【完結】悪役令嬢が起こした奇跡〜追放されたのに皆様がわたくしを探しているらしいですわ〜

ウミ

文字の大きさ
上 下
20 / 22

E

しおりを挟む
 キィと部屋のドアをそっと開けて外を確認するビオラ。真夜中に差し掛かろうとする宿の中は、皆寝静まったようでとても静かだった。

(誰も……いないわね)

 プラチナブロンドの髪は夜にはとても輝く為、今はブランケットを頭に巻き、頭巾のようにして隠している。

 そろりそろりと足音を立てないよう、ビオラは廊下を進み階段を降りた。目の前には外へと通じる扉がある。さぁ、出よう! ビオラがドアノブに手をかけた時だった。

「おい、どこ行こうとしてんだ」

「きゃ!?」

 後ろから伸びてきた大きな手がビオラのドアノブを握る手を掴んだ。

「まさか、逃げようとしてるわけじゃないよな?」

 ギロリと睨みつけられ、萎縮するビオラ。

「……」

「逃げるなよ。俺にはお前を王子の下まで連れて行くのが仕事なんだから」

「……逃げられたと素直に報告しなければいいのではないの?」

「なに?」

 ビオラは逃げることだけを考えていたわけではなかった。

「迎えに行ったのだけれど、いなかった、でいいじゃない。なぜ、庶民の娘を王都に運ぶのにそんなに必死になるのかしら?」

「……お前は知らなくていいことだ」

 黙り込んでしまった騎士に、ビオラは言い募る。

「全国各地から一生懸命妃候補を集めたって、肝心の王子が選んでないのでしょう? なら、私は行かなくていいと思わない?」

「いや、行ってもらう。つーか、アンタが妃候補になっても選ばれなきゃいいんだろ? 選ばれないようにしてさっさと帰ればいいじゃないか」

 それはビオラも一度は考えた。でもーー

「私は妻です。限定的とはいえ、他人の妻候補になるなどあり得ませんわ」

 キッパリとそう言い切るビオラ。結びが甘かったブランケットがちょうどハラリと落ちる。月の光に照らされ、キラキラとプラチナの美しい髪を靡かせるビオラはそれはそれは神秘的に見えた。

(何だこれは。この女は本当に人間なのか?)

 現実的な騎士でさえ思わずそう、思ってしまうほどの美しさがあったのだ。
 この場にリンがいたならすぐさま大きな布を持ち出しビオラに被せてしまっていただろう。

「はぁ……何度も言ってるが、決まりは決まりなんだ。とりあえず、王都には来てもらう」

 何を言っても聞かない騎士に、ビオラはとうとう最後の手段に出た。

「それは、私が追放された令嬢でもですか?」

 リンからは危険だから隠そうと言われた自分の過去。

「は? 追放って元公爵令嬢のことか? でも、それだとおかしいだろ。あの令嬢の髪色は紺だったはずだ。たしかに似てるっちゃ似てるが……いや、違うだろ」

 訝しげな騎士に、ビオラもハッとする。

(そういえば、そうだったわ! でも、嘘ではないのだけれど……)

「ですが……!」

 そう言い募ろうとしたビオラを騎士は手を振って止めた。

「あのなぁ、評判の悪いやつになって逃げようとするのはよせ。しかも、元公爵令嬢といえば教会が血眼になって探してるって噂だぞ? そんなんになってどうする?」

 教会?

 ぴたりとビオラの体が固まる。ビオラの神力を見抜けもしなかった人達が今になってなぜビオラを探すのか?

「ほら、部屋に戻れ。あと2日で行こうと思ったがやめる。1日で王都に着くようにするから、覚悟しておくんだな」

 グイッと部屋へ押し戻される。その間も、ビオラは教会が自分を探しているという理解不能な知らせに硬直したままだった。



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄されてしまいました。別にかまいませんけれども。

ココちゃん
恋愛
よくある婚約破棄モノです。 ざまぁあり、ピンク色のふわふわの髪の男爵令嬢ありなやつです。 短編ですので、サクッと読んでいただけると嬉しいです。 なろうに投稿したものを、少しだけ改稿して再投稿しています。  なろうでのタイトルは、「婚約破棄されました〜本当に宜しいのですね?」です。 どうぞよろしくお願いしますm(._.)m

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】なんで、あなたが王様になろうとしているのです?そんな方とはこっちから婚約破棄です。

西東友一
恋愛
現国王である私のお父様が病に伏せられました。 「はっはっはっ。いよいよ俺の出番だな。みなさま、心配なさるなっ!! ヴィクトリアと婚約関係にある、俺に任せろっ!!」  わたくしと婚約関係にあった貴族のネロ。 「婚約破棄ですわ」 「なっ!?」 「はぁ・・・っ」  わたくしの言いたいことが全くわからないようですね。  では、順を追ってご説明致しましょうか。 ★★★ 1万字をわずかに切るぐらいの量です。 R3.10.9に完結予定です。 ヴィクトリア女王やエリザベス女王とか好きです。 そして、主夫が大好きです!! 婚約破棄ざまぁの発展系かもしれませんし、後退系かもしれません。 婚約破棄の王道が好きな方は「箸休め」にお読みください。

処理中です...