飛べない羽はただのゴミ

真冬

文字の大きさ
上 下
3 / 4

トラブル

しおりを挟む
 結果、圧勝した。
 なんなら大樹の森まで大差をつけて司会が言ってたちょっと怖い動物や昆虫とやらに戯れる時間すらあった。
 大樹の森を抜けた巨大都市アルティルスのビル群もなんなく通過して簡単に初戦突破。
 
 その後、順調に予選は行われ結局、準決勝まで残った選手は体育の授業の選考会で行われたタイム通りの結果となった。つまり、決勝で俺とロベルトが当たることになったってことだ。

 俺たちの名前が司会からコールされた時に会場はさらにボルテージが上がる。地響きのような歓声が俺たちの周囲の音をかき消して、その歓声を俺は体全体で感じてゾワっと鳥肌がったった。「自分が立ちたかった舞台はここなんだ!」と改めて感じる。握る拳の力が徐々に強くなっていく。
 初めは誰がうちの高校で速いとか、翔颯会についてもあまり興味があったわけじゃなかった。大空を翔ける瞬間が1秒でも長く続けられるところ。それがこの高校だった。だけど、今は少し違う。もっと速く、全力で飛んで速そうなやつをどんどん抜いていきたい!

 俺とロベルトは校庭の選手が立つスタートラインの近くに二人並んだ。
 ロベルトの名前は実績十分だから名前はよく聞いていたけど初めてロベルトを横で見る。改めて見ると整った顔立ちをしていて俺より少し背が高くて翼も少し大きい。この予選で今まで対戦してきた選手の中で最も雰囲気のある奴だ。

 しばらくロベルトを見ていると自分のことを見ている俺に気がついたのか目が合った。
 そして、目つきが変わり俺を見下ろした。
「よおぉ、速峰コウ君」
 手を差し出してないのにロベルトは俺の右手を無理やり掴んで自分の元へと引き寄せた。引っ張られて俺は前のめりになる。そして、顔を近づけて耳元でつぶやいた。
「俺より速いんだって? よ・ろ・し・く・な」

 なんだ? こいつ。見た目と実際に話してみて感じるオーラというか雰囲気がまるで違う。
 見た目は爽やかなイケメンなのに話してみて感じるのは何かジットリとした
俺の中身に何かこびりついてくるようなベトっとした感じ。喉の奥がピリッとした。

 そうこうしているうちに司会が俺らをスタート位置に着くように指示をするので、指示された位置に俺たちはスタンバイする。
 そして、スタートを告げる司会の号令。

 二人が立っていた位置には大きな砂埃だけを残してお互いの選手がスタートする。
 学校を飛び立ってから初めは直線コース。校庭で俺たちを囲んでいた生徒の塊がみるみるうちに遠ざかって小さな粒みたいになっていく。
 しばらく進んでも俺とロベルトはほぼ肩を並べてい飛んでいる。正面には起きな雲の塊があり俺はたちはその雲の中に突っ込んでいく。隣にいたロベルトの姿は雲で見えないが今のところ順調だ。

 雲を抜けたのは…
 俺の方が先だった。
 ロベルトは俺の体一つ分くらい遅れて雲から出てきた。
「チッ! 調子乗りやがって!」
 後ろでロベルトが叫んでいる声が飛んできた。俺は後ろで飛んでるやつに哀れみの意味を込めて一瞥をくれてやるとさらに加速して突き放す。
 ロベルトも大したことない!

 もっと、もっと速く!

 学校を出てから大樹の森付近まではロベルトに大差をつけていた。そして、しばらくすると校庭のモニターで見た柵で覆われた森。「大樹の森」を見つけた。
 大樹の森入口では人一人ぐらいが入れるぐらいのスペースが空いていて「大樹の森 入口」と書いてある。予選で通ってきたコース。俺はそのまま速度を後さずに大樹の森に入る。
 大樹の森では不規則に木々が生えているので最短距離で森を抜けるには幅が極端に狭かったり広かったりするところを柔軟に体を動かしながら掻い潜っていかなければいけない。おまけにそこ生息する動物たちがいるのでそいつらも避けなければならない。

 順調に来ている。
 が、森の中間くらいに来たところだった。
 なぜか視界がぼやけていた。
 なんだ? 疲れ? そんなわけない。

 意識が朦朧とする、すると急に視界が真っ暗になって何も見えなくなった。
 視界が絶たれた途端、体が急に後ろに引っ張られる。最初は何のことかよく分からなかった。しかし、じわりじわりと背中に鈍い痛みが広がっていく。何が起きたのかわからないけど、背中に受けた衝撃が遅れて広がる。
 まるで背中全体の皮膚が引き剥がされるようなとんでもない激痛で背中に翼がついているのかどうかもわからないほどだった。

 落ちていく。落ちていく。
 翼の感覚がない。ただ、自分が落下していることだけはわかる。
 翼を動かさないと。
 しかし、自分の意思に反して翼が動かない。
 このままじゃやばい! 
 顔に何かわさわさとしたものが当たった。ボツボツとしたものが背中に刺さる。かしゃかしゃかと音を立てて俺は落下していた。背中で砂の感触を感じる。きっと、今地面に倒れているのだろう。
 自分が落下したことに気づいてからようやく視界がぼんやりと見えるようになった。
 俺の視界の先には大樹の森の天井まで届くのではないかと思うほど背の高い木が2本横に並んでいた。2本の大木の間は人一人通れるかどうかの狭さだった。その狭さでは当然俺の翼を広げた状態で、体制を変えることなく真っ直ぐ通過できる隙間ではない。
 俺の背中で激痛が走った時、両翼が何かに引っかかったような気がした。おそらく、俺の視線の先で聳え立つ大木二つの間に翼が当たったのだろう。
 仰向けに倒れている俺の視線から少し右にやるとまるでこの大木の子供みたいに、小さな木が一本生えている。
 状況と肌で感じた感覚から察するにこの小さな木がクッションになっていたのだろう。
 
 額が少し冷たい、拭ってみると流血していた。翼も動かそうと思っても全く力が入らない。こんな高さから落下して命が助かっただけでも奇跡みたいなもんだ。

 どうする? どうしたらいい? 翼は全く動かない。
 でも、ロベルトには絶対に負けたくない。
 俺は体を返してうつ伏せになり、両手を地面について起き上がろうと体に力を入れる。右腕は全く力が入らない。骨が折れてるんだ。力の入らない右腕を体のバランスを取るためだけに地面に添えるだけにして、左腕だけでなんとか起き上がる。
 立ち上がると右足も思うように動かない。やっぱり片足の骨も折れてる。
 俺はなんとか足を引きづりながら一歩一歩少しずつ大樹の森の出口に近づいていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...