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本編
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「ゆーべると様」
先程まで寝ていた彼女は、パアッと花が綻ぶように笑った。あってから一度も見たことのない笑顔だった。
ドクンっと心臓が跳ねる。
ーーなんだ?
その衝動のままに、アイリーンの腰に手を回し抱き寄せた。
「イヤッ!」
「なっ!?」
術がまだしっかり効いていないらしいアイリーンに、拒まれたことで少し冷静になる。
ーーまだ早いか。
術をかけた対象が嫌がることをすると、その反動で術が解けてしまうことがある。今、陸路を行っているのもアイリーンが高いところがダメだからだ。薬で眠らせることもできるが、それをやると術との副作用で起きなくなる可能性もあった。
「ーー気にするな。じっとしていろ」
そう言えば、アイリーンの瞳の色が若干濁る。大人しく、私の言う通りじっとしていた。
首はまだ抵抗が薄いな……
白いうなじに口付ける。龍に勘付かれないよう匂いを消したはずなのに、アイリーンからは何故かいい匂いがした。
ーーーー甘い
思わず、吸い付き舐める。まだまだ堪能したかったが、アイリーンの言葉で渋々やめた。
「恥ずかしいです」
酔ったように頬を染め、上目遣いでこちらを見る美しい女。
今すぐこの獲物を喰らいたい。
思わずゴクリと喉がなった。
「っ!」
何かに勘づいたらしいアイリーンが私の胸元に顔を埋めた時、ルンガが私の肩を叩いた。
ハッと正気に帰る。
「ここではダメですぞ」
「分かっている」
散々私を翻弄してくれたアイリーンは、眠たそうな顔でこちらを見上げていた。
アイリーンが目覚めて約5分ほどしか経っていない。
まだ、術に対抗しているのか。
チクリと胸が痛くなったが、不安そうに見上げるアイリーンを安心させるように美しい金髪を撫でてやる。
ふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべたアイリーンは、すぅすぅと寝息を立て始めた。
「寝たか」
「いやぁ、術の効果はすごいですな。わたくしめには1つも視線をよこしませんでしたぞ?」
「それがどうした」
「いえいえ、少し、すこーしだけ寂しく感じましてな。おじ様と呼ばれていたのは気に入っていたのですが……」
残念そうに私の腕の中で眠るアイリーンを見つめるルンガ。
「やらんぞ」
「承知しておりますとも」
睨みつければ、パッと手を上げて頷いていた。まぁ、コイツは王族でありながら商人をする物好きだが決して王には逆らわない。
「早くイマール国へ」
「分かりました」
もたもたしてはいられない。
「なぜ国についてから術を施さなかったので?」
不意にルンガがそう問うてきた。
「何故だろうな? 一刻も早くこの女を私のものにしたかったのだ」
理屈からすれば、国に帰ったほうがよかったのだが……
「ユーベルト様が感情で動くとは、珍しいこともあるのですなぁ」
アイリーンが再び目覚めるまでの道中、ルンガの言ったその言葉が私の胸に巣食っていた。
先程まで寝ていた彼女は、パアッと花が綻ぶように笑った。あってから一度も見たことのない笑顔だった。
ドクンっと心臓が跳ねる。
ーーなんだ?
その衝動のままに、アイリーンの腰に手を回し抱き寄せた。
「イヤッ!」
「なっ!?」
術がまだしっかり効いていないらしいアイリーンに、拒まれたことで少し冷静になる。
ーーまだ早いか。
術をかけた対象が嫌がることをすると、その反動で術が解けてしまうことがある。今、陸路を行っているのもアイリーンが高いところがダメだからだ。薬で眠らせることもできるが、それをやると術との副作用で起きなくなる可能性もあった。
「ーー気にするな。じっとしていろ」
そう言えば、アイリーンの瞳の色が若干濁る。大人しく、私の言う通りじっとしていた。
首はまだ抵抗が薄いな……
白いうなじに口付ける。龍に勘付かれないよう匂いを消したはずなのに、アイリーンからは何故かいい匂いがした。
ーーーー甘い
思わず、吸い付き舐める。まだまだ堪能したかったが、アイリーンの言葉で渋々やめた。
「恥ずかしいです」
酔ったように頬を染め、上目遣いでこちらを見る美しい女。
今すぐこの獲物を喰らいたい。
思わずゴクリと喉がなった。
「っ!」
何かに勘づいたらしいアイリーンが私の胸元に顔を埋めた時、ルンガが私の肩を叩いた。
ハッと正気に帰る。
「ここではダメですぞ」
「分かっている」
散々私を翻弄してくれたアイリーンは、眠たそうな顔でこちらを見上げていた。
アイリーンが目覚めて約5分ほどしか経っていない。
まだ、術に対抗しているのか。
チクリと胸が痛くなったが、不安そうに見上げるアイリーンを安心させるように美しい金髪を撫でてやる。
ふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべたアイリーンは、すぅすぅと寝息を立て始めた。
「寝たか」
「いやぁ、術の効果はすごいですな。わたくしめには1つも視線をよこしませんでしたぞ?」
「それがどうした」
「いえいえ、少し、すこーしだけ寂しく感じましてな。おじ様と呼ばれていたのは気に入っていたのですが……」
残念そうに私の腕の中で眠るアイリーンを見つめるルンガ。
「やらんぞ」
「承知しておりますとも」
睨みつければ、パッと手を上げて頷いていた。まぁ、コイツは王族でありながら商人をする物好きだが決して王には逆らわない。
「早くイマール国へ」
「分かりました」
もたもたしてはいられない。
「なぜ国についてから術を施さなかったので?」
不意にルンガがそう問うてきた。
「何故だろうな? 一刻も早くこの女を私のものにしたかったのだ」
理屈からすれば、国に帰ったほうがよかったのだが……
「ユーベルト様が感情で動くとは、珍しいこともあるのですなぁ」
アイリーンが再び目覚めるまでの道中、ルンガの言ったその言葉が私の胸に巣食っていた。
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