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第77話 覚醒めし者ら①不機嫌なおさげ
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N県に出現した九十九島『大迷宮』を踏破する世界初のダンジョンライブ配信は大盛況のうちに幕を閉じた。
一行は翌日ではなく、その日のうちにK県H町の自宅へと帰還した。
行きはゆったりとした旅行を楽しみたいとユリナが考え、計画しただけに過ぎない。
帰りはユリナの変容させる力を使い、勝手知ったる自宅に直帰する門を開き、潜り抜けるだけで終わりだった。
実に味気ない旅とは言えない一瞬の出来事と言ってもいい。
ユリナが旅であることに拘り、列車の旅を計画するのも頷けるものだ。
雷邸には再び、平穏が訪れていた。
それぞれがそれぞれに思い描く日常への回帰である。
帰宅当日とその翌日はさすがに疲れが溜まっていたのか、屋敷にこれといった動きは見られなかった。
しかし、日常の一コマは動き出す。
麗央は日常品と新鮮な情報を仕入れるべく、図書館へと足を延ばしている。
イリスとイザークは当面、除霊ライブ配信を控えるよう通達されたこともあり、歌姫ファミリーのお菊とのコラボレーション打ち合わせで屋敷を離れていた。
そして、ユリナである。
彼女は現在、不機嫌の色を浮かべた顔と態度を一切、隠さずノートパソコンのキーボードと戦っている。
白金色の長い髪は彼女のトレードマークとなっているツインテールではなく、ゆったりと編み込まれた三つ編みおさげだった。
おさげでも彼女の感情をそのまま、表現しているのかと錯覚を起こすほどに生き物のように跳ねたり、力を失ったりと忙しい。
外出やライブが予定にない時のユリナの髪型は大概がこのおさげである。
麗央に全てを任せ、髪をセットしてもらう時間はユリナにとって、至福の時と言っても過言ではない。
おさげにセットしてもらった時のユリナは実に御機嫌だったからだ。
だが、現在のユリナは御機嫌斜めである。
背後にブリザードが吹き荒れかねないほどの機嫌の悪さだった。
「分かるわ。分かるけど……もうっ」
ユリナがSNSのツールで交信していた相手は伊佐名月だ。
『タカマガハラ』と『大迷宮』の一件で親近感から、連絡先を交換していた。
軽い世間話だけではなく、時に意見や情報の交換をするほどに親しくなった。
事態はユリナが想定していたよりもずっと深刻で厄介だったのだ。
ルナは兄の補佐をすべく、『タカマガハラ』の管理に復帰せざるを得なくなった。
パワーバランスの調整能力に長けており、リーダーシップを発揮出来る指導者がいなければ、『タカマガハラ』は既に機能不全に陥っていたのである。
『月読』の復帰により、閉められていた『タカマガハラ』の窓口が開く。
同時に月読たるルナの細い両肩にかかる負担は大きくなるのだが……。
しかし、ユリナの機嫌が悪いのはルナの愚痴を延々と聞かされていたからではない。
一族を代表し、折衝する立場にあるのはユリナも同じだった。
似たような位置にいるルナを慮り、共感さえしている。
共に戦う同志と言っても過言ではない。
この同志には環太平洋機構を代表する『傲慢』なるダミアンも含まれていた。
ダミアンはヘブライ神族の中で複雑な立ち位置にいる。
不平不満を抱く勢力の旗頭として、祀り上げようとする動きが活性化しており、予断を許さなかったからだ。
だからこそ、世界標準規格とした法整備を同志であるダミアンが主導すると聞き、ユリナの機嫌は頗る悪い。
環太平洋機構だけではなく、欧州連邦共和国とユーラシア連邦も法整備の推進に乗り気であり、このままいけば日和見をしているアフリカや南米の小勢力もその流れに乗るものと思われていた。
「だからって、一日でこれはやりすぎでしょ」
Oで本来の職務を忘れ、食道楽に傾倒しているギャビーから送られてきたSNSのダイレクトメッセージに詳しく、書かれた法整備概略を見てユリナの猫目がさらにきついものになっていく。
危険な存在であるダンジョンを管理する公的な機関の設立。
ユリナもこれには賛成の立場をとっている。
先日のライブ配信でダンジョンは外なる神々と呼ばれる悪意を持ったあやかしが誕生に関与しているとする見解が出された。
その見解には実際にダンジョンを目で見てきたユリナも同意しており、否定するつもりはなかった。
野放しにする訳にはいかない。
公的に監視・管理する方が安全といった考えも理に適っていたからだ。
しかし、次の一文に猫目がさらに吊り上がっていった。
公的な機関は『覚醒めし者』の管理も行う。
『覚醒めし者』とは歌姫リリーの唄でこれまでにない新たな才能を開花させた人間のことである。
本来、あやかしと契約をした者でなければ、行使できない不思議な力を持った彼ら。
新たに誕生した新人類と呼ぶべき彼らは後にアウェイカーと定義づけられる。
「面倒なことにならなければ、いいのだけど……」
ユリナの誰ともなく零した呟きに答える者はいない。
一行は翌日ではなく、その日のうちにK県H町の自宅へと帰還した。
行きはゆったりとした旅行を楽しみたいとユリナが考え、計画しただけに過ぎない。
帰りはユリナの変容させる力を使い、勝手知ったる自宅に直帰する門を開き、潜り抜けるだけで終わりだった。
実に味気ない旅とは言えない一瞬の出来事と言ってもいい。
ユリナが旅であることに拘り、列車の旅を計画するのも頷けるものだ。
雷邸には再び、平穏が訪れていた。
それぞれがそれぞれに思い描く日常への回帰である。
帰宅当日とその翌日はさすがに疲れが溜まっていたのか、屋敷にこれといった動きは見られなかった。
しかし、日常の一コマは動き出す。
麗央は日常品と新鮮な情報を仕入れるべく、図書館へと足を延ばしている。
イリスとイザークは当面、除霊ライブ配信を控えるよう通達されたこともあり、歌姫ファミリーのお菊とのコラボレーション打ち合わせで屋敷を離れていた。
そして、ユリナである。
彼女は現在、不機嫌の色を浮かべた顔と態度を一切、隠さずノートパソコンのキーボードと戦っている。
白金色の長い髪は彼女のトレードマークとなっているツインテールではなく、ゆったりと編み込まれた三つ編みおさげだった。
おさげでも彼女の感情をそのまま、表現しているのかと錯覚を起こすほどに生き物のように跳ねたり、力を失ったりと忙しい。
外出やライブが予定にない時のユリナの髪型は大概がこのおさげである。
麗央に全てを任せ、髪をセットしてもらう時間はユリナにとって、至福の時と言っても過言ではない。
おさげにセットしてもらった時のユリナは実に御機嫌だったからだ。
だが、現在のユリナは御機嫌斜めである。
背後にブリザードが吹き荒れかねないほどの機嫌の悪さだった。
「分かるわ。分かるけど……もうっ」
ユリナがSNSのツールで交信していた相手は伊佐名月だ。
『タカマガハラ』と『大迷宮』の一件で親近感から、連絡先を交換していた。
軽い世間話だけではなく、時に意見や情報の交換をするほどに親しくなった。
事態はユリナが想定していたよりもずっと深刻で厄介だったのだ。
ルナは兄の補佐をすべく、『タカマガハラ』の管理に復帰せざるを得なくなった。
パワーバランスの調整能力に長けており、リーダーシップを発揮出来る指導者がいなければ、『タカマガハラ』は既に機能不全に陥っていたのである。
『月読』の復帰により、閉められていた『タカマガハラ』の窓口が開く。
同時に月読たるルナの細い両肩にかかる負担は大きくなるのだが……。
しかし、ユリナの機嫌が悪いのはルナの愚痴を延々と聞かされていたからではない。
一族を代表し、折衝する立場にあるのはユリナも同じだった。
似たような位置にいるルナを慮り、共感さえしている。
共に戦う同志と言っても過言ではない。
この同志には環太平洋機構を代表する『傲慢』なるダミアンも含まれていた。
ダミアンはヘブライ神族の中で複雑な立ち位置にいる。
不平不満を抱く勢力の旗頭として、祀り上げようとする動きが活性化しており、予断を許さなかったからだ。
だからこそ、世界標準規格とした法整備を同志であるダミアンが主導すると聞き、ユリナの機嫌は頗る悪い。
環太平洋機構だけではなく、欧州連邦共和国とユーラシア連邦も法整備の推進に乗り気であり、このままいけば日和見をしているアフリカや南米の小勢力もその流れに乗るものと思われていた。
「だからって、一日でこれはやりすぎでしょ」
Oで本来の職務を忘れ、食道楽に傾倒しているギャビーから送られてきたSNSのダイレクトメッセージに詳しく、書かれた法整備概略を見てユリナの猫目がさらにきついものになっていく。
危険な存在であるダンジョンを管理する公的な機関の設立。
ユリナもこれには賛成の立場をとっている。
先日のライブ配信でダンジョンは外なる神々と呼ばれる悪意を持ったあやかしが誕生に関与しているとする見解が出された。
その見解には実際にダンジョンを目で見てきたユリナも同意しており、否定するつもりはなかった。
野放しにする訳にはいかない。
公的に監視・管理する方が安全といった考えも理に適っていたからだ。
しかし、次の一文に猫目がさらに吊り上がっていった。
公的な機関は『覚醒めし者』の管理も行う。
『覚醒めし者』とは歌姫リリーの唄でこれまでにない新たな才能を開花させた人間のことである。
本来、あやかしと契約をした者でなければ、行使できない不思議な力を持った彼ら。
新たに誕生した新人類と呼ぶべき彼らは後にアウェイカーと定義づけられる。
「面倒なことにならなければ、いいのだけど……」
ユリナの誰ともなく零した呟きに答える者はいない。
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