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 次に目を覚ましたのは、殿下やら父やら神官やらが周りを取り囲んで口うるさく何かを喚いている時だった。

「いったい何があったのですか」

 ギシギシと鳴る体をやっとのことで起こしたルビーに、一斉に気味の悪い視線が送られる。

「ルビー、君の魔力が感じられなくなった。これはどういうことか」

「はあ……⁇」

 深刻そうな殿下の言葉に、ルビーは眉を顰めた。何故ならルビーの体の中には溢れんばかりの魔力があるからだ。

(……⁇ 違う、魔力じゃないわ。これは……神力?)

「まさか、悪魔と契約したのか!?」

『ルーお姉ちゃん、ごめんなさい。私が騒いだから、バレちゃったみたい』

(何をですの?)

『いや、あのだからね。ルーお姉ちゃんが無理って倒れたでしょ? 調子が悪くなったのかと思って……思わずルーお姉ちゃん大丈夫!? って声に出しちゃったの。そしたら、いつの間にか王様達がどういうことだって押しかけてきて……』

(ああ、そういえばアキ様は密かに監視いえ、護衛されていたわね)

『うん、で、なんか大変なことに……あとね、何故かルーお姉ちゃんの周りにみんないるのが見えるようになったの』

 どういうことかしら? そうルビーが疑問に思えば、パッとアキが寝台に寝そべって泣きそうになっている様子がルビーの脳裏に映し出される。どうやらこれも名を名乗りあった恩恵らしい。

「ルビー、まさか本当に悪魔と契約を……!?」

 スッと眉を顰め何も言わないルビーに殿下が顔色をなくす。実際は、アキのしょげた姿にどうやって慰めようかと悩んでいただけだ。

(アキ様、もういいですわ。過ぎたことはどうしようもありませんし、そもそもアキ様のせいではございませんもの。それから、アキ様に一つ提案が)

『どうしたの?』

(元の世界へ帰る方法があるとするならば、どういたしますか?)

『えっ!?』

 パッと寝台から飛び起きるアキの姿。嬉しそうな笑顔を一瞬浮かべ、そして複雑な顔になった。それを見て、ルビーは決心した。アキを元の世界へ還そうと。

 アキにはアキの生活があるのよ。

 もしかすると、精霊の愛子というのはこの世界の人間に力を与えるためのものなのかもしれない。そうして役目を終えれば元の世界へ帰れるようにする。本来のシステムはそういったものなのかもしれない。

 決心して、ルビーは口を開いた。

「ええ、私は悪魔と契約しましたの」

「なんと!!!! 今すぐ悪魔祓いを! 愛子の元へ連れていけ!」

 神官の言葉に、ルビーの唇が満足げに歪む。悪魔が苦手とするのは精霊だと太古の昔から言い伝えとしてあるからだ。

「お前はなんて事を‼︎」

 バシッと頬を打たれるが、ルビーは動じない。なんならニヤリと笑ってみせた。まるで悪魔に取り憑かれたかのように。

「あら、お父様。わたくしがどれだけ王太子の婚約者になるに努力したと思っているのです? 公爵家の娘だからといって、婚約者になるのは易しくはないのですよ? それを、愛子が現れたから側室になって殿下を支えろ? はっ、笑いが出てきますわね。わたくしはうんざりしましたわ。皆さま愛子愛子愛子愛子!!!! 誰1人として、わたくしの努力を認めてくださった方はいたかしら?」

 クルリと周りを見渡せば、怯えたような顔がルビーを取り巻いている。

『ルーお姉ちゃん……』

 アキだけがルビーを認めてくれた。ルビーはアキに救われたようなものだ。

「は、早く愛子の元へ。ルビーはこんなこと言わん! やはり悪魔に憑かれておる!!!!」

 顔を赤くして喚き出した父親に、ルビーは嘆息した。

『……ハゲ親父』

 ボソリと呟かれたアキの言葉。パッと父親を眺めたルビーはあさひを反射して輝いている父親の頭を見て吹き出してしまった。

「ふっ」

「何がおかしい‼︎」

「ふふ、いえ、なにも?」

(不思議ね、今まで偉大に見えていたお父様がこんなにも小さく見える)

 スッと表情を整えたルビーは、殿下達に連れられるままアキの元へと向かった。

『ねぇルーお姉ちゃん、私は帰らないよ。ルーお姉ちゃんと一緒にいるもん! 私の家族は多分大丈夫! 心配するかもしれないけど伝える手段がないわけじゃないんだから! 私はルーお姉ちゃんといる! ねぇ、ルーお姉ちゃん、一緒にどこか別の国に行こうよ! 旅一緒にするの! 私はルーお姉ちゃんと一緒にいたいから‼︎』

 その間も、アキからの好き好き攻撃がルビーへ行われていた。

(そう言ってくれるのは嬉しいわ。でもね、貴女はここに居てはいけないのよ。他の国でも変わらないわ。この国には魔法があるの。貴女のことを調べようとすれば簡単にできるのよ)

『やだ‼︎』

「っ!?」

 キィーンと大きなアキの大きな声がルビーの脳内に響く。と、アキが部屋から脱走しようとしているのが見えた。

「はぁ、あの方は……」

 そういえば、アキは今年で10歳になるらしい。それならば、このような言動は理解できる。
 
「あ!?」

 タイミングよく、アキのいた部屋の扉が開く。そこには、目を見開いたアキがいた。

「ルーお姉ちゃん‼︎」
 
 神官達に囲まれているルビーをみて、思わずと言ったように突進するアキ。ボスッとルビーのドレスに顔を埋めたアキに、ルビーは笑いかけた。

(アキ様、お役目お疲れ様でした)

  心の中でそう告げる。

「やだ‼︎」

(さぁ、お帰りください)

 そう心の中で言うと、ルビーはいつの間にか習得していた帰還魔法を展開した。

「な!?」

「なんだ!?」

「アキ様! 早くルビーの悪魔祓いを!」

 ざわめく周囲を放って、ルビーは抱きつくアキを離さないようにしっかりと抱き締める。

(少しの間でもリンのお姉様ができてよかったわ。わたくしは貴女の立派な姉になれていたかしら?)

「うん」

(ふふ、ありがとう。リン、さようなら)

「やだ!」

 完成した魔法陣へとリンを突き飛ばす。そして、ルビーはニヤリと悪い笑みを浮かべて高らかに告げた。

「あはははははは‼︎ 悪魔に油断するとは愚かですわね! お前の存在は我々悪魔にとってじゃまなの。消えてちょうだい!」

「なんだと!?」

「やめろ!」

「あぁ! 精霊の愛子が!!!!」

「悪魔め!」

『違う! 違うよ! ルーお姉ちゃん! なにしてるの!? 悪魔になんて憑かれてないもん! お姉ちゃんを悪者にしないで!』

 口をパクパクさせて何か言おうとしてるアキの姿がどんどん薄くなる。脳内に響くアキの悲鳴のような声に、ルビーはちょっと救われた気がした。

(さようなら)

 こうして、精霊の愛子は元の世界へ帰った。しかし、それを知っているのはルビー1人。他の貴族達はルビーに乗り移った悪魔がこの世から消し去ったと思い込んでいる。
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