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ルヴィアとアルバルト

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「ルイ! 大丈夫かい?」

 ダンスが終わり、アルの元へ早足で戻ってきた私は未だにバクバクとなる心臓を押さえるのに必死だった。

「なんか、"女神の瞳"って……私がタール商会の元長だったのがバレたわ」
「知ってる。ごめんね」

 抱き寄せてくるアルが謝ってくるけど、アルは何も悪くない。

「なんでアルが謝るの? アルは悪くないわ」

 相手を見誤った私の失敗だ。私の瞳が世にも珍しい瞳というのは知っていたからこそ、サングラスで誤魔化していたのだけど、その場凌ぎはダメだったわけだ。とはいえ、王宮では隠していないから顔を見れば分かるんだけど。

 それに、よくよく考えれば、この王宮から人1人を連れ去るなんてそれこそ無理な話。王族ならばもってのほか。できっこないわけだ。だから、あの王太子の話は冗談。

「ルイ、顔色が悪い。今日はもう休もう。私たちの役目は終わったからね。後は、各自解散だからライード殿下も頃合いを見て部屋へ戻るだろう」
「ふふふ、もう大丈夫。心配してくれてありがとう。ライード殿下は少し悪戯好きのようですわ」

 そうだ、多分私は揶揄われたんだろう。

「ルイ、あの王太子は冗談なんか言わないよ。貴女を連れ帰るなら手段は選ばない」
「え……?」

 なんであんな遠くで踊っていた私たちの会話がわかるの?

「アル、私達の会話は囁く程度のものだったわ。何故、分かるの?」
「あぁ、それは読唇術だよ。王族は総じてこういったものを習得する必要があるんだ」

 え、すご!

「それ、今度わたしにも教えて」
「いいよ。そのかわり、今日はもう部屋に戻ろう? 心配でたまらない」

 うぐ……

 美しい碧い瞳を心配げに揺らすアルに抗う術があるなら誰か教えて欲しい。結局わたしは、アルの言う通り会場を後にした。

 少し離れたところからライード王太子の視線を感じ、振り向く。
 彼の顔を見た瞬間、ああ見なきゃよかった、と即座に後悔した。
 ライードの顔には先程以上に美しい笑みが浮かんでいたからだ。鋭い眼光が私を貫く。

 こわい……

 ひゅっと息が止まる。が、すかさず睨みつけた。

 あなた方の国では貞淑な女性が好まれるんでしょう? なら私はお門違いよ!

「ルイ、いくよ」

 グイッとアルに抱き寄せられる。

 ツイと斜め上にあるアルの顔を見上げる。すると、困ったような笑みが返ってきた。

「ルイ、そんなに見ないで」
「なんで?」
「……なんでも」

 あ、耳が赤い。ふーん、へぇー、ほぅ?

「なぁに? 私に見惚れたの?」

 先程会場で飲んでいたワインの酔いと、ライードからの緊張が解けた私は調子に乗っていた。

 ま、私だって見た目はそこそこいいのは自覚している。アルには劣るけどね。隣に立つのって結構おめかししなきゃいけないから大変なんだヨー?

 じわじわと顔を真っ赤にするアルをニマニマと口元を緩ませてみていると、突然体のバランスが崩れた。

「うわ!?」
「ルイ! 大丈夫?」
「あ、うん」

 今度は私の方が顔が赤くなる番だった。巷でいうところのお姫様抱っこをされたからだ。

 あ、あああアルが、アルの顔が近い!

「ルイ、どうした。私に見惚れた?」

 さっき、アルに言った言葉がそのままブーメランのように綺麗な弧をかいて私にクリーンヒットした。

 くそぅ。

「……内緒よ」
「はは、ルイ。顔が真っ赤だよ?」

 うるさい! アルだって、分かっているくせに‼︎

 仕方なく、わたしは口を開いた。

「惚れました。惚れましたよ! 完敗です‼︎ っ⁉︎ んぅ……あ、る! ここ廊下‼︎」

 いきなり塞がれた唇を必死に顔を背けることで逃れる。

「はぁ、知ってる。でも、誰もいないから」

 ヤメテ、色気漏れ出すぎ。

「せ、せめて部屋で……んん⁉︎」

 ヒクッと顔を引き攣らせるが、アルは聞いちゃいなかった。

 グイッと顔を戻され、深く口付けられる。さわりと私を持ち上げている手が不埒な動きをし始めたところで、やっと部屋に着いた。

 あぁ、助かった!

 そう思った、私がバカでした。

「ふふ、部屋に着いたね。じゃあ、存分にルイを堪能しようかな」
「え、待って。今日は疲れてるから……」
「会場にいた時、大丈夫って言ってたのを私はちゃんと聞いたよ?」

 ーーうん、言ったね。確かに言ったけども‼︎

「さ、いこうか」
「ーーっ‼︎」

 そう言われ、キスで口を塞がれる。返事をさせないように塞いだのは明白だった。

 パタンと両開きのドアが無慈悲に閉じられた。








【侍女はアルバルトの本性を目撃する】

 アルバルトとルヴィアが部屋に入ったのを偶然見かけた侍女。彼女は見てしまった。悪い笑みを浮かべ、恍惚とした表情でルヴィア妃を見つめ、部屋に入るアルバルト殿下の姿の姿を。

「あれは多分、朝までコースね」
「何悟った目してんの!? アルバルト様が悪い笑みを浮かべてたぁ? んなわけないじゃない! アルバルト様は優しいことで有名なんだから‼︎」
「いいえ、わたしは知っているの。アルバルト様は前にも同じようにルヴィア様を抱き潰したことがあったわ」

 同僚に頭を叩かれながら、遠くを見る彼女の姿に、それが冗談じゃないことを悟った同僚らは、アルバルト殿下の恐ろしさに戦慄したらしい。

 ふと、興味本位で話に参加していた侍女の1人が不思議そうに首を傾げた。

「そもそも朝までとか、ルヴィア様が持つのかしら?」
「「「……」」」
「わたしは無理だと思うわ」
「わたしもよ」

 互いに顔を見合わせた侍女達は、そっと呟いた。

「「「「「「「ルヴィア、お可哀想に」」」」」」」

 この後、いやに多くの侍女に同情の目を向けられれことに気づいたルヴィアが事の顛末を聞いて羞恥に絶叫したのはいうまでもない。

「やっぱりバレてるじゃないの‼︎ アルのばかぁぁぁぁぁ‼︎」
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