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第120話 備忘録CaseIX・監視者グリゴリ
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『歌姫』リリーの唄が世界中に覚醒せし者――アウェイカーを生んだ。
彼女の唄は人が持つ潜在的な能力を引き出す切っ掛けだった。
ユリナの有する固有の結界・絶対領域に囚われた者は、夢の世界で能力を確かなものにする。
己の中に眠る己を認めた瞬間、覚醒者となる。
しかし、目覚める能力はいわゆるピンキリだった。
いわゆる未来を予知する能力に目覚めた者もいる。
明日の天気が分かるものから、十分後に己の身に降りかかる不幸を予見するものまで様々な予知能力者が誕生した。
その力を生かしきれない者が多かったが賢く活用し、上手く立ち回る者も少なからずいた。
また、周囲の時が止まったと錯覚を抱きかねない速度で動くことが出来る者もいる。
ただし、空気を深く吸って吐く間だけの制限があった。
この力も使う者次第だった。
力を持った者はどのように使うべきなのか。
これが重要な問いとなる。
この問いに応じるべく、設立されたのが世界覚醒者管理協会だった。
管理の体をとる強引なやり口に対し、反対の声も少なからずあった。
人権保護の問題を訴える抗議デモが行われるほどの騒ぎともなったが、やがて沈静化した。
柔軟な思考を持つ麗央も管理することに疑問を持った。
夫に感化される以前から、ユリナも管理に疑問を抱く側だった。
非常に影響力の強い立場にあるユリナがこの時、夫と共に反対の意思を表明していれば、流れはまた違ったものになっていたのかもしれない。
だが、時に激しい意見を交わしながら、ユリナが麗央と出した結論は静観することだった。
力に目覚めたばかりの人類という種は、ようやく独り立ちができるようになった赤子と同じようなものだ。
人間には善き者もいれば、悪き者もいる。
誤った道に進ませてはいけない。
道を踏み外した『あやかし』は滅びるしかなかったという哀しき歴史が物語っている。
ゆえに二人は人類がそうならないよう今回は目を瞑ることにしたのである。
人類にとって、幸いだったのは世界覚醒者管理協会の理事長がアゼリアだったことだ。
彼女はよく言えば、自由主義。
悪く言えば、放任主義だった。
大天使の意を受け、その座に就いたものの主の遺したメッセージには懐疑的な立場にいた。
その為、非常に緩い管理で手を打とうと考えた。
一方、アゼリアを監視する役割も持つ副理事長サシャは対照的な考えを持っている。
彼はメッセージに従うべきであると考え、アゼリアに待ったをかけた。
理事も交え、何度も調整が行われた結果、協会が認可したアウェイカーにある道具を配布することで妥協する。
この道具はある程度の思考能力と意思を持つ一種の人工精霊であり、名目上の役目はアウェイカーの監視だったが実質、彼らの身を守る為に与えられた物である。
見た目は丁度、野球のボールと同じくらいの大きさの球形で表面は滑らかな金属質に覆われていた。
与えられたアウェイカーのすぐそばで常に宙に浮いているが、人工精霊なので力がある者にしか視認されない。
グリゴリの名を与えられたこの小さき精霊には何と、YoTubeへのライブ配信機能まで備わっている。
ダンジョンへのアタックが許されるのはアウェイカーだけである。
その為、ダンジョンに侵入する際はこの機能を使ったライブ配信が義務付けられた。
これによって、有事が起きた際、後に続く者の助けともなり、また不正が働けないように監視も出来る。
一石二鳥の実によく出来た監視者なのだ。
しかし、例外もある。
「ええ。ですから、貴方はかなり特別ですのよ」
「は、はあ。でも、何で俺っちが……」
麗央の良き兄貴分として、ユリナとの関係で悩む彼にアドバイスを与えた五十六は戸惑いを隠せない。
ボサボサの赤髪を乱暴に搔き毟り、しきりと黒縁のスクエアタイプの眼鏡を指でいじった。
実は彼の目は既に眼鏡を必要としていない。
五十六はあの日、『歌姫』のライブを見た。
そして、覚醒した。
やや赤みがかった髪が目にも鮮やかな紅の色に変化し、生まれながらに弱かった視力が瞬時に治ったのである。
目覚めたのは激しく燃え盛る炎の力――『烈火』だった。
彼女の唄は人が持つ潜在的な能力を引き出す切っ掛けだった。
ユリナの有する固有の結界・絶対領域に囚われた者は、夢の世界で能力を確かなものにする。
己の中に眠る己を認めた瞬間、覚醒者となる。
しかし、目覚める能力はいわゆるピンキリだった。
いわゆる未来を予知する能力に目覚めた者もいる。
明日の天気が分かるものから、十分後に己の身に降りかかる不幸を予見するものまで様々な予知能力者が誕生した。
その力を生かしきれない者が多かったが賢く活用し、上手く立ち回る者も少なからずいた。
また、周囲の時が止まったと錯覚を抱きかねない速度で動くことが出来る者もいる。
ただし、空気を深く吸って吐く間だけの制限があった。
この力も使う者次第だった。
力を持った者はどのように使うべきなのか。
これが重要な問いとなる。
この問いに応じるべく、設立されたのが世界覚醒者管理協会だった。
管理の体をとる強引なやり口に対し、反対の声も少なからずあった。
人権保護の問題を訴える抗議デモが行われるほどの騒ぎともなったが、やがて沈静化した。
柔軟な思考を持つ麗央も管理することに疑問を持った。
夫に感化される以前から、ユリナも管理に疑問を抱く側だった。
非常に影響力の強い立場にあるユリナがこの時、夫と共に反対の意思を表明していれば、流れはまた違ったものになっていたのかもしれない。
だが、時に激しい意見を交わしながら、ユリナが麗央と出した結論は静観することだった。
力に目覚めたばかりの人類という種は、ようやく独り立ちができるようになった赤子と同じようなものだ。
人間には善き者もいれば、悪き者もいる。
誤った道に進ませてはいけない。
道を踏み外した『あやかし』は滅びるしかなかったという哀しき歴史が物語っている。
ゆえに二人は人類がそうならないよう今回は目を瞑ることにしたのである。
人類にとって、幸いだったのは世界覚醒者管理協会の理事長がアゼリアだったことだ。
彼女はよく言えば、自由主義。
悪く言えば、放任主義だった。
大天使の意を受け、その座に就いたものの主の遺したメッセージには懐疑的な立場にいた。
その為、非常に緩い管理で手を打とうと考えた。
一方、アゼリアを監視する役割も持つ副理事長サシャは対照的な考えを持っている。
彼はメッセージに従うべきであると考え、アゼリアに待ったをかけた。
理事も交え、何度も調整が行われた結果、協会が認可したアウェイカーにある道具を配布することで妥協する。
この道具はある程度の思考能力と意思を持つ一種の人工精霊であり、名目上の役目はアウェイカーの監視だったが実質、彼らの身を守る為に与えられた物である。
見た目は丁度、野球のボールと同じくらいの大きさの球形で表面は滑らかな金属質に覆われていた。
与えられたアウェイカーのすぐそばで常に宙に浮いているが、人工精霊なので力がある者にしか視認されない。
グリゴリの名を与えられたこの小さき精霊には何と、YoTubeへのライブ配信機能まで備わっている。
ダンジョンへのアタックが許されるのはアウェイカーだけである。
その為、ダンジョンに侵入する際はこの機能を使ったライブ配信が義務付けられた。
これによって、有事が起きた際、後に続く者の助けともなり、また不正が働けないように監視も出来る。
一石二鳥の実によく出来た監視者なのだ。
しかし、例外もある。
「ええ。ですから、貴方はかなり特別ですのよ」
「は、はあ。でも、何で俺っちが……」
麗央の良き兄貴分として、ユリナとの関係で悩む彼にアドバイスを与えた五十六は戸惑いを隠せない。
ボサボサの赤髪を乱暴に搔き毟り、しきりと黒縁のスクエアタイプの眼鏡を指でいじった。
実は彼の目は既に眼鏡を必要としていない。
五十六はあの日、『歌姫』のライブを見た。
そして、覚醒した。
やや赤みがかった髪が目にも鮮やかな紅の色に変化し、生まれながらに弱かった視力が瞬時に治ったのである。
目覚めたのは激しく燃え盛る炎の力――『烈火』だった。
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