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第158話 エピローグ③ 世界の終わりで君と恋をしたい
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ユリナが結婚を発表した場所はすぐにK県H町役場前だと特定された。
『歌姫』はH町に住んでいるのかもしれない。
この看過できない事実に空前の『歌姫』景気が訪れ、ユリナと麗央はさぞや辟易しているのかといえば、そうでもない。
「おやつはパンケーキよね♪」
「それ、何枚目だっけ?」
「三枚目? 四枚目? 分からないわ」
「五枚以上、食べてる気がするよ」
そう言いながらも堪えきれず、失笑する麗央にユリナは頬を膨らませ、抗議するがそれすらも麗央には仔猫がちょっと威嚇しているだけの可愛い様子にしか見えない。
何より麗央の膝の上でちょこんと座り、互いに食べさせ合っている状況だった。
単に仲のいい夫婦がちょっとじゃれ合っているに過ぎない。
「今のところは大丈夫でしょ?」
「そうみたいだね」
ユリナは緊急発表を終え、後事を考えた策を弄する。
雷家の屋敷はユリナとて、気に入っていた。
どこかに居を移すのは考えられない以上、彼女がやることは一つしかない。
雷家の屋敷がH町にある。
これは動かしようのない事実だった。
ユリナは認識を阻害し、記憶の一部を操作する恐ろしい作用がある香りを発する花を植えることで対応した。
だからこそ、H町には幽霊屋敷があるといった噂話がされる程度で済んでいたのだ。
しかし、今回の発表で幽霊屋敷の噂が逆に枷となる。
『歌姫』が住んでいると考えられた町で誰も『歌姫』を見た者がいないとすれば、怪しいのは幽霊屋敷と推理する者がいても何ら、おかしくない。
そこでユリナは噂話そのものを消したのである。
幽霊屋敷の話そのものがなくなれば、特定するのも困難になる。
「だけどさ。リーナ、本当にいいのかい?」
見るからに自信なさそうにそう言う麗央の表情は何とも浮かない。
彼は『歌姫』の結婚相手が一般男性に過ぎない自分であることを不甲斐ないと思っていた。
ままならない身である麗央にとって、唯一の拠り所であったYotubeのチャンネルもユリナの意向により、なかったことにされた。
現在の麗央は自宅警備員の一般男性と言われても反論しようがない立場にいるのだ。
「レオは嫌なの? 私と結婚するのが嫌だった?」
「そういうことじゃないんだ。ただ、俺ってさ……」
ユリナの顔が麗央に近付き、二つの影が一つになった。
まるでそれ以上、麗央が言葉を紡ぐのを止めようとするかのようにユリナは麗央に口付けを求めたからだ。
ユリナにしては珍しく、おずおずとした様子ではあるものの彼女の舌が麗央の口内を探るように侵入する。
応えるように麗央の舌がユリナの舌を絡めとり、互いの体液が混ざり合う。
息が止まるほどの長い口付けが終わり、二人の間に銀色の橋が架けられた。
言葉はなく、互いに熱を帯びた目で見つめ合うだけで十分だった。
ユリナが麗央のチャンネルを止めたのには理由がある。
バケツマンは思っていた以上に人気が出てしまった。
ファンサイトが出来るほどの人気にユリナは焦りを感じているほどだ。
麗央のいいところを知っているのは自分だけで十分とユリナが考えるのはひとえに自信の無さが影響している。
あれほど自信に溢れたパフォーマンスを見せる『歌姫』からは考えられないことだが、麗央に対して自信を持てないでいるのが彼女である。
常に自分が捨てられるのではないかと恐怖心を抱いていた。
このままではバケツマンの正体が特定されるのも時間の問題と考えたユリナは麗央のチャンネルを閉じ、『歌姫』のパートナーとしてのバケツマンを大々的に喧伝することで他者よりも優位に立とうと思ったのだ。
チャンネルを閉じた麗央があからさまに落胆するとまでは考えていなかったのである。
「レオはもっと自信を持っていいの」
潤んだ瞳で上目遣いに見つめながら、そう囁くユリナを見ると麗央は何も答えられない。
「歌うのだって、やめたっていいの」
「リーナは歌うのが嫌いなのか?」
ユリナは力なく、僅かに首を横に振った。
「でも、レオが嫌なら、やめても……」
「それは違うよ。君が歌いたいなら、俺は全力で君を応援する。だから……」
ユリナの瞳は微かに揺れていた。
麗央はそんなユリナを勇気付けるように「歌ってよ」と伝える。
「うん」とまたも力なく、首を振るが今度は肯定を意味する動きだ。
「レオの為だけに歌ってもいいんだよ?」と付け加えるのもユリナは忘れない。
再び、二つの影が一つになった。
海沿いの長閑な小さな町に若い夫婦が住んでいる。
唄を歌うのが好きな妻とそれを優しく見守る夫。
二人はいつも一緒にいる。
例え、世界が終わろうとも二人は離れることがない。
二人の恋は永遠に続く……。
To be continued
『歌姫』はH町に住んでいるのかもしれない。
この看過できない事実に空前の『歌姫』景気が訪れ、ユリナと麗央はさぞや辟易しているのかといえば、そうでもない。
「おやつはパンケーキよね♪」
「それ、何枚目だっけ?」
「三枚目? 四枚目? 分からないわ」
「五枚以上、食べてる気がするよ」
そう言いながらも堪えきれず、失笑する麗央にユリナは頬を膨らませ、抗議するがそれすらも麗央には仔猫がちょっと威嚇しているだけの可愛い様子にしか見えない。
何より麗央の膝の上でちょこんと座り、互いに食べさせ合っている状況だった。
単に仲のいい夫婦がちょっとじゃれ合っているに過ぎない。
「今のところは大丈夫でしょ?」
「そうみたいだね」
ユリナは緊急発表を終え、後事を考えた策を弄する。
雷家の屋敷はユリナとて、気に入っていた。
どこかに居を移すのは考えられない以上、彼女がやることは一つしかない。
雷家の屋敷がH町にある。
これは動かしようのない事実だった。
ユリナは認識を阻害し、記憶の一部を操作する恐ろしい作用がある香りを発する花を植えることで対応した。
だからこそ、H町には幽霊屋敷があるといった噂話がされる程度で済んでいたのだ。
しかし、今回の発表で幽霊屋敷の噂が逆に枷となる。
『歌姫』が住んでいると考えられた町で誰も『歌姫』を見た者がいないとすれば、怪しいのは幽霊屋敷と推理する者がいても何ら、おかしくない。
そこでユリナは噂話そのものを消したのである。
幽霊屋敷の話そのものがなくなれば、特定するのも困難になる。
「だけどさ。リーナ、本当にいいのかい?」
見るからに自信なさそうにそう言う麗央の表情は何とも浮かない。
彼は『歌姫』の結婚相手が一般男性に過ぎない自分であることを不甲斐ないと思っていた。
ままならない身である麗央にとって、唯一の拠り所であったYotubeのチャンネルもユリナの意向により、なかったことにされた。
現在の麗央は自宅警備員の一般男性と言われても反論しようがない立場にいるのだ。
「レオは嫌なの? 私と結婚するのが嫌だった?」
「そういうことじゃないんだ。ただ、俺ってさ……」
ユリナの顔が麗央に近付き、二つの影が一つになった。
まるでそれ以上、麗央が言葉を紡ぐのを止めようとするかのようにユリナは麗央に口付けを求めたからだ。
ユリナにしては珍しく、おずおずとした様子ではあるものの彼女の舌が麗央の口内を探るように侵入する。
応えるように麗央の舌がユリナの舌を絡めとり、互いの体液が混ざり合う。
息が止まるほどの長い口付けが終わり、二人の間に銀色の橋が架けられた。
言葉はなく、互いに熱を帯びた目で見つめ合うだけで十分だった。
ユリナが麗央のチャンネルを止めたのには理由がある。
バケツマンは思っていた以上に人気が出てしまった。
ファンサイトが出来るほどの人気にユリナは焦りを感じているほどだ。
麗央のいいところを知っているのは自分だけで十分とユリナが考えるのはひとえに自信の無さが影響している。
あれほど自信に溢れたパフォーマンスを見せる『歌姫』からは考えられないことだが、麗央に対して自信を持てないでいるのが彼女である。
常に自分が捨てられるのではないかと恐怖心を抱いていた。
このままではバケツマンの正体が特定されるのも時間の問題と考えたユリナは麗央のチャンネルを閉じ、『歌姫』のパートナーとしてのバケツマンを大々的に喧伝することで他者よりも優位に立とうと思ったのだ。
チャンネルを閉じた麗央があからさまに落胆するとまでは考えていなかったのである。
「レオはもっと自信を持っていいの」
潤んだ瞳で上目遣いに見つめながら、そう囁くユリナを見ると麗央は何も答えられない。
「歌うのだって、やめたっていいの」
「リーナは歌うのが嫌いなのか?」
ユリナは力なく、僅かに首を横に振った。
「でも、レオが嫌なら、やめても……」
「それは違うよ。君が歌いたいなら、俺は全力で君を応援する。だから……」
ユリナの瞳は微かに揺れていた。
麗央はそんなユリナを勇気付けるように「歌ってよ」と伝える。
「うん」とまたも力なく、首を振るが今度は肯定を意味する動きだ。
「レオの為だけに歌ってもいいんだよ?」と付け加えるのもユリナは忘れない。
再び、二つの影が一つになった。
海沿いの長閑な小さな町に若い夫婦が住んでいる。
唄を歌うのが好きな妻とそれを優しく見守る夫。
二人はいつも一緒にいる。
例え、世界が終わろうとも二人は離れることがない。
二人の恋は永遠に続く……。
To be continued
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