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変化

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「リコ、気をつけて行くんだよ?」
「はい、ナタリアさんもお身体に気をつけて! ありがとうございました‼︎」

 シンプルだが、細部に刺繍がなされた可愛らしいワンピースに身を包んだ莉子。数日間の間、お世話になったナタリアの家を今日、出て行くのだ。

 背には、この世界にもあるカバンに偽装 ・・された、莉子がこの世界に喚ばれたときに一緒についてきた道具達が入っている。

「どーいたしまして。莉子と一緒に作ったサンドイッチ、入れておいたから後でお腹が空いたら食べな」
「はい!」

 ナタリアの元にお世話になった莉子は、せめてものお返しとしてサンドイッチをナタリアに作ってあげた事があった。それが、この国には無かったらしくとても喜ばれたのだ。嬉しい限りである。

「そろそろ乗合馬車が来るはずだよ。いいかい、知らない人についていったらダメだからね? 莉子はしっかりしているようで抜けているからそこが心配だよ」

(ふふ、ナタリアさんはすっかり私のお姉ちゃんだなぁ)

 呑気にそんなことを考えている莉子は、ナタリア話をにまにまと頬を緩ませて聞いていた。

「分かったかい?」
「はい! じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。またこの国に来た時はよってって」
「はい、もちろんです」

 ナタリアと別れ、乗合馬車に乗った莉子は周囲の変わりゆく景色をぼんやりと眺める。

(1度目のこの世界は良いことはなかった。でも、2度目のこの世界は違う。何が一体全体どうなっているんだろう?)

 何度考えても答えは見つからなかった。

(まぁ、それはもういっか。今生きていることに意味がある。もう2度とアイツらに利用されないようにしないと)

 ガタゴトと揺れる馬車は莉子が1度目のこの世界ではお目にかかれなかったものだ。それもそのはず、莉子は聖女であったために、高級感あふれる馬車に乗せられていた。振動の少ない馬車は莉子が日本で持っていた知識を元に作られたものだが、今は存在すらしていないのだろう。

(ふふ、あのすまし顔の貴族達が馬車でお尻の痛みに呻いているって想像したらそれはそれでスッキリするなぁ)

 ニコニコと頬を緩ませる莉子。しかし、そんな平和な空気は長くは続かなかった。

「っ!?」

 ガタンっと馬車が揺れる。馬が急に止まったせいだ。

(なに⁉︎)

「止まれ! 馬車点検をさせてもらう‼︎ 大人しく従うように!」

 ナタリアは、兵士たちが活動しない早朝を狙って莉子を家から送り出してくれたが、貴族達の方がその一歩先を行っていたのだ。

(なんで⁉︎ どうして点検なんか‼︎)

 一人一人点検が行われる中、莉子にも兵士たちの手が伸びる。

「ん? お前、珍しい髪色だな」
「あ、はい。母と父が東方の出身のもので……」
「そうか、荷物を確認するぞ」
「はい……」

 莉子の荷物を調べ始める兵士。ドキドキとなる心臓がうるさい。

「……これは!」

 驚愕に目を見開く兵士の手には、莉子が日本で持っていた時計が握られていた。

「あ、それは……!」
「こんな高貴な物を持つ者が何故こんな乗合馬車にいる? おかしいだろう。これは没収とさせていただく。お前は、俺たちについて来い」

(あぁ、最悪だ)

 内心落胆するも、莉子は仕方なく頷いた。周囲の目が厳しくなるのを感じる。だが、ここで逃げ出してもどうにもならないことは分かりきっていた。

「分かりました。時計は後でお返しください。それが無ければ旅はできないので」
「分かった分かった。そら、早く来い!」

 偽装した程度では、すぐにバレてしまうのは大体予想していたが見つかるのが早すぎた。

(まぁ、逃げ道ぐらいは無くはないから……)

 そうポジティブに考えた莉子は、ゆっくりと乗合馬車から降りたのだった。まさか、その後全ての荷物が帰ってこなくなるなど考えても見なかったのである。
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