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第82話 吾輩はフェンリルである①残念イケメン
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イザークは三兄妹の長兄として生まれた。
本来であれば、家を背負って立つ立場にあり、然るべき重要な地位を与えられてもおかしくなかった。
真・獣形態であれば、上顎は天に下顎は地に届き、咆哮で壊せない物がないとされる地上最強の魔獣フェンリルである。
むしろ、そうでなければおかしいくらいだ。
ところが現在のイザークは末の妹であるユリナが嫁いだ雷邸の居候に過ぎない。
次元の壁を通り抜け、やって来た際、多くの力を失ったイザークは肉体の維持に全ての力を注いだ結果、姿がポメラニアンほどに小さくなり、脆弱になってしまったのだ。
これでは居候として、惰眠と暴食を貪る日々しか、送れなかったとしてもイザークを責めるのは酷と言うものだ。
鏡合わせの世界ではユリナと同じく、人の姿を取っていたイザークだが、ポメラニアンの姿ではそれも叶わない。
しかし、運は彼に味方をした。
そんな不遇をかこつイザークにもようやく、風が吹いたのだ。
運命の出会いは偶然ではなく、必然だった。
導かれるようにやって来た風変わりな少女は、三兄妹にとって異母妹にあたる半神のイリスだった。
ユリナに妹の面倒を任せられた当初、イザークは厄介事を任せられただけと思い、腐っていた。
なりこそポメラニアンのようになっていようとも心は孤高の狼でありたい。
そう誓いを立てたイザークである。
だが、イリスと行動を共にしたことで風向きが変わったのもまた、事実だった。
イリスは元々、ハンターを生業として生きていた。
異母妹が自分の考えよりも遥かにしっかりとしていることを知ったイザークは、ここでようやく妹の真意に気付いた。
ライブ配信で除霊を行うのがイリスのライブスタイルであり、イザークの役割はそのサポートがメインだった。
愛らしいポメラニアンのように見える見た目も影響したのか、想定した以上にイザークのいる意味合いが高く、ユリナの機嫌も良かった。
イザークにとっても悪いことではない。
除霊で相対する怪異は取るに足らない小者ばかりである。
イザークは『スタッフが美味しくいただきました』を地で実行した。
肉体維持及び構成の再構築に必要なエナジーを得るべく、イザークは食べに食べた。
改心の見込みもない狂暴極まりない怪異が横行していたことも大きい。
麗央が絡まない限り、非常に鷹揚なところがあるユリナもイザークの食事を黙認した。
そして、イザークはようやくポメラニアンを卒業することが出来たのである。
さらにN県S市の九十九島『大迷宮』での一件が大きかった。
件の『大迷宮』でこれまでにないほどのエナジーを体に溜め込むことが出来たイザークは、着実にその力を高めた。
「……なのになぜ、吾輩を仲間外れにするのである?」
合点がいかないと不満だけではなく、一切を隠そうともせず、一人の男がとある高層の集合住宅の屋上に佇んでいた。
その集合住宅は普通の賃貸物件ではない。
入居しているのがまず人間ではなかった。
魂の連れ合いが見つかり、新居に越した露を除いたユリナのプロデュースしたYoTuber。
菊、リ・トスを始めとして、怪異が住む集合住宅なのである。
当然、男も普通の人間ではない。
銀糸の如く、洗練された白銀の色に輝く髪が風に靡く。
鼻筋が通り、奥目である。
切れ長の目に宿る瞳は爛々と黄金の色の輝きを放っていた。
その日本人離れした容貌はユリナとどことなく、似ている。
背が高く、長身の麗央よりもさらに高いだけではなく、筋肉の鎧で全身を覆ったと形容してもおかしくないほどに筋肉質な体つきをしていた。
ただし、一切を隠していない紛うことなき変態である。
時は少々、遡る。
男――イザークは妹のイリスと集合住宅に住む菊を訪ねていた。
ユリナの薦めもあり、怪奇スポットの探訪が暫くの間、チャンネルのメインコンテンツになる。
法整備と公的な機関の設立。
さらには能力を持つ者を公に審査・認定しようというのだ。
おいそれと力のある者が誇示する訳にはいかない状況になるのを見越したユリナの采配だった。
世間を騒がす怪異を退治するのが、イリスチャンネルのスタイルである。
これまでにないリアルなCGによる除霊は人気を博しており、チャンネル登録者もうなぎのぼりと上り調子になっていたところで水を差しかねない事態が起きつつあった。
そこでユリナが一計を案じた。
ユリナがプロデュースした怪異の最古参であるダリアは既に確固たるポジションを築いている。
コアな客層の獲得にかけてはユリナも一目置いているところだ。
二つの全く、スタイルが違うチャンネルをコラボレーションさせることで、ダリアにとってもイリスにとってもいい刺激となるに違いないと見込んでのことだった。
「いいアイデアだと思わない?」
「悪くはないと思う。だけど……」
「何よ、レオ。思い付いただけだわ。何か、問題ある?」
「そんなことだろうと思ったよ」
そんなやり取りがユリナと麗央の間にあったのは誰も知らないことである。
本来であれば、家を背負って立つ立場にあり、然るべき重要な地位を与えられてもおかしくなかった。
真・獣形態であれば、上顎は天に下顎は地に届き、咆哮で壊せない物がないとされる地上最強の魔獣フェンリルである。
むしろ、そうでなければおかしいくらいだ。
ところが現在のイザークは末の妹であるユリナが嫁いだ雷邸の居候に過ぎない。
次元の壁を通り抜け、やって来た際、多くの力を失ったイザークは肉体の維持に全ての力を注いだ結果、姿がポメラニアンほどに小さくなり、脆弱になってしまったのだ。
これでは居候として、惰眠と暴食を貪る日々しか、送れなかったとしてもイザークを責めるのは酷と言うものだ。
鏡合わせの世界ではユリナと同じく、人の姿を取っていたイザークだが、ポメラニアンの姿ではそれも叶わない。
しかし、運は彼に味方をした。
そんな不遇をかこつイザークにもようやく、風が吹いたのだ。
運命の出会いは偶然ではなく、必然だった。
導かれるようにやって来た風変わりな少女は、三兄妹にとって異母妹にあたる半神のイリスだった。
ユリナに妹の面倒を任せられた当初、イザークは厄介事を任せられただけと思い、腐っていた。
なりこそポメラニアンのようになっていようとも心は孤高の狼でありたい。
そう誓いを立てたイザークである。
だが、イリスと行動を共にしたことで風向きが変わったのもまた、事実だった。
イリスは元々、ハンターを生業として生きていた。
異母妹が自分の考えよりも遥かにしっかりとしていることを知ったイザークは、ここでようやく妹の真意に気付いた。
ライブ配信で除霊を行うのがイリスのライブスタイルであり、イザークの役割はそのサポートがメインだった。
愛らしいポメラニアンのように見える見た目も影響したのか、想定した以上にイザークのいる意味合いが高く、ユリナの機嫌も良かった。
イザークにとっても悪いことではない。
除霊で相対する怪異は取るに足らない小者ばかりである。
イザークは『スタッフが美味しくいただきました』を地で実行した。
肉体維持及び構成の再構築に必要なエナジーを得るべく、イザークは食べに食べた。
改心の見込みもない狂暴極まりない怪異が横行していたことも大きい。
麗央が絡まない限り、非常に鷹揚なところがあるユリナもイザークの食事を黙認した。
そして、イザークはようやくポメラニアンを卒業することが出来たのである。
さらにN県S市の九十九島『大迷宮』での一件が大きかった。
件の『大迷宮』でこれまでにないほどのエナジーを体に溜め込むことが出来たイザークは、着実にその力を高めた。
「……なのになぜ、吾輩を仲間外れにするのである?」
合点がいかないと不満だけではなく、一切を隠そうともせず、一人の男がとある高層の集合住宅の屋上に佇んでいた。
その集合住宅は普通の賃貸物件ではない。
入居しているのがまず人間ではなかった。
魂の連れ合いが見つかり、新居に越した露を除いたユリナのプロデュースしたYoTuber。
菊、リ・トスを始めとして、怪異が住む集合住宅なのである。
当然、男も普通の人間ではない。
銀糸の如く、洗練された白銀の色に輝く髪が風に靡く。
鼻筋が通り、奥目である。
切れ長の目に宿る瞳は爛々と黄金の色の輝きを放っていた。
その日本人離れした容貌はユリナとどことなく、似ている。
背が高く、長身の麗央よりもさらに高いだけではなく、筋肉の鎧で全身を覆ったと形容してもおかしくないほどに筋肉質な体つきをしていた。
ただし、一切を隠していない紛うことなき変態である。
時は少々、遡る。
男――イザークは妹のイリスと集合住宅に住む菊を訪ねていた。
ユリナの薦めもあり、怪奇スポットの探訪が暫くの間、チャンネルのメインコンテンツになる。
法整備と公的な機関の設立。
さらには能力を持つ者を公に審査・認定しようというのだ。
おいそれと力のある者が誇示する訳にはいかない状況になるのを見越したユリナの采配だった。
世間を騒がす怪異を退治するのが、イリスチャンネルのスタイルである。
これまでにないリアルなCGによる除霊は人気を博しており、チャンネル登録者もうなぎのぼりと上り調子になっていたところで水を差しかねない事態が起きつつあった。
そこでユリナが一計を案じた。
ユリナがプロデュースした怪異の最古参であるダリアは既に確固たるポジションを築いている。
コアな客層の獲得にかけてはユリナも一目置いているところだ。
二つの全く、スタイルが違うチャンネルをコラボレーションさせることで、ダリアにとってもイリスにとってもいい刺激となるに違いないと見込んでのことだった。
「いいアイデアだと思わない?」
「悪くはないと思う。だけど……」
「何よ、レオ。思い付いただけだわ。何か、問題ある?」
「そんなことだろうと思ったよ」
そんなやり取りがユリナと麗央の間にあったのは誰も知らないことである。
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