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第一章
変な手紙と真実
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変な手紙が届いた。
あの不思議な男の人が来てから数日経ったある日、裏口を叩く音がしてリコが扉を開けると先日の男の人がいた。高貴な着物を着ている方じゃない、ちょっと質素な方。
「今日も迷われたんですか?」
「あ、いえ。文を届けに」
「はあ……ふみ?」
「はい、こちらに」
そう言って渡されたのは、何か不思議なミミズのような文字で書かれた手紙。
読めない、とはいえなかった。
「あの。お返事は」
「あー……すみません、私はこんな字は書けないんです。できれば普通に書いていただければ嬉しいんですが」
「はい?」
「いえ、なんでもないです。ですが、お返事はごめんなさいできません」
「……わかりました」
申し訳ないリコに対して、手紙を持ってきた男の人はあまり気にしない様子で頷いて帰っていった。申し訳程度の手土産に、お饅頭をプレゼントしたので許してもらおう。多分頑張って書いたのだろうなぁ、と思いながらリコは先程もらった手紙を見る。
古典の資料集によく出ている字体だった。こりゃ読めないわ、と思いながらリコはふと今年から通う大学に教授がいることを思い出した。
「先生なら読めるのかな?」
頑張って書いてもらったものだし、読めるなら読んでみたいなぁとリコはペシペシと手紙をなんとなく揺らしながら物思いに耽るのだった。
大学に行こうか行くまいか、とか。今晩の夕飯は何にしようか? とか。
「まだ昼だし。持っていってみようかな」
しばらくして、リコの中で何かのスイッチが入ったのだろう。ガバッと起き上がり、リコは大学に行く準備を済ませた。
徒歩1時間。自転車で30分ほどの場所にある大学。リコは文系で、一度体験で行ったこともありスイスイと大学内を歩いて行く。
「すみません」
「はーい」
ある部屋の一室で声をかけると、のんびりとした女の人の声が返ってきた。
「コレを読解して欲しいのですが……」
「なにこれ」
おもむろに取り出したリコの手紙を奪い取り、教授はマジマジと眺める。
「今日、先日知り合った方が下さったのですが読めなくて……先生なら読めるかなと」
「うーん、読めるけどこれはなかなか本格的だねぇ」
「衣装が着物? 袴? でした」
「それはまた……これは恋文だと思うよ」
恋文?
「ラブレターですか?」
「そうだね」
「へぇ」
「へぇじゃないよ。この人はすごいね。よく古文の勉強をしている。書くのは結構難しいと思うんだけどな」
「本格的だったので、その道のマニアでしょうか?」
「プロかもね」
「なるほど」
多分読んでも君には理解できないだろう、そう言われて返された手紙をリコは受け取りフラフラとした足取りで大学を出た。教授はしっかりとコピーをとっていた。
あの2人はその道のプロだったのか? なりきっていたからあんなに変な話し方と反応だったのだろう。そう無理やり結論づけてリコは家へ戻る。
しかし、なんとなく漁っていた戸棚から一冊の日記が出てくることで先程の仮説は脆く崩れさった。
"この家は昔の時代に繋がっている"
そうで出しに書かれていたのを読んだ瞬間、リコは日記を閉じた。
やばい。その3文字がリコの頭を支配したからだ。先程まで、映画とかプロとか現実世界で考えられることを考えてきたのに、一気に壊されたからである。
もし、先程の手紙が恋文なのだとしたらーー
一度授業で聞いたことがある。平安貴族の恋愛はまず文の交換から始まると。
本気にしたわけではない。だけど、そう考えると今までの事に辻褄が合うのだ。
「……え」
つまりはそういうことだ。貴族っぽい男性は本物の貴族。使いらしき人物は本物の使いの人。リコは求愛されているらしかった。
「戸締りしたっけ」
慌てて裏口へ向かう。垣間見とかいうものもあると聞いたことがある。覗かれてはたまらない。カーテンもつけよう。もしものことだ。あり得ないかもしれないけど、ホラー並みに怖かった。
「時代が繋がるなんてありえない」
その夜、リコは震えながら寝床に着いたのだった。
あの不思議な男の人が来てから数日経ったある日、裏口を叩く音がしてリコが扉を開けると先日の男の人がいた。高貴な着物を着ている方じゃない、ちょっと質素な方。
「今日も迷われたんですか?」
「あ、いえ。文を届けに」
「はあ……ふみ?」
「はい、こちらに」
そう言って渡されたのは、何か不思議なミミズのような文字で書かれた手紙。
読めない、とはいえなかった。
「あの。お返事は」
「あー……すみません、私はこんな字は書けないんです。できれば普通に書いていただければ嬉しいんですが」
「はい?」
「いえ、なんでもないです。ですが、お返事はごめんなさいできません」
「……わかりました」
申し訳ないリコに対して、手紙を持ってきた男の人はあまり気にしない様子で頷いて帰っていった。申し訳程度の手土産に、お饅頭をプレゼントしたので許してもらおう。多分頑張って書いたのだろうなぁ、と思いながらリコは先程もらった手紙を見る。
古典の資料集によく出ている字体だった。こりゃ読めないわ、と思いながらリコはふと今年から通う大学に教授がいることを思い出した。
「先生なら読めるのかな?」
頑張って書いてもらったものだし、読めるなら読んでみたいなぁとリコはペシペシと手紙をなんとなく揺らしながら物思いに耽るのだった。
大学に行こうか行くまいか、とか。今晩の夕飯は何にしようか? とか。
「まだ昼だし。持っていってみようかな」
しばらくして、リコの中で何かのスイッチが入ったのだろう。ガバッと起き上がり、リコは大学に行く準備を済ませた。
徒歩1時間。自転車で30分ほどの場所にある大学。リコは文系で、一度体験で行ったこともありスイスイと大学内を歩いて行く。
「すみません」
「はーい」
ある部屋の一室で声をかけると、のんびりとした女の人の声が返ってきた。
「コレを読解して欲しいのですが……」
「なにこれ」
おもむろに取り出したリコの手紙を奪い取り、教授はマジマジと眺める。
「今日、先日知り合った方が下さったのですが読めなくて……先生なら読めるかなと」
「うーん、読めるけどこれはなかなか本格的だねぇ」
「衣装が着物? 袴? でした」
「それはまた……これは恋文だと思うよ」
恋文?
「ラブレターですか?」
「そうだね」
「へぇ」
「へぇじゃないよ。この人はすごいね。よく古文の勉強をしている。書くのは結構難しいと思うんだけどな」
「本格的だったので、その道のマニアでしょうか?」
「プロかもね」
「なるほど」
多分読んでも君には理解できないだろう、そう言われて返された手紙をリコは受け取りフラフラとした足取りで大学を出た。教授はしっかりとコピーをとっていた。
あの2人はその道のプロだったのか? なりきっていたからあんなに変な話し方と反応だったのだろう。そう無理やり結論づけてリコは家へ戻る。
しかし、なんとなく漁っていた戸棚から一冊の日記が出てくることで先程の仮説は脆く崩れさった。
"この家は昔の時代に繋がっている"
そうで出しに書かれていたのを読んだ瞬間、リコは日記を閉じた。
やばい。その3文字がリコの頭を支配したからだ。先程まで、映画とかプロとか現実世界で考えられることを考えてきたのに、一気に壊されたからである。
もし、先程の手紙が恋文なのだとしたらーー
一度授業で聞いたことがある。平安貴族の恋愛はまず文の交換から始まると。
本気にしたわけではない。だけど、そう考えると今までの事に辻褄が合うのだ。
「……え」
つまりはそういうことだ。貴族っぽい男性は本物の貴族。使いらしき人物は本物の使いの人。リコは求愛されているらしかった。
「戸締りしたっけ」
慌てて裏口へ向かう。垣間見とかいうものもあると聞いたことがある。覗かれてはたまらない。カーテンもつけよう。もしものことだ。あり得ないかもしれないけど、ホラー並みに怖かった。
「時代が繋がるなんてありえない」
その夜、リコは震えながら寝床に着いたのだった。
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