94 / 159
第93話 真夏の決闘・ゆりな対麗央④勇者の敗北
しおりを挟む 一方、その少し前のことだ。周兄弟の方でもオペラを観に行った曹らが帰って来ないことで騒ぎになっていた。ホテルのロビーに降りてフロントでチェックインの有無を確認したが、未だ誰も戻って来た形跡はない。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる