世界の終わりで君と恋をしたい~あやかし夫婦の奇妙な事件簿~

黒幸

文字の大きさ
上 下
53 / 159

第53話 歌姫はソワソワしている①

しおりを挟む
 キャンプ系YoTuberとして、イリスをデビューさせたユリナの考えは既存のアイデアに留まっていなかった。
 兄である銀色の悪魔フェンリルと行動することを義務付けた。
 これは非常にリスクが高い。
 ザックことイザークフェンリルはポメラニアンの振りをしているが、無理がある。
 まともに犬の振りが出来ない。
 普通にその姿のまま、人語を発していた。
 吹き替えだと誤魔化せるものでもない。

 しかし、ユリナには奥の手があった。
 これまでもそれを最大限に利用し、日本全土から生体エナジーをに奪うことに成功している。

 動画共有サイト『YoTube』を運営しているのがグローリー社である。
 検索エンジンを始めとしたインターネットに関連したサービスや通信機器といった製品までを提供し、世界中を席巻している大企業だ。
 旧アメリカに本社があり、社主セルベール・グローリーは世界屈指の大富豪としても知られていた。
 このセルベールの孫娘エリザベスが、経営を任されているのがYoTubeなのだ。

 そして、そのエリザベス・グローリー……またの名をエリザヴェータ・スラーヴァの正体こそ、ユリナである。
 歌のライブ配信を行いながら、一切がアーカイブに残らない秘密はここにあった。
 グローリー社のノウハウを全て投入し、編集し操作しているのだ。

 ユリナは人々に疑念を与えることを避けるべく、ペットの動物が自然に会話をしているように見える吹き替え動画を予め、YoTubeに放流していた。
 意図的と悟られないように配慮し、遅効性の毒が沁み込むが如く、ジワジワと人々の記憶に刻まれていく。
 その策が功を奏したのか、案の定ネットでもCGに過ぎないという声が圧倒的に高かった。

 イザークがいる以上、不測の事態が起きたとしてもイリスに危機が及ぶことはないと判断したユリナは、イリスをキャンプ系ではなく心霊スポットに蔓延る怪異を退治させる方針に切り替えた。
 何よりもイリスにはあやかしの太郎として、ハンターの技を培っていた経験もある。
 コミュニケーション能力にやや難があるのは本人も認めるところであり、それを短期間で矯正するのは無理だとユリナも考えざるを得なかった。
 そうである以上、イリスの特技を最大限に生かしたライブ配信を行うのが彼女にとっても最良のチョイスであるとユリナは最終的な判断を下した。

 この読みはまたも大きな当たりを引き寄せ、見た目が愛らしく言葉遣いのたどたどしい少女となぜか偉そうな態度の喋る犬というコンビが大人気となった。
 人気コンビYoTuberとなったイリスとイザークは、新たな心霊スポットでライブを行うべく雷邸を離れている。
 ダリア、ドロシア、リ・トスらのユリナが、プロデュースしたYoTuberも新居に活動の拠点を移していた。
 ユリナが手配した新居は配信環境が整い、怪異の為に用意された怪異の為の集合住宅だった。

「だから、今日は久しぶりに二人きりよ」
「そうだね」

 使用人代わりとして、邸内を動いている亡霊を除けば、麗央とユリナしかいない。
 ここ最近は見られない光景でもあった。
 二人きりになろうとすると邪魔が入り、ユリナの機嫌が悪くなるという悪循環に陥りかけていただけに麗央もほっと胸を撫で下ろす。

 ゆっくりとした午後の一時だった。
 二人でお茶を飲みながら、ただ静かに時を過ごす。
 麗央は年齢の割にこういった時間の過ごし方を好んでいた。
 ただ、ユリナと同じ時を過ごしているだけでも彼にとっては十分なのだ。

「ねぇ、レオ」
「うん? どうしたんだい?」
「ちょっと立ってみて」
「急にまた……いいけどさ」

 ところがユリナが何かを思い付いたらしく、目を輝かせながら妙なことを言い始めた。
 ここで下手に反論をしても口で勝てる気がしないどころか、やり込められて「え? そういうのが負け惜しみぃ~」と勝利宣言をされるのが関の山なのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...