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第73話 備忘録CaseVI・神に殺されないモノ③歌姫の野外ライブ
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聳える『大迷宮』の中に広がる不思議な世界で見目麗しい少年と少女が気味の悪い巨人を倒す。
ヒロイック・ファンタジーさながらの冒険活劇が描かれたライブの内容である。
イリスがこれまでに配信したライブでも怪異と呼ばれる不可思議な生命体との戦いの様子は流された。
それが過去最高記録を大幅に塗り替えるほど、爆発的に当たったのには別の理由もあった。
まず、イリスの衣装が大きく影響した。
これまでのライブでもトップスが和装なのは変わらないが、ボトムスは動きやすい袴などが多かった。
イリスが元々、無頓着なこともあり肌が見えてもあまり、気にしない。
それが袴であれば、足首などが多少見える程度で済んでいた。
ところが今回の衣装はボトムスがミニスカートである。
トップスの振袖風和装と合わせ、白のレザー生地で裾丈はかなり短い。
膝よりもかなり上なのでギリギリのラインを攻めたデザインと言ってもいいだろう。
引き締まった健康的な太腿はどこまでも白く、シミ一つない。
きれいな足を惜しげもなく、披露しているイリスだが本人は全く気にしていない。
イリスが気にかけるのは動きやすさだけなのだ。
そして、イリスが無頓着なのに加え、衣装を見繕ったユリナも大事なことを失念していたことも大きな要因になった。
ユリナの中に下着が見えることを前提とした見せパンという考えがない。
ましてや自分が決して、着ることのないミニスカートである。
ちょっとした動きで見えるということに考えが及ばなかったのだ。
質の悪いことにユリナにとって、下着とは愛する人に見せるものであり、出来るだけ凝った可愛いものにすべきという考えを持っていたことだろう。
お洒落に疎く、姉の言うがままに衣装を着ているだけのイリスである。
いざ戦いともなれば、妖の太郎としてハンターの血が騒ぐのか、イリスは着ている衣装のことを忘れ、激しく動きまわった。
その結果、全世界に嫁入り前の娘が見せてはいけない物を見せる結果になり、コメントと投げ銭が爆発したのである。
さらに歌姫リリーの生歌が披露されたことも大きな要因である。
ギガースを倒せる者は表向き、イリスだけということになっている。
母親が日本人である麗央も混血であり、純血ではない。
彼はかつて勇者として、獄炎の権化と呼ばれる強大なあやかしを倒した。
麗央がギガースを倒せばいいだけの話なのである。
しかし、ユリナは麗央が目立つことをもっとも嫌う。
世界中に流れるライブで麗央が活躍すれば、悪い虫がつくかもしれない。
それを不安に思ったユリナに止められ、麗央はバックアッパーとして控えるに留まったのである。
ここで問題となるのはイリスが、ギガースを倒せるだけの力をまだ、持ち得てないことだった。
純血のあやかしである兄イザークや姉ユリナと比べると力不足が否めない。
だがユリナにはとっておきの手があった。
彼女の変質・変容させる力は他者に働きかけ、変化させるものだった。
これを利用して、歌で世界を変革しつつあるユリナは同様に歌うことでイリスの力を一時的に高められると考えた。
この試みは上手くいった。
ユリナが手にしていた日傘を再び、くるくると回すと手持ちのマイクスタンドに変化した。
麗央はそれを見て、遠い目をせざるを得ない。
(その日傘……ユグドラシルだったのか)
麗央の心配を他所にユリナの動きに合わせ、撮影スタッフとは別のスタッフが慌ただしく動くと生演奏でリリーの楽曲を奏で始めた。
「信じてる♪ 信じてる♪ あなたが秘めたものを♪」
どちらかと言えば、テンポが遅くバラードを得意とするユリナにしては珍しく、アップテンポでポップな曲調である。
動きやすいとは言い難いドレスを着ていながら、ユリナ自身も軽くステップを踏んでいるので彼女の軽やかな舞いに合わせ、豊かな双丘も弾んでいた。
麗央の目は先程まで愛妻を心配していたいい男はどこへ行ったのやら。
バケツヘルムを被っているので分かりにくいが、麗央の目はユリナに釘付けとなった。
主に一部分に対してだが……。
しかし、これは麗央がよろしくないことばかり、考えている男だからという訳ではないのだ。
ユリナの唄が原因だった。
彼女が歌うとそれを聞いてしまった者に須らく、効果が出てしまう。
歌姫の祝福と言うべき、その効果は確かにイリスの能力を遥かに底上げした。
だが、同時に麗央には別の効力を発揮したのである。
「てっけりゃああああ」
その時、悍ましい雄叫びと共に大きな影がユリナに迫った。
イリスと対峙しているギガースとは異なる個体がもう一体、今まで隠れていたのである。
麗央の警戒網が緩んだ隙を突き、見た目はもっとも弱そうに見えるユリナを狙って、機会を窺っていたそのギガースは今こそ、好機とばかりに動いた。
純白のドレスにはフリルやリボンがあしらってあり裾丈も長く、素人目にも『大迷宮』探索にふさわしいとは言えないものだった。
「リーナ!」
叫ぶや否や麗央は瞬間的とはいえ、光の速さをも凌駕した速度で愛妻の元に駆け付けた。
それでも一歩、及ばなかった。
ギガースの腕と触腕の振り下ろされる方が刹那、早かったのだ。
ユリナが立っていた場所に大きな土煙が上がった。
ヒロイック・ファンタジーさながらの冒険活劇が描かれたライブの内容である。
イリスがこれまでに配信したライブでも怪異と呼ばれる不可思議な生命体との戦いの様子は流された。
それが過去最高記録を大幅に塗り替えるほど、爆発的に当たったのには別の理由もあった。
まず、イリスの衣装が大きく影響した。
これまでのライブでもトップスが和装なのは変わらないが、ボトムスは動きやすい袴などが多かった。
イリスが元々、無頓着なこともあり肌が見えてもあまり、気にしない。
それが袴であれば、足首などが多少見える程度で済んでいた。
ところが今回の衣装はボトムスがミニスカートである。
トップスの振袖風和装と合わせ、白のレザー生地で裾丈はかなり短い。
膝よりもかなり上なのでギリギリのラインを攻めたデザインと言ってもいいだろう。
引き締まった健康的な太腿はどこまでも白く、シミ一つない。
きれいな足を惜しげもなく、披露しているイリスだが本人は全く気にしていない。
イリスが気にかけるのは動きやすさだけなのだ。
そして、イリスが無頓着なのに加え、衣装を見繕ったユリナも大事なことを失念していたことも大きな要因になった。
ユリナの中に下着が見えることを前提とした見せパンという考えがない。
ましてや自分が決して、着ることのないミニスカートである。
ちょっとした動きで見えるということに考えが及ばなかったのだ。
質の悪いことにユリナにとって、下着とは愛する人に見せるものであり、出来るだけ凝った可愛いものにすべきという考えを持っていたことだろう。
お洒落に疎く、姉の言うがままに衣装を着ているだけのイリスである。
いざ戦いともなれば、妖の太郎としてハンターの血が騒ぐのか、イリスは着ている衣装のことを忘れ、激しく動きまわった。
その結果、全世界に嫁入り前の娘が見せてはいけない物を見せる結果になり、コメントと投げ銭が爆発したのである。
さらに歌姫リリーの生歌が披露されたことも大きな要因である。
ギガースを倒せる者は表向き、イリスだけということになっている。
母親が日本人である麗央も混血であり、純血ではない。
彼はかつて勇者として、獄炎の権化と呼ばれる強大なあやかしを倒した。
麗央がギガースを倒せばいいだけの話なのである。
しかし、ユリナは麗央が目立つことをもっとも嫌う。
世界中に流れるライブで麗央が活躍すれば、悪い虫がつくかもしれない。
それを不安に思ったユリナに止められ、麗央はバックアッパーとして控えるに留まったのである。
ここで問題となるのはイリスが、ギガースを倒せるだけの力をまだ、持ち得てないことだった。
純血のあやかしである兄イザークや姉ユリナと比べると力不足が否めない。
だがユリナにはとっておきの手があった。
彼女の変質・変容させる力は他者に働きかけ、変化させるものだった。
これを利用して、歌で世界を変革しつつあるユリナは同様に歌うことでイリスの力を一時的に高められると考えた。
この試みは上手くいった。
ユリナが手にしていた日傘を再び、くるくると回すと手持ちのマイクスタンドに変化した。
麗央はそれを見て、遠い目をせざるを得ない。
(その日傘……ユグドラシルだったのか)
麗央の心配を他所にユリナの動きに合わせ、撮影スタッフとは別のスタッフが慌ただしく動くと生演奏でリリーの楽曲を奏で始めた。
「信じてる♪ 信じてる♪ あなたが秘めたものを♪」
どちらかと言えば、テンポが遅くバラードを得意とするユリナにしては珍しく、アップテンポでポップな曲調である。
動きやすいとは言い難いドレスを着ていながら、ユリナ自身も軽くステップを踏んでいるので彼女の軽やかな舞いに合わせ、豊かな双丘も弾んでいた。
麗央の目は先程まで愛妻を心配していたいい男はどこへ行ったのやら。
バケツヘルムを被っているので分かりにくいが、麗央の目はユリナに釘付けとなった。
主に一部分に対してだが……。
しかし、これは麗央がよろしくないことばかり、考えている男だからという訳ではないのだ。
ユリナの唄が原因だった。
彼女が歌うとそれを聞いてしまった者に須らく、効果が出てしまう。
歌姫の祝福と言うべき、その効果は確かにイリスの能力を遥かに底上げした。
だが、同時に麗央には別の効力を発揮したのである。
「てっけりゃああああ」
その時、悍ましい雄叫びと共に大きな影がユリナに迫った。
イリスと対峙しているギガースとは異なる個体がもう一体、今まで隠れていたのである。
麗央の警戒網が緩んだ隙を突き、見た目はもっとも弱そうに見えるユリナを狙って、機会を窺っていたそのギガースは今こそ、好機とばかりに動いた。
純白のドレスにはフリルやリボンがあしらってあり裾丈も長く、素人目にも『大迷宮』探索にふさわしいとは言えないものだった。
「リーナ!」
叫ぶや否や麗央は瞬間的とはいえ、光の速さをも凌駕した速度で愛妻の元に駆け付けた。
それでも一歩、及ばなかった。
ギガースの腕と触腕の振り下ろされる方が刹那、早かったのだ。
ユリナが立っていた場所に大きな土煙が上がった。
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