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14檻は不完全
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ルーナの誕生日当日。
私が思っていた以上にルーナの精神は強かった。3ヶ月間、男としてのプライドをへし折るような行為を強要した。
しかし、ルーナは負けなかった。
それどころか、逃げる機会を虎視眈々と狙っている、そんな目を彼女はしていた。
まぁ、だからいつかは逃げるだろうなとは予想していた。
ただ、タイミングが絶妙で、ちょうど人手が足りないこの時期を狙ったかのように逃げ出した。
ギリギリまで可愛がり、足腰が立たずに悪態を吐いていた筈のルーナ。しかし、蓋を開けてみればどこから取り出したのか分からない平民が着るような男物の服を着て、廊下を全力で走っていた。
扉を開けた瞬間、窓から逃げる準備をしていたルーナと目があい、そしてルーナは以前の経験から窓を諦め私の脇を驚くような速さですり抜けた。
「クソっ、タイミング悪すぎ」
透き通るような美しい声が紡ぐのは、男のような言葉。元貴族令息とは思えないほど汚い言葉遣いだが、これがルーナの本性なのはルヴィルの時から知っていた。
この速度ならすぐに追いつけるが、もう少しこの鬼ごっこを楽しみたいという気持ちから速度を緩めて追いかける。
捕まえた時、ルーナはどんな顔をするのだろうか? 組み敷いたらルーナは悔しげな表情で私を睨みつけるだろう。昨夜の行為の最中に何度も目にしたルーナの無自覚に快楽に蕩けた顔を思い浮かべ、思わずペロリと舌舐めずりをする。
「ルーナ、まだ逃げるのか」
往生際が悪いルーナは諦めずに、廊下を一生懸命走っている。そして、右に曲がった。
あぁ、その先は行き止まりなのに。
思わず、笑みが溢れる。
獲物を追い詰める狩にも酷似したその行為に興奮する私がいた。
途中で走るのをやめ、ゆっくりと歩きながら行き止まりで震えているであろうルーナを迎えに行く。
「ルーナ」
「来んなよ」
ルーナの首には私が贈ったものではない、ネックレスがかかっており、ルーナはそれを握りしめていた。
あぁ、多分ルーナの母が形見に渡したものだ。アレを取り上げるとルーナは錯乱すると伯爵から言われていたから返してやったが、大事そうに握られているソレに嫉妬心を抱く。
そのネックレスはこっそり処分しよう。似たようなネックレスとすり替えて……
「殿下、貴方は賢い。ゆえに余裕が常にある。ですがね、その余裕は油断でもあるのですよ。そう、こんな風にね」
追い詰められて震えていたはずのルーナが笑みを浮かべていたことにまず注目するべきだった。
にっこりと、勝ち誇ったような笑みを浮かべた彼女は、ネックレスを持ち上げる。それは白く輝きながらルーナを包み込んだ。
「ルーナ!」
「散々好き勝手やってくれてありがとうございました。今後一切、アンタとは関わりませんのでご安心を」
そう光に包まれたままルーナは一礼して、消えた。
「は? 一体何がどうなっている?」
慌ててルーナのいた場所に行ってみるが、ルーナはいない。
「まさか、消えた?」
あり得ない、そう思いたいがルーナはどこを探してもいなかった。
「伯爵、これはどういう事だ?」
式を中止して、伯爵を呼び出せば伯爵は何かを知っていたかのようにため息を吐いた。
「ルヴィル、いやルーナは多分故郷に帰ったのでしょう」
「どういう事だ」
聞けば、ルーナの母は東の国の巫女だったそうだ。そして、伯爵が見初めて無理矢理こちらの国に連れて帰った。
「妻も逃げようとしておりました。ですが子供が予想以上に早く出来てしまったせいで、慈悲深い伽耶は逃げるに逃げられなかった。まぁもし子供ができていなかったらサッサとルーナのように逃げていたんでしょう」
力なく項垂れる伯爵の知られざる過去に、マクシミリムは目を見張った。
恐らくルーナは東の国に逃げた。しかし、そこにマクシミリムが簡単に行くことができたら元も子もない。だからルーナは執拗に呪具の仕入れ方を聞いてきたのか、今になって先日の不自然な会話の意味を知る。
「東の国には古代遺跡があり、カヤはその古代遺跡が祀る神族の末裔だったらしいので、不思議な力を持っていてもおかしくありません」
「あのルーナが手放さなかったネックレスも呪具だったか」
「ええ」
今、ルーナはホクホクとした顔でマクシミリムから無事逃げおおせたことに歓喜していることだろう。
「気に食わないな」
「は?」
伯爵が訝しげな顔でこちらをみる。
「ルーナは私のものであり、私の手から逃げる事は許さない」
やっと檻の鍵を閉めようとしたところ、中にいた獲物が逃げ出した。それを黙って見逃すマクシミリムではない。
「今から東の国へ向かう」
「行事がこれからたくさんございますが?」
「父がなんとかしてくれるだろう」
「さようですか」
そう頷く伯爵は十分頭がおかしい。いや、この国の貴族と王族は大概頭のネジが数本抜けている。伴侶に対する執着が酷いのだ。
これだと思ったら、例え結婚していても奪い取る。それで過去に何度も隣国と小競り合いになり、その都度戦いで勝利を収めていた。いま、帝国がこんなに大国になったのは先祖達のイカレタ執着の結果だ。
「そして、私にもその異常な血が流れているのだろうな」
ルーナの逃亡から数時間後、帝国の皇太子がひっそりと旅に出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【日記スペースbyルーナ】
窓から逃げようとして、殿下と鉢合わせするし、逃げたら逃げたで、ネックレスに付いていた石があんなに光るなんて思わなかったし……はぁ、厨二病感半端ない。
光に包まれて一礼とか……思い返せば羞恥で死んだよね。マジで。まぁ、もう殿下に会うことはないけど、とりあえずあの茶番劇を見てたのが殿下1人でよかったと心の底から思う。黒歴史。
俺の渾身の茶番劇をイイネ! て思った人はお気に入り登録よろしく。ついでに黒歴史を感想欄に投稿してくれたらうれしい。黒歴史があるのは俺だけじゃないって思いたいから!
私が思っていた以上にルーナの精神は強かった。3ヶ月間、男としてのプライドをへし折るような行為を強要した。
しかし、ルーナは負けなかった。
それどころか、逃げる機会を虎視眈々と狙っている、そんな目を彼女はしていた。
まぁ、だからいつかは逃げるだろうなとは予想していた。
ただ、タイミングが絶妙で、ちょうど人手が足りないこの時期を狙ったかのように逃げ出した。
ギリギリまで可愛がり、足腰が立たずに悪態を吐いていた筈のルーナ。しかし、蓋を開けてみればどこから取り出したのか分からない平民が着るような男物の服を着て、廊下を全力で走っていた。
扉を開けた瞬間、窓から逃げる準備をしていたルーナと目があい、そしてルーナは以前の経験から窓を諦め私の脇を驚くような速さですり抜けた。
「クソっ、タイミング悪すぎ」
透き通るような美しい声が紡ぐのは、男のような言葉。元貴族令息とは思えないほど汚い言葉遣いだが、これがルーナの本性なのはルヴィルの時から知っていた。
この速度ならすぐに追いつけるが、もう少しこの鬼ごっこを楽しみたいという気持ちから速度を緩めて追いかける。
捕まえた時、ルーナはどんな顔をするのだろうか? 組み敷いたらルーナは悔しげな表情で私を睨みつけるだろう。昨夜の行為の最中に何度も目にしたルーナの無自覚に快楽に蕩けた顔を思い浮かべ、思わずペロリと舌舐めずりをする。
「ルーナ、まだ逃げるのか」
往生際が悪いルーナは諦めずに、廊下を一生懸命走っている。そして、右に曲がった。
あぁ、その先は行き止まりなのに。
思わず、笑みが溢れる。
獲物を追い詰める狩にも酷似したその行為に興奮する私がいた。
途中で走るのをやめ、ゆっくりと歩きながら行き止まりで震えているであろうルーナを迎えに行く。
「ルーナ」
「来んなよ」
ルーナの首には私が贈ったものではない、ネックレスがかかっており、ルーナはそれを握りしめていた。
あぁ、多分ルーナの母が形見に渡したものだ。アレを取り上げるとルーナは錯乱すると伯爵から言われていたから返してやったが、大事そうに握られているソレに嫉妬心を抱く。
そのネックレスはこっそり処分しよう。似たようなネックレスとすり替えて……
「殿下、貴方は賢い。ゆえに余裕が常にある。ですがね、その余裕は油断でもあるのですよ。そう、こんな風にね」
追い詰められて震えていたはずのルーナが笑みを浮かべていたことにまず注目するべきだった。
にっこりと、勝ち誇ったような笑みを浮かべた彼女は、ネックレスを持ち上げる。それは白く輝きながらルーナを包み込んだ。
「ルーナ!」
「散々好き勝手やってくれてありがとうございました。今後一切、アンタとは関わりませんのでご安心を」
そう光に包まれたままルーナは一礼して、消えた。
「は? 一体何がどうなっている?」
慌ててルーナのいた場所に行ってみるが、ルーナはいない。
「まさか、消えた?」
あり得ない、そう思いたいがルーナはどこを探してもいなかった。
「伯爵、これはどういう事だ?」
式を中止して、伯爵を呼び出せば伯爵は何かを知っていたかのようにため息を吐いた。
「ルヴィル、いやルーナは多分故郷に帰ったのでしょう」
「どういう事だ」
聞けば、ルーナの母は東の国の巫女だったそうだ。そして、伯爵が見初めて無理矢理こちらの国に連れて帰った。
「妻も逃げようとしておりました。ですが子供が予想以上に早く出来てしまったせいで、慈悲深い伽耶は逃げるに逃げられなかった。まぁもし子供ができていなかったらサッサとルーナのように逃げていたんでしょう」
力なく項垂れる伯爵の知られざる過去に、マクシミリムは目を見張った。
恐らくルーナは東の国に逃げた。しかし、そこにマクシミリムが簡単に行くことができたら元も子もない。だからルーナは執拗に呪具の仕入れ方を聞いてきたのか、今になって先日の不自然な会話の意味を知る。
「東の国には古代遺跡があり、カヤはその古代遺跡が祀る神族の末裔だったらしいので、不思議な力を持っていてもおかしくありません」
「あのルーナが手放さなかったネックレスも呪具だったか」
「ええ」
今、ルーナはホクホクとした顔でマクシミリムから無事逃げおおせたことに歓喜していることだろう。
「気に食わないな」
「は?」
伯爵が訝しげな顔でこちらをみる。
「ルーナは私のものであり、私の手から逃げる事は許さない」
やっと檻の鍵を閉めようとしたところ、中にいた獲物が逃げ出した。それを黙って見逃すマクシミリムではない。
「今から東の国へ向かう」
「行事がこれからたくさんございますが?」
「父がなんとかしてくれるだろう」
「さようですか」
そう頷く伯爵は十分頭がおかしい。いや、この国の貴族と王族は大概頭のネジが数本抜けている。伴侶に対する執着が酷いのだ。
これだと思ったら、例え結婚していても奪い取る。それで過去に何度も隣国と小競り合いになり、その都度戦いで勝利を収めていた。いま、帝国がこんなに大国になったのは先祖達のイカレタ執着の結果だ。
「そして、私にもその異常な血が流れているのだろうな」
ルーナの逃亡から数時間後、帝国の皇太子がひっそりと旅に出た。
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【日記スペースbyルーナ】
窓から逃げようとして、殿下と鉢合わせするし、逃げたら逃げたで、ネックレスに付いていた石があんなに光るなんて思わなかったし……はぁ、厨二病感半端ない。
光に包まれて一礼とか……思い返せば羞恥で死んだよね。マジで。まぁ、もう殿下に会うことはないけど、とりあえずあの茶番劇を見てたのが殿下1人でよかったと心の底から思う。黒歴史。
俺の渾身の茶番劇をイイネ! て思った人はお気に入り登録よろしく。ついでに黒歴史を感想欄に投稿してくれたらうれしい。黒歴史があるのは俺だけじゃないって思いたいから!
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