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第156話 エピローグ①歌姫の誤算と決心
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ユリナは眉間に皺を寄せ、『歌姫』らしからぬ難しい顔をしていた。
『パシフィックホテル迷宮』の踏破までをライブで配信し、多少の加工と編集を加えアーカイブに加える。
ここまでは良かった。
「おかしいわ。こんなはずでは……」
異常な回転の速さで再生数が上昇している。
歌のライブを売りとする『歌姫』としては甚だ自尊心が傷つくほどの人気だった。
ユリナ自身の人気だけではなく、『歌姫』とその恋人のやり取りが特に受けており、既にいくつもの編集された切り取り動画や考察動画なるものも人気を博している。
特に動画の編集をメインコンテンツとした腕のあるYoTuberにより、編集された切り取り動画の類がSNSでも拡散され勢いは衰えない。
「このままではいけないわね」
ユリナが麗央の前ですら普段、見せない表情になっているのは彼女が想定していなかった異例の事態のせいである。
「何なの、これ」
ユリナは一目見て、サムネイルで絶句した。
サムネイルまでもがバケツマン推し。
バケツマンの切り取り動画が増えている。
ラスボス・スバルとの戦いで男らしいバケツマンに萌えを感じる者が急増したらしい。
バケツマンのチャンネルはないのに彼のファンが増えているのだ。
スバルとの戦いでキレて止めを刺したのはユリナだが、動画に残らない夢の世界での話である。
あくまでライブの画面ではバケツマンが男らしく、『歌姫』を守る姿が映えた。
それだけの話でもあった。
「レオはどう思うの?」
「どうって?」
難しい顔でノートパソコンの画面と睨めっこをしている妻の肩を揉んでいた麗央は急に話を振られ、眉根を寄せる。
肩揉みをしながら、ユリナの深い谷間に目を奪われ、どこか上の空だったからだ。
「このままではいけないと思わない?」
ユリナの言うこのままがいまいち何の話なのか、麗央には分からない。
彼女は時にかなり思考を飛ばした物言いをする。
この問い掛けも既にユリナの中では結論を出しており、麗央にアドバイスを求めているのではなかった。
単に頷いて欲しい。
共感して欲しい。
それだけなのである。
「そうだね。よくないとは思うよ」
麗央は答えを選ばない。
思った通りに素直に答えるだけだ。
ユリナの機嫌を損ねないよう立ち回るといった如才なさは彼にない。
だがそれがユリナには心地いいらしい。
「そうよね。じゃあ、いいよね?」
「え? うん。いいんじゃないかな」
この時も麗央は深く考えず、つい頷いてしまった。
彼はユリナがとんでもないことを考えていようとは思っていなかったのだ。
数時間後、ユリナは「お花摘みに行ってくるね♪」と意味深な発言と共に中々、戻ってこない。
しかし、彼女の身を心配する麗央の目に飛び込んできたのは思いも寄らぬものだった。
液晶テレビに映し出されていたワイドショーが騒然としていた。
緊急速報に近い。
『世界の歌姫、結婚』の文字が躍っている。
生中継されている場所を麗央は知っていた。
場所が特定されないよう配慮された中継だが地元の人間であれば、一目瞭然だった。
役場前に設けられた大きな噴水。
客船のデッキを思わせる特徴的なデザインの建物は、ぼかされていようとあまりにも分かりやすい。
「H町の役場じゃないか」
何度も訪れたことがある場所だった。
知らぬはずもない。
驚きから、半開きになった麗央の口から誰とはなく、言葉が零れる。
聞き咎める者は誰もいない……。
『パシフィックホテル迷宮』の踏破までをライブで配信し、多少の加工と編集を加えアーカイブに加える。
ここまでは良かった。
「おかしいわ。こんなはずでは……」
異常な回転の速さで再生数が上昇している。
歌のライブを売りとする『歌姫』としては甚だ自尊心が傷つくほどの人気だった。
ユリナ自身の人気だけではなく、『歌姫』とその恋人のやり取りが特に受けており、既にいくつもの編集された切り取り動画や考察動画なるものも人気を博している。
特に動画の編集をメインコンテンツとした腕のあるYoTuberにより、編集された切り取り動画の類がSNSでも拡散され勢いは衰えない。
「このままではいけないわね」
ユリナが麗央の前ですら普段、見せない表情になっているのは彼女が想定していなかった異例の事態のせいである。
「何なの、これ」
ユリナは一目見て、サムネイルで絶句した。
サムネイルまでもがバケツマン推し。
バケツマンの切り取り動画が増えている。
ラスボス・スバルとの戦いで男らしいバケツマンに萌えを感じる者が急増したらしい。
バケツマンのチャンネルはないのに彼のファンが増えているのだ。
スバルとの戦いでキレて止めを刺したのはユリナだが、動画に残らない夢の世界での話である。
あくまでライブの画面ではバケツマンが男らしく、『歌姫』を守る姿が映えた。
それだけの話でもあった。
「レオはどう思うの?」
「どうって?」
難しい顔でノートパソコンの画面と睨めっこをしている妻の肩を揉んでいた麗央は急に話を振られ、眉根を寄せる。
肩揉みをしながら、ユリナの深い谷間に目を奪われ、どこか上の空だったからだ。
「このままではいけないと思わない?」
ユリナの言うこのままがいまいち何の話なのか、麗央には分からない。
彼女は時にかなり思考を飛ばした物言いをする。
この問い掛けも既にユリナの中では結論を出しており、麗央にアドバイスを求めているのではなかった。
単に頷いて欲しい。
共感して欲しい。
それだけなのである。
「そうだね。よくないとは思うよ」
麗央は答えを選ばない。
思った通りに素直に答えるだけだ。
ユリナの機嫌を損ねないよう立ち回るといった如才なさは彼にない。
だがそれがユリナには心地いいらしい。
「そうよね。じゃあ、いいよね?」
「え? うん。いいんじゃないかな」
この時も麗央は深く考えず、つい頷いてしまった。
彼はユリナがとんでもないことを考えていようとは思っていなかったのだ。
数時間後、ユリナは「お花摘みに行ってくるね♪」と意味深な発言と共に中々、戻ってこない。
しかし、彼女の身を心配する麗央の目に飛び込んできたのは思いも寄らぬものだった。
液晶テレビに映し出されていたワイドショーが騒然としていた。
緊急速報に近い。
『世界の歌姫、結婚』の文字が躍っている。
生中継されている場所を麗央は知っていた。
場所が特定されないよう配慮された中継だが地元の人間であれば、一目瞭然だった。
役場前に設けられた大きな噴水。
客船のデッキを思わせる特徴的なデザインの建物は、ぼかされていようとあまりにも分かりやすい。
「H町の役場じゃないか」
何度も訪れたことがある場所だった。
知らぬはずもない。
驚きから、半開きになった麗央の口から誰とはなく、言葉が零れる。
聞き咎める者は誰もいない……。
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