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第65話 備忘録CaseVI・ハウステンピョス②終末を呼ぶ歌姫と銀の光に彩られし、もう一人の姫
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イザークとユリナの祖父は全てを見通すと言われる偉大な大神である。
祖母は魔女を統べし、神々の女王と呼ばれる女神であり、その間に生まれた美しき宝石が二人の母親だ。
ゲェルセミは美しき容貌で知られており、アース神族の若き女神だった。
蝶よ花よと愛でられ育てられたことも影響したのか、よく言えばおっとりとしたお嬢様。
悪く言えば、どこか抜けている世間知らずな一面があった。
ユリナが時折、見せる世間ずれしたお姫様のような反応を見せるのは多分にこの母親の影響が大きい。
二人の父親は奸智に長けた狡猾なる男でもある。
脈々と受け継がれる血の因縁は確実に継がれているはずだった。
ところがイザークは残念なことに一部を受け取れなかったのではないかと思えるほど、非常に残念な頭の持ち主なのだ。
次兄イェレミアスにも思慮深さが受け継がれており、末の妹であるユリナは他神族の神々との折衝を一手に引き受けている。
避けたようにイザークだけ、受け継いでいない。
とはいえ、考えが無いイザークの飾らない性質と真っ直ぐな考え方を馬鹿にする者は誰もいなかった。
彼は何だかんだで皆から、愛されている。
「本当にいいのかな?」
「いいのよ。お兄様は美味しい物を食べている方が幸せなんだから」
照り付ける夏の日差しの鋭さに僅かに目を細め、麗央は雲一つない空へと視線を向ける。
晴れ渡った青空が気分を爽やかにしてくれると感じていた。
だが同時に彼は南の地らしい暑さに辟易していた。
一方、麗央の隣を専用の場所と決めているユリナは涼し気な顔である。
長い袖と裾が特徴的な黒のゴシックロリータのドレスは何とも暑苦しさしか、感じ得ないものであり、黒のレースの大きな日傘も暑さを避けられるとはとても思えない作りをしていた。
「なぁに? どうしたの、二人とも」
「姉様、ずるいでござる」
「それ、ずるいよね」
「何の話かしら? ワタシ、ワカラナイネ」
麗央とイリスから、あからさまに疑惑の目を向けられ、ユリナは意図的に明後日の方向に目を逸らし、誤魔化すが僅かに動揺はしているのだろう。
言葉遣いが怪しくなっていた。
目敏い者が注意深く観察すれば、ユリナの周囲だけ空気が違うことに気付くだろう。
ユリナは日傘に力を発動させ、日傘の下だけ白い物がちらつく温度に下げていたのだ。
元来、ユリナは暑さを苦手としている。
滅多に日の光すら射さない寒冷な土地で育ったことが影響しているのか、時に彼女はこうしたインチキ紛いの力の使い方をするのだった。
「わ、分かったわ。仕方ないわね。これでいいでしょ?」
二人からの恨みがましい視線にユリナが折れるのもいつものことである。
力を使って、作った溶けない雪の結晶の固まりを二人に渡すことでどうにか、場は丸く収まった。
ハウステンピョス内には体を動かすアスレチックのアトラクションも設置されており、雪の結晶で元気を取り戻したイリスは「行ってくるでござるぅ~」と脇目も振らずに駆けていくのを尻目にユリナと麗央は二人で楽しめるアトラクションを回ろうとに決めた。
ゆったりとしたゴンドラで園内の欧州の雰囲気を十分に味わい、VRライドのアトラクションを梯子するだけで時は過ぎていく。
新婚の夫婦というよりも付き合って間がない初々しい恋人同士のようにハウステンピョスでの一時を楽しく過ごしていた二人だが、大時計の告げる時の音にユリナの顔つきが変わった。
麗央はユリナの僅かな変化も見逃さない。
すぐに察し、労わるように声をかけた麗央に対し、ユリナは諦めたようでありながらもどこか、楽しみにしているとも捉えられる不思議な表情で応えた。
「レオ。残念だけど、お仕事の時間だわ」
「仕事か……しょうがないかな」
それから、時を置かずして二人が移動したのは運河沿いに建つカフェである。
運河を見ながら、お洒落なカフェタイムを送れるテラス席が用意されており、そこで待ち合わせをしていたのだ。
麗央は普段、決して、ユリナの傍を離れることはないし、ユリナもまた彼が傍を離れることを極度に嫌う。
ところが「妙な気配を感じるんだ」とテラスを離れようとする麗央にユリナは「そう」と素っ気ない返事しかしなかった。
明らかにいつもとは異なる雰囲気だった。
その理由を明らかとするユリナの待ち人がついにその姿を現した。
「お待たせして、ごめんあそばせ」
折りからの風で艶やかに靡く、長い髪はまるで銀糸のように見事なシルバーブロンドだった。
着席したまま、己を見つめるユリナの視線に臆することなく、真っ向から受けて立つ瞳の色は鮮やかな薄い紫色をしており、紫水晶を思わせる。
紫水晶を収める目はやや吊り目でどこか猫を連想させる印象を与えるものだ。
「いいえ。そんなに待ってないわ。あなたのお連れは大丈夫かしら?」
「弟は丈夫なので平気ですわ。あなたのお連れ様こそ、平気かしら?」
待ち人はユリナの向かい側に着席するとフラペチーノを注文する。
友好的でありながらも半ば挑戦的とも捉えられる目をユリナに向けながら。
色素が薄いプラチナブロンドの長い髪をツインテールにしているユリナとシルバーブロンドの長い髪をポニーテールにしている待ち人。
二人とも夏の暑い盛りには向かない豪奢なドレスを着ているので、傍目には外国人の少女二人が運河を背景にカフェで一時を楽しんでいるように見える。
((この子、私と被ってない!?))
表向きは涼し気な表情を崩さないまま、向かい合う二人が心の中でそんなことを考えているとは露程も思わないだろう……。
祖母は魔女を統べし、神々の女王と呼ばれる女神であり、その間に生まれた美しき宝石が二人の母親だ。
ゲェルセミは美しき容貌で知られており、アース神族の若き女神だった。
蝶よ花よと愛でられ育てられたことも影響したのか、よく言えばおっとりとしたお嬢様。
悪く言えば、どこか抜けている世間知らずな一面があった。
ユリナが時折、見せる世間ずれしたお姫様のような反応を見せるのは多分にこの母親の影響が大きい。
二人の父親は奸智に長けた狡猾なる男でもある。
脈々と受け継がれる血の因縁は確実に継がれているはずだった。
ところがイザークは残念なことに一部を受け取れなかったのではないかと思えるほど、非常に残念な頭の持ち主なのだ。
次兄イェレミアスにも思慮深さが受け継がれており、末の妹であるユリナは他神族の神々との折衝を一手に引き受けている。
避けたようにイザークだけ、受け継いでいない。
とはいえ、考えが無いイザークの飾らない性質と真っ直ぐな考え方を馬鹿にする者は誰もいなかった。
彼は何だかんだで皆から、愛されている。
「本当にいいのかな?」
「いいのよ。お兄様は美味しい物を食べている方が幸せなんだから」
照り付ける夏の日差しの鋭さに僅かに目を細め、麗央は雲一つない空へと視線を向ける。
晴れ渡った青空が気分を爽やかにしてくれると感じていた。
だが同時に彼は南の地らしい暑さに辟易していた。
一方、麗央の隣を専用の場所と決めているユリナは涼し気な顔である。
長い袖と裾が特徴的な黒のゴシックロリータのドレスは何とも暑苦しさしか、感じ得ないものであり、黒のレースの大きな日傘も暑さを避けられるとはとても思えない作りをしていた。
「なぁに? どうしたの、二人とも」
「姉様、ずるいでござる」
「それ、ずるいよね」
「何の話かしら? ワタシ、ワカラナイネ」
麗央とイリスから、あからさまに疑惑の目を向けられ、ユリナは意図的に明後日の方向に目を逸らし、誤魔化すが僅かに動揺はしているのだろう。
言葉遣いが怪しくなっていた。
目敏い者が注意深く観察すれば、ユリナの周囲だけ空気が違うことに気付くだろう。
ユリナは日傘に力を発動させ、日傘の下だけ白い物がちらつく温度に下げていたのだ。
元来、ユリナは暑さを苦手としている。
滅多に日の光すら射さない寒冷な土地で育ったことが影響しているのか、時に彼女はこうしたインチキ紛いの力の使い方をするのだった。
「わ、分かったわ。仕方ないわね。これでいいでしょ?」
二人からの恨みがましい視線にユリナが折れるのもいつものことである。
力を使って、作った溶けない雪の結晶の固まりを二人に渡すことでどうにか、場は丸く収まった。
ハウステンピョス内には体を動かすアスレチックのアトラクションも設置されており、雪の結晶で元気を取り戻したイリスは「行ってくるでござるぅ~」と脇目も振らずに駆けていくのを尻目にユリナと麗央は二人で楽しめるアトラクションを回ろうとに決めた。
ゆったりとしたゴンドラで園内の欧州の雰囲気を十分に味わい、VRライドのアトラクションを梯子するだけで時は過ぎていく。
新婚の夫婦というよりも付き合って間がない初々しい恋人同士のようにハウステンピョスでの一時を楽しく過ごしていた二人だが、大時計の告げる時の音にユリナの顔つきが変わった。
麗央はユリナの僅かな変化も見逃さない。
すぐに察し、労わるように声をかけた麗央に対し、ユリナは諦めたようでありながらもどこか、楽しみにしているとも捉えられる不思議な表情で応えた。
「レオ。残念だけど、お仕事の時間だわ」
「仕事か……しょうがないかな」
それから、時を置かずして二人が移動したのは運河沿いに建つカフェである。
運河を見ながら、お洒落なカフェタイムを送れるテラス席が用意されており、そこで待ち合わせをしていたのだ。
麗央は普段、決して、ユリナの傍を離れることはないし、ユリナもまた彼が傍を離れることを極度に嫌う。
ところが「妙な気配を感じるんだ」とテラスを離れようとする麗央にユリナは「そう」と素っ気ない返事しかしなかった。
明らかにいつもとは異なる雰囲気だった。
その理由を明らかとするユリナの待ち人がついにその姿を現した。
「お待たせして、ごめんあそばせ」
折りからの風で艶やかに靡く、長い髪はまるで銀糸のように見事なシルバーブロンドだった。
着席したまま、己を見つめるユリナの視線に臆することなく、真っ向から受けて立つ瞳の色は鮮やかな薄い紫色をしており、紫水晶を思わせる。
紫水晶を収める目はやや吊り目でどこか猫を連想させる印象を与えるものだ。
「いいえ。そんなに待ってないわ。あなたのお連れは大丈夫かしら?」
「弟は丈夫なので平気ですわ。あなたのお連れ様こそ、平気かしら?」
待ち人はユリナの向かい側に着席するとフラペチーノを注文する。
友好的でありながらも半ば挑戦的とも捉えられる目をユリナに向けながら。
色素が薄いプラチナブロンドの長い髪をツインテールにしているユリナとシルバーブロンドの長い髪をポニーテールにしている待ち人。
二人とも夏の暑い盛りには向かない豪奢なドレスを着ているので、傍目には外国人の少女二人が運河を背景にカフェで一時を楽しんでいるように見える。
((この子、私と被ってない!?))
表向きは涼し気な表情を崩さないまま、向かい合う二人が心の中でそんなことを考えているとは露程も思わないだろう……。
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