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ヒーローは唐突に

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 睡眠薬が効き、グラリと倒れかけたルヴィアをライードは抱き上げた。

「ふっ、これほど簡単にいくとはな」

 コイツはじゃじゃ馬だから、帰ったら躾も必要だろう。魔法具をつかい、指定していた座標へ跳ぶ。

 国へ連れ帰り、ベットの上で驚き暴れるルヴィアを組み敷く様子を想像して、クッとライードは唇を笑みの形に吊り上げた。

「……あ、る……」
「アルだと? お前のいる場所はそこじゃない。帰ったらしっかり教え込んでやろう」

 これも、要らないな。そう呟いたライードは、ルヴィアの首にかけられていたネックレスをブチッとちぎる。

 あの首飾りからは嫌な臭いがした。大方アルバルトが貧弱な魔法でも使っているのだろう。

「陰険な奴だな」

 ボソッと呟かれた言葉。それに返す者は普通ならいないはずだ。しかし、すぐに返答がある。

「君ほどじゃないけどね?」
「なっ!?」

 背後には窓しかない。ライードが今いる場所はイオディア王国内にあるアジャルハ帝国の密偵たちの隠れ家だ。

 幾重にも張り巡らされた魔法具により、侵入は不可能となっているはずなのに……

「なぜ、ここにいる」
「知りたい?」

 ふざけたことを抜かすアルバルトに、当たり前だとライードは返した。

「貧弱な魔法如きでこの場所に入り込めるわけがない」
「へぇ、貧弱かぁ……酷い言いようじゃないか」

 ピクッと片眉を釣り上げ、アルバルトはにっこりと笑みを浮かべて呟く。

 ーーここに来れた理由は、君がルヴィアから外した首飾りのお陰だよーーと。

「魔法で転移ができると? ふざけてるな」

 ハンっと鼻で笑ったライードに、アルバルトはゆっくりと近づく。

ーー瞬間、ライードの腕の中にいたはずのルヴィアが何故かアルバルトの腕の中にいた。

「おい、何をした」
「何って君の言う"ふざけている魔法"でルイを返してもらったんだよ」

 未だにニコニコと笑うアルバルトに、ライードは少し寒気を覚える。そんなライードの心境を知ってか知らずか、スッとアルバルトの表情が無くなった。

「ルイは私が見つけて、必死で色んな手を尽くして捕まえた愛しい人なんだ。君如きがしゃしゃり出て、触れるなんて許されないことなんだよ」
「っっ!?」

 ブワッとアルバルトの足元から光が出る。

「まさか、賓客としてきている俺を殺す気か?」
「……そのまさかだ。せいぜい死なないように頑張ってね」

 言葉を発するよりも早く、アルバルトとルヴィアの姿が消える。と同時に、隠れ家全体に大きな揺れが走った。

「本気か!」

 逃げ惑う者達を押し除け或いは切り裂いて、ほうほうの体で脱出する。ライードが隠れ家から出た瞬間、建物が倒壊した。生き残ったのはライード含め10人ほど。

「報告ではショボい魔法しか使えないと言っていたが、アレは隠してたな」

 魔法を道具にかける時点で、異常なことだ。つまり、アルバルトは先祖返りの可能性もある。

 今回の花嫁は諦めるか……

 先祖返りをした者は独占欲が強い。昔、先祖返りの唯一の弱点とも言える伴侶を害した国が丸々滅ぼされたらしい。今回、ライードが無事なのは温情を懸けられたようだ。"次はない"総勢100人いた手勢が今や9人。

「……本気か」

 こうなれば、ライードはすぐさま国に帰り国王にアルバルトの事を告げないわけにはいかない。アジャルハの魔法具を使用し、ライードはすぐさま滞在中の城へ戻ったのだった。
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