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「ん? 目を回しちゃったみたいだ。ビオラってば可愛いなぁ」

 くたっと体から力が抜けたビオラをリンはヒョイっと抱き上げた。意識のないビオラにチュッと愛おしそうに額に口付けている。

『重くないの?』

「一応鍛えてるからね」

『ビオラの日焼け、元に戻して!』

「えー、これもこれで可愛いけどなぁ。それに、これ以上綺麗になったら変な奴が寄ってくるだろ? 俺は嫌だね」

 リンが嫌そうに首を振る。

『ビオラは密かに気にしてたのよ? 治してちょうだい』

 しかし、どこからともなく響いた女性の声に、リンは否応なくうなずくしかなくなった。

『『『『あー! 女神様‼︎』』』』

 嬉しげに精霊達がその声の元へ向かう。そこには、ビオラにそっくりな美しい女性がいた。

「はいはい、お義母様」

 残念そうにひょいと肩をすくめたリンが日焼けやらを治していく。

「あぁ、これじゃあまた悪い虫がつきそうだ」

 リンのビオラを見つめる瞳が不安そうに揺れる。

 透き通るような白肌に、少し気の強そうな美しいかんばせ。傷んでいた紺色の髪は、艶を取り戻していた。

 美を体現したような美女がリンの腕の中にいる。

『うふふ、うちの娘は実はもっと美しいのよ?』

 パチンと指を鳴らした女神から金の光が飛び出す。すると、ビオラの髪が紺色からプラチナブロンドへと変化した。

「っ! もっと悪い虫がつくだろ!」

『ふふ、目を覚ますともっと驚くわ』

 ビオラは女神の末裔と言われているらしい。リンがビオラの母親である女神に呼び出された時、それを知った。

○○リンと女神の出会い○○

 女神と会ったのは、ビオラがリンを元の世界へ返してくれたあと。なんとかビオラに会おうと試行錯誤していた時だった。

『あなた、諦めが悪いのね。いいわ、ウチの子が欲しいなら筋肉を程よくつけてちょうだい』

「え?」

 唐突に告げられた言葉は、小さいながらもビックリした出来事だ。

 女神曰く、人のフリをして降りた時にビオラの父親である公爵と知り合ったらしい。

『若い頃はかっこよかったんだったけど、今はたぷんだぷんになって……なんであの人に惚れたのかしら?』

 小首を傾げて呟かれた言葉に、リンは何も言えなかった。

 ハゲ親父と呟いた記憶がある限り、リンにはあの人が元はかっこよかったなんて微塵も思えないのだ。

「ビオラを助けてあげないのですか」

『あら、それは貴方がする事でしょう? 神は人の依代がなければ見守るしかないの。可愛い娘を貴方にあげるのは嫌だけれど、娘が頷くなら何も言えないわ』
 
 苦労したが、ビオラはリンの求婚に顔を真っ赤にしながら頷いてくれたので、結果オーライだ。

『これからどうするの?』

「俺はこっちの世界で暮らします。ビオラをたっぷりと愛でるつもりです」

『あらぁ……しょうがないわね』

 あなた達の幸せを見守っているわ。ウチの娘を救ってくれてありがとう、女神はにっこりと微笑み姿を消したのだった。

 後日、ビオラを追放した国で公爵が泣きながら妻の遺影に懺悔する姿が目撃されたらしい。

 なんでも、愛しの亡き妻が現れて説教されたのだとか。

「おお、我が女神よ。すまんかった! だから、もう一回姿を見せてくれ!!!! なに? 痩せて筋肉をほどよくつけてくれるなら会うだと!? やる! やるぞ! 痩せるから、待っていてくれ‼︎」

 その後、公爵は頭皮こそどうにもならなかったが身体は程よく筋肉のついた細マッチョとなり、イケおじになったのだとか。



 
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