお、完食ー。いや、完飲か」
竜太は飲み干したコップをベッドのサイドテーブルに置いて、空になったコップを見つめる。
「人の血を美味く感じるなんて、本当にヴァンパイアなんですね。俺」
そして、竜太は腹部をさすりながら言った。
「人間じゃ完全に死んでる傷も治ってるし、完全にヴァンパイアの生命力だな」
「どう? ヴァンパイアとして生きていく覚悟は決まった?」
「まだなんとも言えないですよ。でも…」
竜太が途中まで言ってから工藤の方へ向いた。その表情は楓と話していた時に比べて少し顔色がいつもの竜太に戻りつつある。
「楓があんなに勇気あるやつだなんて思わなかったんです。医務室で話したときも俺にあんな顔を見せたのは初めてだったし、今まで俺に逆らうことなんて一度もなかったのに…」
竜太はあの時の出来事を思い出して、少しだけ表情が柔らかくなった。
「俺が殺されそうになった時、あいつがヴァンパイアの姿で命がけで俺のことを守ってくれたんです。そして、武器を持って一緒に戦った。逃げろって言ったんですけどね」
竜太は両手をベッドに手を付いてあの時の楓の姿が目の前にあるかのように天井を見上げた。
「アイツがヴァンパイアだったことは当然ビビりましたけど、体張って守ろうとするなんて昔のアイツからしたら考えられないんですよ」
「昔? 2人はいつから知り合いなの?」
「小学生の頃からです。楓ともう1人ユキっていう女子がいるんですけどそいつら俺の幼馴染なんですよ。小学生の頃から3人でいつも一緒に遊んでました」
「へぇ青春じゃーん」と工藤は羨ましそうな表情を浮かべる。
「楓は家庭環境とか生まれつき白い髪色やおとなしい性格もあって小学生の時からクラスのやつから嫌がらせを受ける事が多かったんです。だから、俺が楓のこと守ってやらなきゃって思って今までやってきたつもりでした」
竜太は両手を自分の膝を握るように添えて少し肩に力みがあるように見えた。
「でも、今回の出来事でいつの間にか守られていたのは俺の方で、しかも命まで助けられていたなんて…あいつはいつの間にか前に進んでたんですね」
さっきまで竜太をイジっていた工藤は真剣な表情に変わっていた。
「楓君も相当な覚悟があって君をヴァンパイアにしたんだと思うよ」
「…そうですよね」
「『僕が責任を負う』って涙流して言ってたもんね」
工藤はあの日の楓の真似をして若干嘲弄するように言った。
「それ楓に見せたら流石にあいつでも怒りますよ」
2人は張り詰めた空気が弾けるように笑った。
竜太は柔らかい笑顔から少し真剣な顔つきに戻った。
「でも、そんなあいつに救われた命です」
「そうだね。形は変わってもさ楓君が救ってくれた命だもんね」
「俺があいつに何が出来るかわかんないですけどあいつの成長をまだ見届けますよ」
竜太は工藤に白い歯をのぞかせた。
「君も成長しないとダメだからね」
工藤は腕を組んで竜太を見つめるが「あ、でも」と何か思いついたようにニヤリと笑みを浮かべた。
「君はヴァンパイアとして適正があるのかもね」
竜太は「適正?」と首を傾げて聞き返す。
「楓君が初めて血を飲んだ時、ゲロゲロ吐いてたけど君はそうじゃなかったからさ」
また、2人は表情を緩めた。
「大事なこと?」
「楓君はヴァンパイアと人間の歴史について連堂さんからなにか訊いたことがある?」
優しく問いかけるような声の柊に答えようとする楓はしばらく考え込んだようだが直近の記憶では心当たりは一つしか思いつかなかった。
「連堂さんじゃなくて工藤さんが昔ヴァンパイアと人間は協力して生活していたって訊いたけど」
柊はうんうんと頷いた。
「そうだね。その後ヴァンパイアは人間に追い込まれてしまうんだけど、どうしてそうなったか知ってる?」
楓はさっきの考え込んでいた様子とは違って質問を訊いてから答えるまでの時間が短くなっていた。
「たしか、鉄砲や爆弾の遠距離武器の発明で遠距離から弱点を狙えるようになったから人間がヴァンパイアを絶滅に追い込めたってことは学校の授業で習ったよ」
勉強があまり得意ではない楓でもそのことはテレビのニュースで何度も流れており人間の常識とも言えるくらい人間たちの間では浸透している知識であるため、楓はすぐに答えることが出来た。
「じゃあ今もヴァンパイアは見ての通り存在しているけど、どうして人間の武器が発達しても生き残っていると思う?」
まるで、一つ一つ段階を踏むように、そして理解を促すように質問してくる柊に歴史の授業を受けているような感覚になる。
楓は脳内にある数少ない歴史の授業で受けた記憶を再び探るようにして「うーん」と頭を抱えて唸っていた。
「これかな?」
楓は床に置いていた刀を指差した。
「ヴェードもヴァンパイアと人間の力の差を埋めた理由の一つだけど実はそれだけじゃないんだ」
また、唸りながら考える楓に答えが出なさそうだと見込んだ柊は地面を指差して楓に言った。
「地下だよ」
「地下?」
聞き返す楓に柊は頷いて話を続ける。
「そう。地下。僕らヴァンパイアは太陽の影響を受けない地下に住処を移して独自に文化を築いてきたんだ。モラドでは人間の協力もあったけどね」
急な柊の回答に一瞬、呼吸を忘れた楓は呼吸を思い出したようにして息が荒くなる。
その理由は、楓が人間として学校生活を送ってきて今まで教わってきたことにヴァンパイアが地下で文明を築いてるなんてことは教わったことがなかった。もちろん、楓が歴史の授業中いつも上の空であるため知らなかったわけではなく、学校の授業でもニュース番組でもヴァンパイアが地下に住処を移したという情報は教えられていない。
「ちょ、ちょっとまって、柊君。この更に下にヴァンパイアが暮らしてるってこと?」
楓は床を指差しながら言って、柊は表情を変えること無くただ淡々と「そう」と一言言った。
「地下では様々な国があって地下に存在するこれらを全てまとめてアガルタと呼んでるんだ」
まだ柊が言ったことを飲み込むことが出来ない様子の楓は更に質問を続けた。
「でも柊君。僕が学校で地下にヴァンパイアが文明を築いてるなんて訊いたことが無いんだけど…」
柊は「そうだね」と話す前に一言置いてから息を吸った。
「これ以上人間と戦えば全滅すると考えた当時のヴァンパイアたちは地上では勢力を失ったことにして、地下でひっそりと生きていく事を決めたんだ。だから、地下でヴァンパイア独自に文化を築くことを決めた」
「それでもゼロにアガルタの存在が見つかることはないの?」
「ゼロもアガルタの存在は知ってるよ。彼らも何度かアガルタに侵入を試みたんだけど彼らが着ているパワードスーツでも肉体が耐えきれずに来ることは出来なかったらしいよ。それに、これたとしても地下深くは地上と温度が違うから生身の人間じゃ耐え切れないと思うけどな」
「でも、ゼロはアガルタの存在を知ってるのになんで僕らには知らせなかったんだろう?」
「恐らく人間が生きてる地面の下でヴァンパイアがたくさんいるなんて言ったら国中が混乱するから情報は伏せてるんだと思うよ。多分、人間が思ってるヴァンパイアのイメージとして地下にいるなんてわからないだろうからね」
楓は次々に柊から繰り出される衝撃的な事実をゆっくりと自分の中に飲み込んでいく。
そして、今日あった出来事の記憶の糸を手繰り寄せるように何か思い出したようだった。
「もしかしてエレベーターのAgって書いてあったボタンはAghartaへ行くボタンだったってこと?」
「そうだねエレベーターでもアガルタに行くことができる」
「エレベーターでも? ってことは他にも行く方法があるの?」
そう聞き返すと柊はその質問を待っていたかのようにまた優しく微笑んだ。
「そう。アガルタと地上を直接つなぐゲートがあるんだよ。だから、今はエレベーターでアガルタに行くことは殆ど無いよ。ゲートのほうがエレベーターより早いからね」
「まさか、そんな物があったなんて…」
驚いた楓は言葉を失っていた。
「そうだ!」と柊は右手の拳を左手の手のひらに落とした。
「今から行ってみない?」
「どこへ?」
「アガルタだよ」
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地上1階の医務室での竜太と楓のやりとりから1日が経過して工藤が医務室を訪問していた。
「新地君だったよね? お腹すいてない?」
医務室のドアを開けて赤い液体の入ったコップを持ち、白衣を着た工藤がニコニコと笑顔を浮かべながら入室する。
その工藤を竜太はベッドに座って睨みつけるように見ていた。
「誰ですか?」
急な来訪者に竜太も少し警戒して怪訝な表情で尋ねる。
「私は大垣さんの病院でお手伝いをしてる工藤だよ。見ての通り人間です」とわざとらしく両腕を広げてアピールする。
竜太は一つため息をついた。
「病院の人が俺に何の用ですか?」
工藤は竜太の態度を意に介すこともなく「ふふふ」と笑みを浮かべた。
「お腹すいてないかなーと思って。これ飲むかい?」
工藤はベッドに座る竜太の前に立って、血液の入ったコップを竜太の方へ差し出した。
すると、竜太は不機嫌そうな表情を浮かべる。
「人の血なんて飲みたくないですよ」
一方、工藤は少し首を傾げて「でも、君はヴァンパイアだよ?」と竜太のことを見つめる。
竜太は血液を飲むことをしばらく拒絶していたが言葉とは裏腹に目の前に差し出される血液を前にお腹が鳴って、ヴァンパイアとして体が素直に反応していた。
その音を聞き逃さなかった工藤は「ほらね」とメガネを輝かせた。
「クソ。なんで人の血なんかに反応しちまうんだよこの体は」
拳を自分のももに叩きつける竜太。
「一口でいいから飲んでみなよ。丸一日何も食べてないんでしょ? せっかく生き返ったのにまた死んじゃうよ? 君は不死身のお友達とは違うんだから」
工藤は「ほれほれ」と言いながら、竜太の頬にくっつくほどコップを更に近づける。
「ちょっやめろって」
竜太の声が漏れたが、あまりに強引な工藤に根負けした竜太はため息をつき、そのコップを手に取り訝しんだ様子で鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
竜太は犬が水を飲むようにコップを斜めに傾けて舌先で血液をタッチするように軽く触れてからすぐに舌を引っ込めた。
舌先に触れた血液の味を確かめるように口の中をもぞもぞと動かしてから目を絞るようにつむってから、飲み込んだようで喉仏が一度下がってから元の位置に戻った。
舌先の血液を飲み込んだ竜太は手に持っているコップにもう一度視線を落とす。
始めは一口飲み、また口の中でもぞもぞと動かし、次にもう一口、そしてもう一口と繰り返していき次第にコップの中の血液は空っぽになっていた。
空っぽになったコップを見た工藤は竜太に小さく拍手を送った。
「おお、完食ー。いや、完飲か」
竜太は飲み干したコップをベッドのサイドテーブルに置いて、空になったコップを見つめる。
「人の血を美味く感じるなんて、本当にヴァンパイアなんですね。俺」
そして、竜太は腹部をさすりながら言った。
「人間じゃ完全に死んでる傷も治ってるし、完全にヴァンパイアの生命力だな」
「どう? ヴァンパイアとして生きていく覚悟は決まった?」
「まだなんとも言えないですよ。でも…」
竜太が途中まで言ってから工藤の方へ向いた。その表情は楓と話していた時に比べて少し顔色がいつもの竜太に戻りつつある。
「楓があんなに勇気あるやつだなんて思わなかったんです。医務室で話したときも俺にあんな顔を見せたのは初めてだったし、今まで俺に逆らうことなんて一度もなかったのに…」
竜太はあの時の出来事を思い出して、少しだけ表情が柔らかくなった。
「俺が殺されそうになった時、あいつがヴァンパイアの姿で命がけで俺のことを守ってくれたんです。そして、武器を持って一緒に戦った。逃げろって言ったんですけどね」
竜太は両手をベッドに手を付いてあの時の楓の姿が目の前にあるかのように天井を見上げた。
「アイツがヴァンパイアだったことは当然ビビりましたけど、体張って守ろうとするなんて昔のアイツからしたら考えられないんですよ」
「昔? 2人はいつから知り合いなの?」
「小学生の頃からです。楓ともう1人ユキっていう女子がいるんですけどそいつら俺の幼馴染なんですよ。小学生の頃から3人でいつも一緒に遊んでました」
「へぇ青春じゃーん」と工藤は羨ましそうな表情を浮かべる。
「楓は家庭環境とか生まれつき白い髪色やおとなしい性格もあって小学生の時からクラスのやつから嫌がらせを受ける事が多かったんです。だから、俺が楓のこと守ってやらなきゃって思って今までやってきたつもりでした」
竜太は両手を自分の膝を握るように添えて少し肩に力みがあるように見えた。
「でも、今回の出来事でいつの間にか守られていたのは俺の方で、しかも命まで助けられていたなんて…あいつはいつの間にか前に進んでたんですね」
さっきまで竜太をイジっていた工藤は真剣な表情に変わっていた。
「楓君も相当な覚悟があって君をヴァンパイアにしたんだと思うよ」
「…そうですよね」
「『僕が責任を負う』って涙流して言ってたもんね」
工藤はあの日の楓の真似をして若干嘲弄するように言った。
「それ楓に見せたら流石にあいつでも怒りますよ」
2人は張り詰めた空気が弾けるように笑った。
竜太は柔らかい笑顔から少し真剣な顔つきに戻った。
「でも、そんなあいつに救われた命です」
「そうだね。形は変わってもさ楓君が救ってくれた命だもんね」
「俺があいつに何が出来るかわかんないですけどあいつの成長をまだ見届けますよ」
竜太は工藤に白い歯をのぞかせた。
「君も成長しないとダメだからね」
工藤は腕を組んで竜太を見つめるが「あ、でも」と何か思いついたようにニヤリと笑みを浮かべた。
「君はヴァンパイアとして適正があるのかもね」
竜太は「適正?」と首を傾げて聞き返す。
「楓君が初めて血を飲んだ時、ゲロゲロ吐いてたけど君はそうじゃなかったからさ」
また、2人は表情を緩めた。
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