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第54話 歌姫はソワソワしている②
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麗央に起立を促したユリナは自分も立ち上がると値踏みするように観察しながら、彼の周りをゆっくりと歩き始めた。
「あの……リーナさん? 僕も何か、しないといけないのかな?」
「んっ……今、考えているところなの」
ユリナはそれだけを答えると無言で一周を終え、おもむろに正面から麗央の胸元に飛びつくように抱き着いた。
普段から、ユリナが取る突拍子の無い行動に慣れている麗央は手慣れたもので特に慌てる様子もなく、たくましい両腕でしっかりと抱き止める。
「ねぇ、レオ」
「何だい?」
お互いに抱き締め合っているので距離は限りなく近い。
麗央は少し屈み、ユリナは少しだけ背伸びをしているので顔の距離も当然のように近くなっている。
互いの息が感じられる近さに二人の鼓動が自然と早まっていた。
間も無く、唇が触れ合う近さにまで接近し、不意にユリナが妙なことを言い出した。
「あと一センチ、背を伸ばしてくれる?」
「え? はい?」
微かに震える長い睫には気怠く、物憂げな影が落ちている。
アメジストからルビーの色へと変じ始めた大きな瞳は微かに潤んでおり、まるで星屑が輝きを発しているようだった。
いつものように思いを交わす口付けを望んでいるとしか、思えない状況でユリナが発した意味の分からないお願いに麗央は素っ頓狂な声を上げるしかない。
「どういうことかな?」
不意打ちもいいところである。
魂が抜けかけた麗央だったが、何とか己を取り戻すと気を取り直した。
これまでの経験から、ユリナが考えもなしに妙なことを言い出さないことを知っている。
何か、理由があるのであれば、自分に出来ることは何でもしよう。
麗央はそう考える男だった。
「レオの背は今、何センチかしら?」
「百八十六だけど……何か、問題があるのかな」
「じゃあ、私の身長は?」
「百七十二だよね」
麗央には間違っていない自信があった。
「正解♪」
答えたユリナの声の調子は明るく、弾んでいる。
その割に表情はどこか、浮かない顔をしているようにしか見えなかった。
「何か、気になることがあるんだね」
「うん」
ユリナがリス子であることにすら気付かない鈍感な麗央だが、本人を前にしていると話が違う。
微かな感情の機微や揺らぎを察するところは愛の為せる業と言える。
「レオ。キスをするのにもっとも適した身長差って、知ってる? 十五センチなの。分かるでしょう? だから、一センチ伸ばして欲しいの」
「ええ?」
麗央は深刻なユリナの様子から、相当な重い話になるのではないかと覚悟していた。
生唾を飲み込み、備えていたら、これである。
麗央は思わず、脱力しかけたが耐えた。
ユリナと面と向かって、互いの背に手を回し、抱き締め合っている体勢だった。
豊かな胸が押し付けられ、布越しとはいえその感触を十二分に味わっている状態でそのような姿を見せる訳にはいかない。
そんな男の意地が麗央にはあった。
「だから、明日の朝から、牛乳飲んでね」
「え? あ、うん。分かった」
麗央は以前にもそういうことがあったのを思い出した。
その時はユリナが無理をして、牛乳を飲んでいた。
彼女独特のセンスで砂糖や蜂蜜が投入された極甘仕様のホットミルクである。
しかし、その結果は残念なものだった。
ユリナの身長はあまり伸びなかった。
代わりに栄養分が別の場所に向かったのである。
(それは別にいいんだけどなあ)
麗央はふと目をやる。
ユリナの柔らかく、たわわに実った双丘と肉感的な魅力に溢れた太腿を見るにつけ、そう思わざるを得なかった。
(これ以上、育っても……いいとは言えないか)
男の自分には分からない苦労があるに違いない。
麗央は漠然とした知識しかない中でそう理解していたのである。
「あの……リーナさん? 僕も何か、しないといけないのかな?」
「んっ……今、考えているところなの」
ユリナはそれだけを答えると無言で一周を終え、おもむろに正面から麗央の胸元に飛びつくように抱き着いた。
普段から、ユリナが取る突拍子の無い行動に慣れている麗央は手慣れたもので特に慌てる様子もなく、たくましい両腕でしっかりと抱き止める。
「ねぇ、レオ」
「何だい?」
お互いに抱き締め合っているので距離は限りなく近い。
麗央は少し屈み、ユリナは少しだけ背伸びをしているので顔の距離も当然のように近くなっている。
互いの息が感じられる近さに二人の鼓動が自然と早まっていた。
間も無く、唇が触れ合う近さにまで接近し、不意にユリナが妙なことを言い出した。
「あと一センチ、背を伸ばしてくれる?」
「え? はい?」
微かに震える長い睫には気怠く、物憂げな影が落ちている。
アメジストからルビーの色へと変じ始めた大きな瞳は微かに潤んでおり、まるで星屑が輝きを発しているようだった。
いつものように思いを交わす口付けを望んでいるとしか、思えない状況でユリナが発した意味の分からないお願いに麗央は素っ頓狂な声を上げるしかない。
「どういうことかな?」
不意打ちもいいところである。
魂が抜けかけた麗央だったが、何とか己を取り戻すと気を取り直した。
これまでの経験から、ユリナが考えもなしに妙なことを言い出さないことを知っている。
何か、理由があるのであれば、自分に出来ることは何でもしよう。
麗央はそう考える男だった。
「レオの背は今、何センチかしら?」
「百八十六だけど……何か、問題があるのかな」
「じゃあ、私の身長は?」
「百七十二だよね」
麗央には間違っていない自信があった。
「正解♪」
答えたユリナの声の調子は明るく、弾んでいる。
その割に表情はどこか、浮かない顔をしているようにしか見えなかった。
「何か、気になることがあるんだね」
「うん」
ユリナがリス子であることにすら気付かない鈍感な麗央だが、本人を前にしていると話が違う。
微かな感情の機微や揺らぎを察するところは愛の為せる業と言える。
「レオ。キスをするのにもっとも適した身長差って、知ってる? 十五センチなの。分かるでしょう? だから、一センチ伸ばして欲しいの」
「ええ?」
麗央は深刻なユリナの様子から、相当な重い話になるのではないかと覚悟していた。
生唾を飲み込み、備えていたら、これである。
麗央は思わず、脱力しかけたが耐えた。
ユリナと面と向かって、互いの背に手を回し、抱き締め合っている体勢だった。
豊かな胸が押し付けられ、布越しとはいえその感触を十二分に味わっている状態でそのような姿を見せる訳にはいかない。
そんな男の意地が麗央にはあった。
「だから、明日の朝から、牛乳飲んでね」
「え? あ、うん。分かった」
麗央は以前にもそういうことがあったのを思い出した。
その時はユリナが無理をして、牛乳を飲んでいた。
彼女独特のセンスで砂糖や蜂蜜が投入された極甘仕様のホットミルクである。
しかし、その結果は残念なものだった。
ユリナの身長はあまり伸びなかった。
代わりに栄養分が別の場所に向かったのである。
(それは別にいいんだけどなあ)
麗央はふと目をやる。
ユリナの柔らかく、たわわに実った双丘と肉感的な魅力に溢れた太腿を見るにつけ、そう思わざるを得なかった。
(これ以上、育っても……いいとは言えないか)
男の自分には分からない苦労があるに違いない。
麗央は漠然とした知識しかない中でそう理解していたのである。
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