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はじめての異世界

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「あら、なんて美しい方なの!?」

 ビオラは困惑していた。目の前にいるのはリンの母親と父親、それから兄達だそうだ。

「リン、この世界ではなんでご挨拶すればいいのかしら?」

「ん? 息子さんをくださいっていうんだよ」

「そ、そうなの? あの、皆さま、息子さんをください」

 顔を真っ赤にして挨拶すれば、突然リンは笑い出し向かい側に座っていたリンの家族達は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でビオラを見つめていた。

(ま、もしかして、間違えたのかしら?)

「こら!」

 どうやらリンに嘘を教えられたようだ、と気づいたのはリンの2番目の兄がリンに拳骨を落とした時だった。

「ひどいわ」

「あはは、ごめんよ。あんまりにもビオラが可愛くって」

 ギュッと抱き寄せられればビオラは悪い気がしない。もう、と言って許すしかなかった。

「あらあら、これはいけないわ」

「リン、ちょっと席を外しなさい」

 リンの父親と母親はそっと眉を顰めた後、リンを強制退出させた。

「ビオラに変なこと吹き込まないで」

「常識を教えるだけよ」

『ビオラ、お母さんの言っていることは無視して!』

「リン!」

「あの……?」

 兄達が強制的にリンを連れ去った後、困惑してリンの両親を見れば2人は困ったように微笑んでいる。

「貴女が別世界の住人であることはよく分かったわ。でもね、なんでもリンの言う事を聞いて許しちゃいけないわ」

「あぁ、あの子は少し意地悪することが好きだ。しかし、仮にも愛している人に恥をかかせるのはよくない」

 たしかに、恥はかかされた。ビオラは念話でリンが反論しているのを無視して2人にリンの躾についてご教授していただくことに決めた。

「リンは貴女をとられるのが怖いようなのよ。独占欲が強いみたい。だからといって全てを許してはいけないの」

「あぁ、そうだ。私もうちの奥さんに何度も叱られた」

「そ、そうですの?」

「「そうだ」よ」

 声を揃えた2人に、ビオラはすっかり感心する。たしかに、2人は今はイチャイチャしていない。素晴らしいことだと。ビオラはいささか箱入り娘だった。この2人の助言も、実は普通ではないことなど全く知る由もなかったのである。

 数日間の間、ビオラは2人に助言されたことを実行し、リンが泣きながら許しを訴えると言う珍事が起きた事は、暫くリンの兄達の酒の肴となっていた。

「ここが俺が通っていた高校」

 此方に滞在するのは1年ほど。リンとビオラは日本のいろいろな場所をまわることにしていた。そして、初日がリンの通っていた高校だ。

「不思議な建物ですのね」

「そうかな? 中に入ってみる?」

「ぜひ!」

 パッとビオラは目を輝かせた。その様子を眩しげに見つめるリンは許可証をもらって高校の中を案内した。

「ここが理科室」

「魔法なしで水が出るのですか」

「うん、で、ここが音楽室」

「素晴らしいですわ」

「ーー最後にここがよく使われる教室」

 へぇ、とキラキラと目を輝かせるビオラ。だがしかし、リンの顔は不満げだった。何故なら、後ろからぞろぞろと列をなしてやってくる在校生達の姿があるからだ。


「やば、マジでお似合い」

「お人形さんみたい‼︎」

「可愛い! 写真とっちゃダメかな?」

「えー、顔ちっちゃい」

「めっちゃ綺麗」

「写真撮らせてもらえないかな?」

「写真撮りたい!」

 そう、みなビオラに釣られたのだ。最新の注意を払っていたのに、いつの間にか知れ渡ったらしい。部活を放り出して此方にやってくる生徒たちの大群がいた。好奇心旺盛な彼ら彼女らは、好き勝手話しながら、ビオラとリンの後ろをついていく。

「あの、所々に聞こえてくる写真とは?」

「あ、あぁ。絵みたいなものだよ」

「そ、そうなのですね」

 どんどん不機嫌になっていくリン、ビオラは心配げに見つめるが今は好奇心の方が勝った。

 あれこれ質問して、リンが答えていく。結局、生徒たちの大群に囲まれた2人は写真撮影に応じるしかなくなるのだった。

「「「「ありがとうございましたぁ~」」」」

 最後の生徒と写真を撮り終わったあと、ビオラは面白そうにリンのスマホに送られた写真を眺めるのだった。
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