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襲撃と猜疑心

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「うぐっ!?」

「ぐぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 何百人もの黒装束に身を包んだ男たちが村人に襲い掛かる。簡単に制圧できるかと思われた襲撃は予想に反して長引いた。それどころか、何人もの黒装束の男たちが村人によって倒され、地面に沈んでいる。

「何事じゃ」

「はい、どうやら賊が出たようです」

 祭壇にいた万葉は、目を見開いた。襲撃してくる男たちが身を包んでいる服は色も形も違うが、何人もいる男達の気の中に見覚えのある気が紛れ込んでいたからだ。

 数年前、伽耶がいなくなった時に感じた気と同じーーーー。

「華雪っ!!!!!!!!」

「ど、どうなされました?」

「華雪が危ない!!!!!!!!」

 まだ時間はあると驕っていた自分のせいだと万葉は思いながら、祭祀を中断して家に転移しようとした。しかし、どうしてか起こらない。

「遺物か!!!!」

 この中の賊の誰かが転移を阻害する遺物を持っている。だが、その遺物は天皇しか持っていなかったはずだ。

「どういうことじゃ」

 まさか、天皇に黙って持ち出したのか?

 それとも、天皇である兄が今回の件に関与しているのか? 万葉の背に冷や汗が流れた。

 ここから家まで約10分ほど。だが、賊が周りを取り囲んでおり数が多い。この包囲網を突破するのは短時間では不可能だ。

「華雪! どうか無事でいておくれ!」

 村人を神力で援護しながら、万葉は己の不甲斐なさに嘆くのだった。

 結局、この包囲網を突破できたのは辺りがすっかり暗くなってからだった。万葉の力のおかげで村人に怪我はなかったが、捕らえた賊は皆自害しており治癒も手遅れだった。

「華雪!!!!」

 慌てて家に戻ってみれば、とうに冷めたご飯が客間にあり、誰か来ていたのがすぐにわかった。独特の甘い匂いが鼻につく。

「これは……」

 希少な花の根を使用した毒が華雪の食べていたであろう煮物の中に入っていた。アレは確か時間が経つと匂いを発するために、素早く使用しなければならない。

 その毒を得ることができる人物は、皇族しかいなかった。

「兄か蘇芳か……」

 姉の忘れ形見は今も危険な目に遭っているかもしれない。どちらが敵か分からなくなってしまった今、万葉まよは、ただただ、華雪の無事と、兄が今回の事件の黒幕でないことを祈るのだった。
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