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第86話 備忘録CaseVII・提灯小僧フォーエバー
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小さな村である。
男の話はあっという間に村に広がり、初めこそ驚いていた村人もさもありなんといつしか、受け入れていた。
夜道で偶然、提灯小僧に出会った村人も男の話を聞いていたからか、驚きはするものの会釈をする始末だった。
会釈された提灯小僧の方が泡食って、慌てたほどである。
何より、提灯小僧に敵意が全く感じられない。
鬼灯のように真っ赤な顔は確かに異様ではあった。
だが、笑顔一つ見せず、つっけんどんでぶっきらぼうな元侍の男を一夜にして、変えた存在なのが大きかった。
どこかユーモラスにも見える提灯小僧の姿に不思議な魅力を感じ、興味津々と彼に近づく村人が増えた。
そんな時、提灯小僧はおどけた笑顔で彼らを迎える。
「こんばんは。おやっとさーん」
「お前さん。それじゃ、豆腐小僧だろうて」
「おやおや。そりゃ、おやっこさんですね。おっとっと。こりゃ、いけねえや」
提灯小僧はさらにおどけて見せるものだから、彼の人気は留まることを知らない。
何と言っても辺鄙な場所にあり、滅多に訪れる者もいない小さな村。
村人は娯楽に飢えていたのである。
「おいらは提灯小僧と申しやすん。こん村でお祭りさ、開くことになったで。みなしゃんにお知らせしに来たっとです」
提灯を片手にくるくると一回転して見せながら、提灯小僧がそう言ったところ、村人が拍手喝采して迎える。
いつしか、これが通例となっていた。
既に興奮のるつぼと化した村は提灯小僧を出迎え、定例の集会を開く村の開けた場所に集まった。
広場では既に祭りの準備が進められていた。
提灯小僧は口が裂けんばかりに大きく開いた笑顔で皆を励まし、手伝った。
祭りの成功を目指し、村人と提灯小僧の心が一つになった。
夜の帳が下り、月明かりが薄っすらと大地を照らす頃、広場は煌々とした灯りで照らされていた。
仄かな灯火を抱く、美しい提灯をいっぱいに飾られた広場は夜でありながら、昼の如しだった。
稚拙なれども、心を愉快にさせる明るく伸びやかな音楽で彩られ、村人は楽しそうに踊った。
普段は口に出来ない豪華な食べ物は味も格別だった。
村人は祭りを大いに楽しんでいた。
提灯小僧の手にした提灯もその様子に喜んでいるかのようにほんのりとした光を瞬かせている。
すると、侍だった男が提灯小僧に近づいた。
男も祭りを楽しんでいた。
人の心を忘れかけていた男にとって、提灯小僧との出会いと村での生活は掛け替えのないものとなった。
「お主の提灯は不思議だな」
男が呟くようにそう言うと提灯小僧は笑顔で答えた。
「おいらはね。元々は何の変哲もねえ、そこらにいる普通の子供だったんですよ。ある日、おじいさんから、もらったんでえすよ。この特別な提灯をね! これを持っていると不思議な力が湧いてきたんでさあ。そんで、おいらは思ったんすよ。この提灯でみんなを幸せに出来るんじゃあねえんかと」
男は突然の提灯小僧の告白に驚きながらも、興味津々で聞き入った。
ただ生き抜く為に己のことだけを考え、生きてきた男の心に深く染み入る言葉だった。
こんな子供でも立派な心掛けを持っている。
それなのに己は何だと男は自分自身を責めつつも提灯小僧のように生きてみたいものだと密かに誓った。
祭りは大成功のうちに幕を閉じた。
提灯小僧はその後も村人を楽しませるようと様々な趣向を凝らした。
彼の生き様は多くの人の生き方を変え、考えを改めさせた。
提灯小僧はそれからもふらっと現れる。
彼が現れると明るく、楽しい雰囲気が自然に広がった。
ある日のこと。
村人は提灯小僧への感謝の気持ちを表そうと提灯小僧を歓待する祭りを開催した。
提灯小僧には内緒で計画されたこの祭りは大成功だった。
殊の外喜んだ提灯小僧の心もまた、村人への感謝の気持ちでいっぱいになった。
こうして、提灯小僧の持つ明るさと優しさ、他者を慮る心はいつしか、村人の心を癒し、絆を深めるきっかけとなったのである。
提灯小僧は祭りが終わっても姿を消すことなく村に残った。
畑仕事で困っている村人がいれば、共に汗を流した。
水汲みに難儀している年を取った村人がいれば、すぐに駆け付け、実の孫のように接した。
様々な活動を通じ、村人と交流するうちに提灯小僧は村の一員と見なされるようになった。
しかめっ面でぶっきらぼうだった男はもういない。
それまで村人との間に見えない壁を作っていた男はもういない。
提灯小僧のお陰で誰もが明るい笑顔を浮かべられる村になった。
そして、提灯小僧が姿を消した。
村人は心配したが、彼が残した手紙には拙い文字で「もうおいらがいなくてもでえじょうぶだ。おいらはあらたな旅に出るだ」と書かれていた。
恩人でもあり、家族といっても過言ではない提灯小僧の旅立ちに村人は涙した。
提灯小僧はかくして、村から消えてしまったが彼が遺した思い出は村人の中で生き続ける。
彼が与えた明るく、優しい世界は村の文化と伝統に深く根付き、代々語り継がれていくことになったのである。
提灯小僧は新たな旅に出た。
さらなる人々の心を温かくすべく……。
男の話はあっという間に村に広がり、初めこそ驚いていた村人もさもありなんといつしか、受け入れていた。
夜道で偶然、提灯小僧に出会った村人も男の話を聞いていたからか、驚きはするものの会釈をする始末だった。
会釈された提灯小僧の方が泡食って、慌てたほどである。
何より、提灯小僧に敵意が全く感じられない。
鬼灯のように真っ赤な顔は確かに異様ではあった。
だが、笑顔一つ見せず、つっけんどんでぶっきらぼうな元侍の男を一夜にして、変えた存在なのが大きかった。
どこかユーモラスにも見える提灯小僧の姿に不思議な魅力を感じ、興味津々と彼に近づく村人が増えた。
そんな時、提灯小僧はおどけた笑顔で彼らを迎える。
「こんばんは。おやっとさーん」
「お前さん。それじゃ、豆腐小僧だろうて」
「おやおや。そりゃ、おやっこさんですね。おっとっと。こりゃ、いけねえや」
提灯小僧はさらにおどけて見せるものだから、彼の人気は留まることを知らない。
何と言っても辺鄙な場所にあり、滅多に訪れる者もいない小さな村。
村人は娯楽に飢えていたのである。
「おいらは提灯小僧と申しやすん。こん村でお祭りさ、開くことになったで。みなしゃんにお知らせしに来たっとです」
提灯を片手にくるくると一回転して見せながら、提灯小僧がそう言ったところ、村人が拍手喝采して迎える。
いつしか、これが通例となっていた。
既に興奮のるつぼと化した村は提灯小僧を出迎え、定例の集会を開く村の開けた場所に集まった。
広場では既に祭りの準備が進められていた。
提灯小僧は口が裂けんばかりに大きく開いた笑顔で皆を励まし、手伝った。
祭りの成功を目指し、村人と提灯小僧の心が一つになった。
夜の帳が下り、月明かりが薄っすらと大地を照らす頃、広場は煌々とした灯りで照らされていた。
仄かな灯火を抱く、美しい提灯をいっぱいに飾られた広場は夜でありながら、昼の如しだった。
稚拙なれども、心を愉快にさせる明るく伸びやかな音楽で彩られ、村人は楽しそうに踊った。
普段は口に出来ない豪華な食べ物は味も格別だった。
村人は祭りを大いに楽しんでいた。
提灯小僧の手にした提灯もその様子に喜んでいるかのようにほんのりとした光を瞬かせている。
すると、侍だった男が提灯小僧に近づいた。
男も祭りを楽しんでいた。
人の心を忘れかけていた男にとって、提灯小僧との出会いと村での生活は掛け替えのないものとなった。
「お主の提灯は不思議だな」
男が呟くようにそう言うと提灯小僧は笑顔で答えた。
「おいらはね。元々は何の変哲もねえ、そこらにいる普通の子供だったんですよ。ある日、おじいさんから、もらったんでえすよ。この特別な提灯をね! これを持っていると不思議な力が湧いてきたんでさあ。そんで、おいらは思ったんすよ。この提灯でみんなを幸せに出来るんじゃあねえんかと」
男は突然の提灯小僧の告白に驚きながらも、興味津々で聞き入った。
ただ生き抜く為に己のことだけを考え、生きてきた男の心に深く染み入る言葉だった。
こんな子供でも立派な心掛けを持っている。
それなのに己は何だと男は自分自身を責めつつも提灯小僧のように生きてみたいものだと密かに誓った。
祭りは大成功のうちに幕を閉じた。
提灯小僧はその後も村人を楽しませるようと様々な趣向を凝らした。
彼の生き様は多くの人の生き方を変え、考えを改めさせた。
提灯小僧はそれからもふらっと現れる。
彼が現れると明るく、楽しい雰囲気が自然に広がった。
ある日のこと。
村人は提灯小僧への感謝の気持ちを表そうと提灯小僧を歓待する祭りを開催した。
提灯小僧には内緒で計画されたこの祭りは大成功だった。
殊の外喜んだ提灯小僧の心もまた、村人への感謝の気持ちでいっぱいになった。
こうして、提灯小僧の持つ明るさと優しさ、他者を慮る心はいつしか、村人の心を癒し、絆を深めるきっかけとなったのである。
提灯小僧は祭りが終わっても姿を消すことなく村に残った。
畑仕事で困っている村人がいれば、共に汗を流した。
水汲みに難儀している年を取った村人がいれば、すぐに駆け付け、実の孫のように接した。
様々な活動を通じ、村人と交流するうちに提灯小僧は村の一員と見なされるようになった。
しかめっ面でぶっきらぼうだった男はもういない。
それまで村人との間に見えない壁を作っていた男はもういない。
提灯小僧のお陰で誰もが明るい笑顔を浮かべられる村になった。
そして、提灯小僧が姿を消した。
村人は心配したが、彼が残した手紙には拙い文字で「もうおいらがいなくてもでえじょうぶだ。おいらはあらたな旅に出るだ」と書かれていた。
恩人でもあり、家族といっても過言ではない提灯小僧の旅立ちに村人は涙した。
提灯小僧はかくして、村から消えてしまったが彼が遺した思い出は村人の中で生き続ける。
彼が与えた明るく、優しい世界は村の文化と伝統に深く根付き、代々語り継がれていくことになったのである。
提灯小僧は新たな旅に出た。
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