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第107話 備忘録CaseVIII・チハルとヨウコ②
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さらに悪いことは続くものだ。
事故を起こした加害者も死亡している。
加害者が死亡した場合、賠償金が支払われない。
運転者もまた身寄りがなく、相続人の一人すらいなかったのである。
損害賠償を請求する相手がいなければ、ヨウコには何も出来なかった。
最悪なことに双方ともに保険に加入していなかった。
泣き寝入りするしかない。
しかし、ヨウコは途方に暮れている暇などなかった。
「パパはどうしたの?」とまだ、死を理解していない幼いチハルがいたからだ。
自分がどうにかしなければ、チハルを守る者はいない。
ミノルはいなくなってしまった。
しかし、ヨウコはこの時、不思議な体験をしていた。
何かは分からない。
目に見えない存在が傍で温かく見守ってくれていると感じられた。
魂だけになったミノルが見守っているのだ。
そう己を勇気付け、ヨウコは辛い時期を乗り越えた。
母一人子一人で余裕のある生活には程遠かったが、チハルはすくすくと成長する。
幼き日のチハルは脇目も振らず、働きづめの母親を見て、自分が大きくなったら母親を助けようと決意した。
父親がいなくなった理由も理解していた。
自分の為に母親が人一倍苦労を背負いこんでいると知っていた。
この頃のチハルはいつか母親に楽をさせたいと願う優しい心根の娘だったのである。
チハルが思春期を迎えた頃、二人の関係に歪なものが生じた。
この頃にはヨウコの努力と奮闘により、親娘二人の生活に十分な余裕が生まれていた。
それが仇となったのである。
チハルは模範的な優等生として進学校の高等学校に進学した。
小学校から中学校まで地元の気心の知れた面々しか、いない環境で育ったチハルにとって高校は未知なる新しい世界だった。
新たな価値観がチハルに変化をもたらす。
それは決して、いい兆しとは言えないものだった。
いつしか、彼女は道化師の仮面を被るようになった。
相手に心を読まれ、下に見られたくないと抗う自己防衛機能に近いものである。
「あてしはママとは違う。ママみたいにはならないんだから」
成績優秀で教師の覚えめでたい優等生であることは変わらない。
しかし、クラスメイトや友人の前では道化を演じることに慣れ、それが己の本質であると錯覚を起こしていた。
笑わせているのではない。
笑われていることに気付かず、愚かにも踊り続ける道化。
チハル自身、心の奥底では気付いていたのかもしれない。
だが、知らず気付かずと顔を背けた結果、モンスターが生まれてしまった。
「あてしは人気者なんだから! あんたとは違うんだよ」
大学を中退し、女手一つで育ててくれた母親に感謝の言葉ではなく、恨み言しか言わなくなったチハルだが、それでも優等生である。
世間では一流大学と認識される私立大学に推薦で入学した。
これが親娘の関係に止めを刺したと言っても過言ではない。
チハルの増長は留まるところを知らず、学歴で母親を見下すばかりか、言葉の暴力も酷くなる一方だった。
かつて「おっきくなったらね。ママをよいしょってたすけるんだぁ」と言っていた心優しい娘はどこにもいなかった。
事故を起こした加害者も死亡している。
加害者が死亡した場合、賠償金が支払われない。
運転者もまた身寄りがなく、相続人の一人すらいなかったのである。
損害賠償を請求する相手がいなければ、ヨウコには何も出来なかった。
最悪なことに双方ともに保険に加入していなかった。
泣き寝入りするしかない。
しかし、ヨウコは途方に暮れている暇などなかった。
「パパはどうしたの?」とまだ、死を理解していない幼いチハルがいたからだ。
自分がどうにかしなければ、チハルを守る者はいない。
ミノルはいなくなってしまった。
しかし、ヨウコはこの時、不思議な体験をしていた。
何かは分からない。
目に見えない存在が傍で温かく見守ってくれていると感じられた。
魂だけになったミノルが見守っているのだ。
そう己を勇気付け、ヨウコは辛い時期を乗り越えた。
母一人子一人で余裕のある生活には程遠かったが、チハルはすくすくと成長する。
幼き日のチハルは脇目も振らず、働きづめの母親を見て、自分が大きくなったら母親を助けようと決意した。
父親がいなくなった理由も理解していた。
自分の為に母親が人一倍苦労を背負いこんでいると知っていた。
この頃のチハルはいつか母親に楽をさせたいと願う優しい心根の娘だったのである。
チハルが思春期を迎えた頃、二人の関係に歪なものが生じた。
この頃にはヨウコの努力と奮闘により、親娘二人の生活に十分な余裕が生まれていた。
それが仇となったのである。
チハルは模範的な優等生として進学校の高等学校に進学した。
小学校から中学校まで地元の気心の知れた面々しか、いない環境で育ったチハルにとって高校は未知なる新しい世界だった。
新たな価値観がチハルに変化をもたらす。
それは決して、いい兆しとは言えないものだった。
いつしか、彼女は道化師の仮面を被るようになった。
相手に心を読まれ、下に見られたくないと抗う自己防衛機能に近いものである。
「あてしはママとは違う。ママみたいにはならないんだから」
成績優秀で教師の覚えめでたい優等生であることは変わらない。
しかし、クラスメイトや友人の前では道化を演じることに慣れ、それが己の本質であると錯覚を起こしていた。
笑わせているのではない。
笑われていることに気付かず、愚かにも踊り続ける道化。
チハル自身、心の奥底では気付いていたのかもしれない。
だが、知らず気付かずと顔を背けた結果、モンスターが生まれてしまった。
「あてしは人気者なんだから! あんたとは違うんだよ」
大学を中退し、女手一つで育ててくれた母親に感謝の言葉ではなく、恨み言しか言わなくなったチハルだが、それでも優等生である。
世間では一流大学と認識される私立大学に推薦で入学した。
これが親娘の関係に止めを刺したと言っても過言ではない。
チハルの増長は留まるところを知らず、学歴で母親を見下すばかりか、言葉の暴力も酷くなる一方だった。
かつて「おっきくなったらね。ママをよいしょってたすけるんだぁ」と言っていた心優しい娘はどこにもいなかった。
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