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「薪に使う木を取ってくるね」

「ええ、いつもありがとう」

 1週間に1度ほど、薪の調達にリンは裏手の森へと向かう。ビオラはそれを見送った後、庭の野菜の手入れをするというのが最近の2人の週末の過ごし方となっていた。

 しかし、リンが森へ入って数分後、家のドアを叩く者がいた。

「はい」

「スミレ様で間違いはないでしょうか?」

 ドアを開ければ、目の前に騎士の格好をした男が立っていた。

「はい?」

「では、こちらに」

 訳がわからずポカンとするビオラに、騎士はサッサと動けとばかりに視線を家先に止めてある馬車へと向けた。

 国外追放された際、ビオラはこの国の騎士にお世話になっているのだが、いかせんいい思い出がなかった。そのため、少し及び腰になりながらビオラは口を開いた。

「あの、申し訳ありませんが私は騎士様にお世話になるような事はしておりません」

「当たり前です」

「はあ⁇」

 さらに訳がわからない返答に、ビオラはとうとうキッと顔を顰めた。

「すみませんが、いきなり人様のお家に来ておいてどういう事なのです? 失礼ではございません? 私が何もしていないというなら、なぜあなた方に従わなければならないのです」

「ほう、随分と様になってるな。あぁ、もう面倒だ。お前もどうせ親に売られた口だろ、ほら、現実を受け止めるんだ。さっさと乗れ!」

「何をなさるの!?」

 グイッと腕を引かれて、馬車まで引きずられる。抵抗しようとするが、ビオラの細腕では何も出来なかった。

(リン!!!! 助けて!)

 念話でリンへと助けを求めるが、リンは森の中へ入ってしまっている以上、戻ってくるのは時間がかかる。

『ビオラ! 大丈夫か!?』

 リンの焦ったような声を聞きながら、ビオラはなすすべもなく馬車へと乗せられ連れ去られてしまうのであった。

「ははっ、本当にうまくいくとは。これであの女が妃になれば俺は大金持ちだ‼︎」

「ならなければ俺がもらうよ」

「おお、プリマキ様」

 小躍りする男はガラパで、プリマキと呼ばれた男は村長の息子であった。

「もちろんガラパには金貨10枚をやろう」

「へへ、ありがたい! 今回は協力してくださってありがとうごぜぇます。アンタのおかげでスムーズに事が運んだ」

「いや、いいんだ。あの女、俺に気がないように見えたからな。珍しくて気になっていたんだ」

 得意げに話すプリマキ。だが、それは嘘だ。ビオラがプリマキに興味を持っていようが持っていまいが、プリマキはビオラの美貌に目を奪われてしまった。そして、手に入れたいと思うようになったのだ。

 村長の息子として何不自由なく過ごしていたプリマキ。手に入らないものはなかった。しかし、夫であるアキと呼ばれた人物のビオラへの愛は深く、ビオラも夫への愛が深そうだった。手に入れるにはどうすれば良いのか? プリマキは必死に考えたのだ。

 そして、思いついたのがガラパの話していた妃へ応募すること。

(王子はどんな女にも興味がないと言っていた。ならば、ビオラもすぐに帰されるだろう。その途中で攫えばいい)

 と、考えたのだ。

「さ、戻ろう。俺はこっちの道から帰る。ガラパはあっちの道から帰ってくれ」

「へへ、分かったよ」

 ニマニマと頬を緩ませるガラパとプリマキは、それぞれ別の道から帰るのだった。
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