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第118話 先見の明を持ちしモノ③機械仕掛けの巨人
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「じゃあ、方々からの反対の理由って、まさか……」
「そのまさかでございあすよ。動力部の核に使ったんでございあす。人をでございあすよ」
あやかし界にも紳士協定は存在する。
命を奪うこと自体は禁じられていなかった。
大多数のあやかしはマナの吸収で事足りる。
しかし、人そのものを喰らわなければならないモノも存在する。
それゆえ、禁じられてはいない。
だが、制限は設けられている。
それは罪のある者に限られ、命を弄ぶことは許されない行為とされていた。
人が動力機関に使われたという事実は決して、看過出来ないものだった。
「ありえないわ」
腕に収まるユリナが微かに震えているのは怯えからなのか、それとも怒りからなのか。
理由までを察することの出来ない麗央だが、愛妻を不安にさせる要素に対して、怒りに似た感情を露わにする。
場を圧する重くのしかかる重力にも似た威圧感を無意識のうちに発していた。
怒りを表さず、力を発揮する。
これが彼の本質だったがどうにも抑えきれないものが表層に出るのも若さゆえ、仕方ないことなのかもしれない。
もっとも麗央の父である雷の神はそれなりの時を生き抜いた歴戦の強者だが、未だに己の制御に難儀している。
それに比べれば、遥かに大人であるとも言えた。
「お二人とも怒りを鎮めてつかあさい」
「あら……ごめんなさい」
「あっ。ごめん」
今や北の地を代表する超級のあやかしとなっている二人が、抑えきれずに漏れ出した殺意や破壊衝動にも似た恐ろしい気にヱビスは懐から、取り出したハンカチで脂汗を拭って耐えるしかなかった。
その様子に気付いたユリナはさすがにばつが悪くなったのか、僅かに頬を赤らめ、麗央に体を預けると顔を隠した。
麗央は妻の温もりでようやく我を取り戻し、気を収める。
「自分はお二人と同じようで同じではございあせん。平に御容赦あれ」
ヱビスの言葉にユリナは考えさせられるものがあった。
ヱビスもまた、親元から離された――追放された御子神であると知らなかった訳ではない。
ユリナは世界を滅ぼしかねない神々の運命が発生する因子になりうると兄らと共に凍てつく地に追放された。
彼女は体内で生成される魔力の多さにより、発生する魔力過多症の症状で醜くなっていたのも少なからず、影響していたが実のところ、凍てつく地を治めることが出来る神性を有する者が他にいなかったのも大きい。
麗央は異邦人の母親から、生まれた半神だったこともあり疎まれ、追放された。
実際には母子を守るべく、追放という体で中央から遠ざけ、難を逃れさせようと考えた大神の策だったが、事態は全てを見通す大神ですら予見出来なかったようだ。
結果として、魔物が棲む絶海の孤島に流れ着いた彼は『勇者』として、正しく強く成長することになった。
ヱビスもまた、二人と同じく、生後すぐに追放された。
理由は両親どちらにも似ていなかったからともあまりにも醜かったからとも言われているが、真実はもっと酷なものである。
ヱビスに秘められた力を恐れるあまり、海に流した。
海は彼岸に通じる異界への通り道だ。
彼は生まれながらに葬られたも同然だった。
しかし、ヱビスは死ななかった。
流れ着いた地で神として、覚醒し、ある強い思いを抱くようになった。
それは決して、復讐を誓う後ろ向きなものではない。
己よりも弱き者を守ろうとする優しき心だ。
「それでヱビスさん。あなたの望みは何かしら?」
「簡単なことでございあす。『歌姫』の唄を応用した機関の開発に御協力願いたいのでございあすよ」
「ふぅ~ん。そういうことなのね。いいわ」
ユリナがあまりにもあっさりと了承したのが意外だったのか、ヱビスは毒気を抜かれたような間抜けな表情になっている。
一方、ユリナは麗央に横抱きに抱えられているのが御満悦なのか、あまり気にしていない。
麗央は着ていたジャケットでしっかりと包み、彼女の肌が見えないようにと苦慮していた。
かくして元『タカマガハラ』の執行部だった男の主導により、装甲機兵計画が再編された。
これまで問題しかなかった動力機関は一から、見直しがされた。
光宗博士により考案されたマナ・コンバーターを搭載し、永遠なる機関と名付けれた新型動力炉が完成した。
この開発にはとある『歌姫』が関わっていたことを知る者は多くはない。
秘匿中の秘匿として、今後も明かされることはないだろう。
『歌姫』の唄には人間から、マナを吸収する一種の呪いがかけられている。
それは呪いでありながら、祝福でもある。
幸福を感じる代償として、少しばかり刈り取られているのだ。
この唄と同じ効力を発揮する仕掛けが件の変換器だった。
この変換器――マナ・コンバーターには制限がかけられている。
ユリナとヱビスの間で交わされた密約により、仕込まれた毒とでも言うべきものだ。
鋼の巨人は弱き人々を守るモノであり、脅威となったあやかしと戦うモノ。
そうである以上、この装甲機兵が他の用途に使われることがあってはならない。
人と人の争いに使われるようなことがあれば、どうなるのか。
願わくば、そのような悲劇が訪れんことを……。
そのような願いが込められた試作一号機のAM-00が完成するのはそれから、遠くない未来のことである。
「そのまさかでございあすよ。動力部の核に使ったんでございあす。人をでございあすよ」
あやかし界にも紳士協定は存在する。
命を奪うこと自体は禁じられていなかった。
大多数のあやかしはマナの吸収で事足りる。
しかし、人そのものを喰らわなければならないモノも存在する。
それゆえ、禁じられてはいない。
だが、制限は設けられている。
それは罪のある者に限られ、命を弄ぶことは許されない行為とされていた。
人が動力機関に使われたという事実は決して、看過出来ないものだった。
「ありえないわ」
腕に収まるユリナが微かに震えているのは怯えからなのか、それとも怒りからなのか。
理由までを察することの出来ない麗央だが、愛妻を不安にさせる要素に対して、怒りに似た感情を露わにする。
場を圧する重くのしかかる重力にも似た威圧感を無意識のうちに発していた。
怒りを表さず、力を発揮する。
これが彼の本質だったがどうにも抑えきれないものが表層に出るのも若さゆえ、仕方ないことなのかもしれない。
もっとも麗央の父である雷の神はそれなりの時を生き抜いた歴戦の強者だが、未だに己の制御に難儀している。
それに比べれば、遥かに大人であるとも言えた。
「お二人とも怒りを鎮めてつかあさい」
「あら……ごめんなさい」
「あっ。ごめん」
今や北の地を代表する超級のあやかしとなっている二人が、抑えきれずに漏れ出した殺意や破壊衝動にも似た恐ろしい気にヱビスは懐から、取り出したハンカチで脂汗を拭って耐えるしかなかった。
その様子に気付いたユリナはさすがにばつが悪くなったのか、僅かに頬を赤らめ、麗央に体を預けると顔を隠した。
麗央は妻の温もりでようやく我を取り戻し、気を収める。
「自分はお二人と同じようで同じではございあせん。平に御容赦あれ」
ヱビスの言葉にユリナは考えさせられるものがあった。
ヱビスもまた、親元から離された――追放された御子神であると知らなかった訳ではない。
ユリナは世界を滅ぼしかねない神々の運命が発生する因子になりうると兄らと共に凍てつく地に追放された。
彼女は体内で生成される魔力の多さにより、発生する魔力過多症の症状で醜くなっていたのも少なからず、影響していたが実のところ、凍てつく地を治めることが出来る神性を有する者が他にいなかったのも大きい。
麗央は異邦人の母親から、生まれた半神だったこともあり疎まれ、追放された。
実際には母子を守るべく、追放という体で中央から遠ざけ、難を逃れさせようと考えた大神の策だったが、事態は全てを見通す大神ですら予見出来なかったようだ。
結果として、魔物が棲む絶海の孤島に流れ着いた彼は『勇者』として、正しく強く成長することになった。
ヱビスもまた、二人と同じく、生後すぐに追放された。
理由は両親どちらにも似ていなかったからともあまりにも醜かったからとも言われているが、真実はもっと酷なものである。
ヱビスに秘められた力を恐れるあまり、海に流した。
海は彼岸に通じる異界への通り道だ。
彼は生まれながらに葬られたも同然だった。
しかし、ヱビスは死ななかった。
流れ着いた地で神として、覚醒し、ある強い思いを抱くようになった。
それは決して、復讐を誓う後ろ向きなものではない。
己よりも弱き者を守ろうとする優しき心だ。
「それでヱビスさん。あなたの望みは何かしら?」
「簡単なことでございあす。『歌姫』の唄を応用した機関の開発に御協力願いたいのでございあすよ」
「ふぅ~ん。そういうことなのね。いいわ」
ユリナがあまりにもあっさりと了承したのが意外だったのか、ヱビスは毒気を抜かれたような間抜けな表情になっている。
一方、ユリナは麗央に横抱きに抱えられているのが御満悦なのか、あまり気にしていない。
麗央は着ていたジャケットでしっかりと包み、彼女の肌が見えないようにと苦慮していた。
かくして元『タカマガハラ』の執行部だった男の主導により、装甲機兵計画が再編された。
これまで問題しかなかった動力機関は一から、見直しがされた。
光宗博士により考案されたマナ・コンバーターを搭載し、永遠なる機関と名付けれた新型動力炉が完成した。
この開発にはとある『歌姫』が関わっていたことを知る者は多くはない。
秘匿中の秘匿として、今後も明かされることはないだろう。
『歌姫』の唄には人間から、マナを吸収する一種の呪いがかけられている。
それは呪いでありながら、祝福でもある。
幸福を感じる代償として、少しばかり刈り取られているのだ。
この唄と同じ効力を発揮する仕掛けが件の変換器だった。
この変換器――マナ・コンバーターには制限がかけられている。
ユリナとヱビスの間で交わされた密約により、仕込まれた毒とでも言うべきものだ。
鋼の巨人は弱き人々を守るモノであり、脅威となったあやかしと戦うモノ。
そうである以上、この装甲機兵が他の用途に使われることがあってはならない。
人と人の争いに使われるようなことがあれば、どうなるのか。
願わくば、そのような悲劇が訪れんことを……。
そのような願いが込められた試作一号機のAM-00が完成するのはそれから、遠くない未来のことである。
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