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第130話 歌姫はゲームがお好き②勝負は三回
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ユリナは麗央が断ると端から思っていない。
逆の場合も同様だった。
提案を断る選択肢はそもそも二人の間に存在すらしていないのだ。
「ただ遊ぶのは面白くないから……勝負しましょ」
「勝負か。いいね」
麗央が乗り気なのには訳がある。
勝ち負けにこだわらない勝負はいつものことだった。
ユリナはゲームが好きなのではなく、ゲームを楽しんでいる麗央と同じことをして過ごすのが好きなだけだ。
それも影響しているのか、料理以外はそつなくこなすユリナだがゲームはあまり得意と言えない。
得意ではないどころか、苦手な部類に入るゲーム下手の可能性すらある。
対戦要素がある人気カートレースでもカートを右に曲げると自分の体も右へと傾くユリナを見て、堪えられなくなった麗央が思わず吹き出した。
これでむきになったユリナは結局、最下位争いをする羽目になっている。
時に祖父譲りの冷徹な一面を見せるユリナだが、こと麗央が絡むと冷静さがどこかへ消えてしまうらしい。
幼さが抜けきれない思春期の少女のようにも見える麗央にしか見せない姿だった。
それもあってか、勝負と言ってもゲームに勝ったら、パンケーキに付けるバニラアイスが増える程度の可愛いものだ。
今回の勝負もそれくらいのものだろうと麗央は考えたのである。
「勝負はそうねぇ。三回でどうかしら?」
「三回?」
「そう。三回も遊べるのよ♪ 楽しいと思わない?」
「そ、そっか」
麗央はてっきり、いつものゲームと勝負だと思い込み、了承した己の迂闊さを後悔した。
先程まで大きな目に収まる宝石のような瞳をキラキラと輝かせていたユリナが、蠱惑的な笑みを浮かべている。
あどけない少女ではなく、妖艶な女性がそこにいた。
ちろりと覗いた舌がゆっくりと上唇を這う様を見ていると麗央は背筋にぞくりとくるものを感じる。
それは決して恐怖ではなく、えもいわれぬ恍惚とした快感に通じるものだ。
「何で遊ぶんだっけ?」
そして、麗央ははたと気付く。
そもそも何で遊ぶのか、どういう勝負をするのか。
そこから分からないことだらけなのだ。
「ダメよぉ? レオはゲームで勝負をするって契約したんだから☆ 私達にとって契約は何よりも重要でしょ?」
「そうだね。約束は大事だ」
「悪魔だ。悪魔がいる」と麗央は思った。
約束と契約は似て非なる物である。
どちらも何らかの行為を履行する際、交わされるものであるのに変わりはないが、重みが違う。
特に『あやかし』は契約を重んじることで有名だ。
「それで何をするんだい?」
麗央は諦めた。
既にユリナの術中にハマったのだと認めない訳にはいかない。
「私の夢の世界で勝負よ、レオ」
「あ、そういうこと」
笑いを噛殺すのを隠したいのか、右手で口を覆うのがユリナの癖だった。
『歌姫』の完璧な仮面を被るユリナにしては、同一人物と思えないほどに分かりやすい態度だった。
悪役令嬢が「おっーほほほほ」と笑っている姿によく似ていると麗央は他人事のように考える。
現実逃避である。
彼女の癖が出た以上、相当に分があると踏んでいるのは間違いなかった。
負けるつもりはなかったが、勝てる自信もない。
これはいささか面倒なことになったと思いながらも、ユリナが楽しそうにしているので「まあ、いっか」と既に流されつつある麗央だった。
逆の場合も同様だった。
提案を断る選択肢はそもそも二人の間に存在すらしていないのだ。
「ただ遊ぶのは面白くないから……勝負しましょ」
「勝負か。いいね」
麗央が乗り気なのには訳がある。
勝ち負けにこだわらない勝負はいつものことだった。
ユリナはゲームが好きなのではなく、ゲームを楽しんでいる麗央と同じことをして過ごすのが好きなだけだ。
それも影響しているのか、料理以外はそつなくこなすユリナだがゲームはあまり得意と言えない。
得意ではないどころか、苦手な部類に入るゲーム下手の可能性すらある。
対戦要素がある人気カートレースでもカートを右に曲げると自分の体も右へと傾くユリナを見て、堪えられなくなった麗央が思わず吹き出した。
これでむきになったユリナは結局、最下位争いをする羽目になっている。
時に祖父譲りの冷徹な一面を見せるユリナだが、こと麗央が絡むと冷静さがどこかへ消えてしまうらしい。
幼さが抜けきれない思春期の少女のようにも見える麗央にしか見せない姿だった。
それもあってか、勝負と言ってもゲームに勝ったら、パンケーキに付けるバニラアイスが増える程度の可愛いものだ。
今回の勝負もそれくらいのものだろうと麗央は考えたのである。
「勝負はそうねぇ。三回でどうかしら?」
「三回?」
「そう。三回も遊べるのよ♪ 楽しいと思わない?」
「そ、そっか」
麗央はてっきり、いつものゲームと勝負だと思い込み、了承した己の迂闊さを後悔した。
先程まで大きな目に収まる宝石のような瞳をキラキラと輝かせていたユリナが、蠱惑的な笑みを浮かべている。
あどけない少女ではなく、妖艶な女性がそこにいた。
ちろりと覗いた舌がゆっくりと上唇を這う様を見ていると麗央は背筋にぞくりとくるものを感じる。
それは決して恐怖ではなく、えもいわれぬ恍惚とした快感に通じるものだ。
「何で遊ぶんだっけ?」
そして、麗央ははたと気付く。
そもそも何で遊ぶのか、どういう勝負をするのか。
そこから分からないことだらけなのだ。
「ダメよぉ? レオはゲームで勝負をするって契約したんだから☆ 私達にとって契約は何よりも重要でしょ?」
「そうだね。約束は大事だ」
「悪魔だ。悪魔がいる」と麗央は思った。
約束と契約は似て非なる物である。
どちらも何らかの行為を履行する際、交わされるものであるのに変わりはないが、重みが違う。
特に『あやかし』は契約を重んじることで有名だ。
「それで何をするんだい?」
麗央は諦めた。
既にユリナの術中にハマったのだと認めない訳にはいかない。
「私の夢の世界で勝負よ、レオ」
「あ、そういうこと」
笑いを噛殺すのを隠したいのか、右手で口を覆うのがユリナの癖だった。
『歌姫』の完璧な仮面を被るユリナにしては、同一人物と思えないほどに分かりやすい態度だった。
悪役令嬢が「おっーほほほほ」と笑っている姿によく似ていると麗央は他人事のように考える。
現実逃避である。
彼女の癖が出た以上、相当に分があると踏んでいるのは間違いなかった。
負けるつもりはなかったが、勝てる自信もない。
これはいささか面倒なことになったと思いながらも、ユリナが楽しそうにしているので「まあ、いっか」と既に流されつつある麗央だった。
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