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殿下の嘆き

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 気づけば、毎日そばにいたはずのルビーがいない事が寂しく感じるようになってしまった。

「ルビーを……あぁ、そうだ。いないのだな」 

「はい……」

 気遣わしげに向けられる従者の視線に耐えかねて、いつものように外へ出た。

 いつもならば、呼べばすぐ来る婚約者。しかし、今はいない。

 ルビーは悪魔に憑かれた。そして、精霊の愛子をこの世から消してしまったのだ。それはとても重い罪になる。

『あなた方は私の努力を認めてくださったかしら?』

 しかし、皇子にはルビーのその一言がいつの間にかシコリのようになって頭の中に残っていた。たしかに、ルビーには何一つ労いの言葉を言ったことがない。

 この国の皇子たる私の妻となるのだから、当たり前のことだ。そう思い込んでいたし、周りもそう思っていた。

 それに、ルビーも求められたことはそつなくこなしていたから、大丈夫だと思ったのだ。

 だが、言われてみれば私はよく教師に褒められていたし、王である父にも「よくやった」と言われることは常日頃あった。

「いったいどうしてこうなったのだろうな」

 バルコニーでつぶやいた皇子の言葉は、誰に訊かれることもなく消えた。

 いくら教育を受けているとはいえ、蝶よ花よと育てられた公爵令嬢は過酷な環境で生きていくことなど出来はしないだろう。

 今回の騒動のきっかけである、精霊の愛子はとても愛らしかった。たしかに、あの力と媒体を取り入れるために近づきはしたが……

「決してルビーを見捨てるわけじゃなかったんだ」

 懺悔のように紡がれる自身の口から出た言葉に、皇子は呆然した。

 これでは、私がルビーを愛していたようではないか、と。

「違う。ルビーとはそもそも政略結婚で……だが……ルビーは……」

 そこまで言って皇子は力なく項垂れた。そうだ、認めるしかない。自分はルビーの事が好きだったのだ、と。

 まだ、間に合うだろうか?

「ヴェンヒル」

「はい」

「ルビーが生きているかどうか確認してくれないか」

「御意」

 ハハッと乾いた笑いが漏れる。悪魔に憑かれたというのに、探すなど常軌を逸している。だが、もしかするとーー

「そうだ、追放を言い渡す時ルビーは静かだったらしい」

 最後の最後で愛子によって悪魔が祓われたのではないだろうか?

 ついこの前、神々の祝福が起こったばかりだ。

「ヴェンヒル、悪魔がついているかどうかも確認してくれ」

「はっ」

 見つけた後どうするのか? というのは今の皇子の中にはなかった。ただ、ルビーが生きているのか知りたい。ただ、ただ、それだけが彼の胸の内には存在していた。
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