141 / 159
第140話 ヨルムンガンドII
しおりを挟む
Y市の軍港で漆黒の闇夜を思わせる巨大な船体を休ませている。
新造巨大潜水空母『ヨルムンガンド』号だった。
Uドックでの最終調整を経て、近海での処女航海を終えたばかりだ。
バイオコンピュータ『ヨルムンガンド』を搭載し、その制御下で無人での稼働にも何の問題もない最新鋭の艦艇である。
未知のテクノロジーがこれでもかと言わんばかりに注ぎ込まれた最新技術の粋を集めた見本市と言っても過言ではないだろう。
バイオコンピュータによる自己判断だけではなく、学習とそれに基づく経験則に応じた進化。
さらには自己修復機能までも備えた未来を担う箱舟の如き船でもあった。
海上自衛隊の港に間借りする形で寄港しているが、その存在は自衛隊にも秘匿されている。
事情を知るのは一部の高官とその意を受けた者達だけだった。
「御武運を」
スクエアタイプの眼鏡をかけた眼光の鋭い男が独り言つ。
あまりにも小さい呟きだったので聞き咎める者は誰もいない。
彼の視線の先には闇色の船に消えていく数人の男の背が見えている。
陸上自衛隊の隊服に身を包んだ男――小暮龍二は隊帽を直すと踵を返し、いずこかへと去っていった。
小暮は一等陸尉の地位にある陸上自衛官である。
彼は新設される特殊部隊・第一特殊任務部隊の小隊長就任が内定していた。
第一特殊任務部隊はK県T駐屯地に属しており、司令は切れ者として知られる美濃部茂一等陸佐だった。
装甲機兵の開発は順調に進み、試作機だったAM-00の制式モデルがついにロールアウトされる運びとなった。
形式番号AM-01。
エピメテウスの名を与えられたこの鋼の巨人はプロメテウスに比べれば、遥かに改良された人型機動兵器であると言えよう。
プロメテウスは未知の機関の運用試験の意味合いが強かった。
頭部、胴体、脚部全てが直方体を繋ぎ合わせたような不格好な物で腕も鉄パイプの先に間に合わせのマニュピレーターが取り付けられた程度の完成度だったのだ。
それに比べれば、エピメテウスは実用に適したモデルである。
量産化を前提とした制式タイプの面目躍如と言ったところだろうか。
まだ小型化に漕ぎつけていない動力機関はこのエピメテウスでもネックとなっており、永遠なる機関とマナ・コンバーターが積まれた胴体は相変わらず、直方体が基本形になっている。
しかし、腕部は装甲に覆われ五本の指を備え、人間の手によく似たマニュピレーターはプロメテウスとは比較にならないほどに向上している。
歩行するのがやっとだった脚部も改良が施され、幾分スマートになった外観通り、動きもまともになった。
問題なく二足で歩行するだけではなく、ある程度は走る動作まで行えるようになったのだ。
エピメテウスは現在、三十機が既にロールアウトされた。
そのうちのニ十機が旧アメリカに向け、輸出されることが決定した。
旧アメリカは元々、この装甲機兵計画を主導していただけにたっての希望である。
しかし、空の王者ジズがいる限り、空路が選べない以上、海路を使うしかなかった。
技術者を含めたこの大がかりなプレゼントを無事に送り届けるにあたり、細心の注意を払わざるを得ない。
そこで白羽の矢が立った。
件のヨルムンガンド号である。
あの『ヨルムンガンド』の魂が宿った船であれば、アメリカまでの航路も問題なく乗り越えられると思われた。
何より、中性子砲なる危険な兵器まで積んだ船である。
生半可な妨害に屈することはないと期待されていた。
ヨルムンガンド号に大切なプレゼントを積み込むのも細心の注意が必要だった。
そこで小暮一尉が抜擢されたのである。
おおよそ十日前後のゆったりとした船旅を経て、アメリカ西海岸に到達したヨルムンガンド号は無事に任務を完了する。
しかし、引き渡されたプレゼントが波乱を引き起こすことになろうとは誰も知らない……。
新造巨大潜水空母『ヨルムンガンド』号だった。
Uドックでの最終調整を経て、近海での処女航海を終えたばかりだ。
バイオコンピュータ『ヨルムンガンド』を搭載し、その制御下で無人での稼働にも何の問題もない最新鋭の艦艇である。
未知のテクノロジーがこれでもかと言わんばかりに注ぎ込まれた最新技術の粋を集めた見本市と言っても過言ではないだろう。
バイオコンピュータによる自己判断だけではなく、学習とそれに基づく経験則に応じた進化。
さらには自己修復機能までも備えた未来を担う箱舟の如き船でもあった。
海上自衛隊の港に間借りする形で寄港しているが、その存在は自衛隊にも秘匿されている。
事情を知るのは一部の高官とその意を受けた者達だけだった。
「御武運を」
スクエアタイプの眼鏡をかけた眼光の鋭い男が独り言つ。
あまりにも小さい呟きだったので聞き咎める者は誰もいない。
彼の視線の先には闇色の船に消えていく数人の男の背が見えている。
陸上自衛隊の隊服に身を包んだ男――小暮龍二は隊帽を直すと踵を返し、いずこかへと去っていった。
小暮は一等陸尉の地位にある陸上自衛官である。
彼は新設される特殊部隊・第一特殊任務部隊の小隊長就任が内定していた。
第一特殊任務部隊はK県T駐屯地に属しており、司令は切れ者として知られる美濃部茂一等陸佐だった。
装甲機兵の開発は順調に進み、試作機だったAM-00の制式モデルがついにロールアウトされる運びとなった。
形式番号AM-01。
エピメテウスの名を与えられたこの鋼の巨人はプロメテウスに比べれば、遥かに改良された人型機動兵器であると言えよう。
プロメテウスは未知の機関の運用試験の意味合いが強かった。
頭部、胴体、脚部全てが直方体を繋ぎ合わせたような不格好な物で腕も鉄パイプの先に間に合わせのマニュピレーターが取り付けられた程度の完成度だったのだ。
それに比べれば、エピメテウスは実用に適したモデルである。
量産化を前提とした制式タイプの面目躍如と言ったところだろうか。
まだ小型化に漕ぎつけていない動力機関はこのエピメテウスでもネックとなっており、永遠なる機関とマナ・コンバーターが積まれた胴体は相変わらず、直方体が基本形になっている。
しかし、腕部は装甲に覆われ五本の指を備え、人間の手によく似たマニュピレーターはプロメテウスとは比較にならないほどに向上している。
歩行するのがやっとだった脚部も改良が施され、幾分スマートになった外観通り、動きもまともになった。
問題なく二足で歩行するだけではなく、ある程度は走る動作まで行えるようになったのだ。
エピメテウスは現在、三十機が既にロールアウトされた。
そのうちのニ十機が旧アメリカに向け、輸出されることが決定した。
旧アメリカは元々、この装甲機兵計画を主導していただけにたっての希望である。
しかし、空の王者ジズがいる限り、空路が選べない以上、海路を使うしかなかった。
技術者を含めたこの大がかりなプレゼントを無事に送り届けるにあたり、細心の注意を払わざるを得ない。
そこで白羽の矢が立った。
件のヨルムンガンド号である。
あの『ヨルムンガンド』の魂が宿った船であれば、アメリカまでの航路も問題なく乗り越えられると思われた。
何より、中性子砲なる危険な兵器まで積んだ船である。
生半可な妨害に屈することはないと期待されていた。
ヨルムンガンド号に大切なプレゼントを積み込むのも細心の注意が必要だった。
そこで小暮一尉が抜擢されたのである。
おおよそ十日前後のゆったりとした船旅を経て、アメリカ西海岸に到達したヨルムンガンド号は無事に任務を完了する。
しかし、引き渡されたプレゼントが波乱を引き起こすことになろうとは誰も知らない……。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる