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第48話 備忘録CaseV・銀色の悪魔
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不本意な意識喪失を味わった妖の太郎だが、目覚めは意外なことに不快ではなかった。
心地良い微睡みから、ゆっくりと覚醒する感覚に近い。
妖の太郎の中ではっきりと感じられたのはそんな感覚だった。
「ようやくお目覚めとはいい身分である」
声の主はつぶらな瞳で妖の太郎を見つめている。
見つめているのではなく、睨みつけていると言った方が近い。
黄金色をした瞳と視線が交差した妖の太郎は、漠然と自分の目と似たような色をしていると感じていた。
前髪を伸ばし、隠している右の瞳が丁度、そのような色合いだったからだ。
「え? あれ、ここは? およ?」
そして、愕然とした。
視線を上に上げれば、見覚えのない天井。
下げれば下げたで敵意を隠そうともせず、自分の腹の上に乗っかり、威圧感と圧迫感を加えてくる銀の毛のポメラニアンがいる。
妖の太郎はそこで自分がみっともなくも昏倒し、屋敷の一室で客のように扱われているという事実にようやく気が付いた。
「気分はどうかな?」
「いきなり倒れて、気分がいい人間なんていると思うの?」
「そりゃ、そうだけどさ」
妖の太郎がどうにか、動かすことが出来る首を傾けた。
ギチギチと嫌な音が鳴っているような錯覚さえ、感じていた。
そこには気遣うような優しい表情を浮かべた青年――青年と呼ぶにはまだ幼さが抜け切れていない少年のように見える――がいた。
そして、彼に寄り添うように立ち、どちらかと言えば困惑した表情を浮かべる少女がいた。
二人の瞳は血を連想させる紅玉の光を帯びている。
ポメラニアンだけではなく、二人の気配も全く、察することが出来なかった明白なる事実に妖の太郎は恐怖を感じていた。
まるで心臓を直に掴まれたかのような恐怖だった。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない?」
口角を僅かに上げ、花笑みを浮かべる少女の姿はたおやかだったが、妖の太郎にとって、これ以上にない恐怖を体現したものである。
「あなたにも知る権利があるわ。場所を変えて、話しましょう」
居間へと場所を移り、話がややこしくなるからと銀毛のポメラニアンは、庭に追い出された。
彼は難しい話が苦手である。
世界を見通し、全てを知る者である祖父。
息をするように嘘を吐く狡猾なる父。
深淵に例えられる理知的な弟。
そのいずれとも似た要素を持たなかった代わりとでも言うように荒ぶる獣性と絶対的と呼ばれる圧倒的な体躯と力を与えられた。
それでこそ、原初の恐怖たる巨狼の真骨頂だった。
門を潜る代償とでも言わんばかりにソレを失い、愛玩犬の如き肉体に押し込められた。
その結果、彼はこれまで以上に考えることを止めた。
惰眠を貪り、暴食の限りを尽くす凶悪なる悪魔の犬の誕生である。
「あそこで寝ているアレがあなたのお兄様ということになるわ。そして、この私も……あなたの姉ということになるかしら?」
ユリナはそう言うと庭先の木陰で拗ねたように惰眠を貪る銀色の悪魔を指差し、呆れたように溜息を吐いた。
自分がいつの間にか、ヒラヒラとしたレースのフリルやリボンがあしらわれた白いワンピースを着せられていたこともあり、頭が理解に追い付かない状況にあった妖の太郎はユリナの言葉にさらなる混乱へと陥る。
ハンターとして排除すべき対象として、捉えていた少女――ユリナが半分、血の繋がった姉であり、神話や伝承で語られる伝説の巨狼が実在するだけでなく、自分の兄である聞かされ、妖の太郎は狼狽するしかない。
「あなたも苦労したのよね? 分かるわ。だから、私に任せて」
ユリナは自信に満ち溢れた表情をしており、態度で表していた。
畳みかけるように続けられたユリナの言葉もあって、妖の太郎は混乱する頭のままに首を縦に振ってしまった。
「ああ。いいのかなあ。リーナの『任せて』は……なあ」と麗央がぼやいていたことを妖の太郎は知らない……。
心地良い微睡みから、ゆっくりと覚醒する感覚に近い。
妖の太郎の中ではっきりと感じられたのはそんな感覚だった。
「ようやくお目覚めとはいい身分である」
声の主はつぶらな瞳で妖の太郎を見つめている。
見つめているのではなく、睨みつけていると言った方が近い。
黄金色をした瞳と視線が交差した妖の太郎は、漠然と自分の目と似たような色をしていると感じていた。
前髪を伸ばし、隠している右の瞳が丁度、そのような色合いだったからだ。
「え? あれ、ここは? およ?」
そして、愕然とした。
視線を上に上げれば、見覚えのない天井。
下げれば下げたで敵意を隠そうともせず、自分の腹の上に乗っかり、威圧感と圧迫感を加えてくる銀の毛のポメラニアンがいる。
妖の太郎はそこで自分がみっともなくも昏倒し、屋敷の一室で客のように扱われているという事実にようやく気が付いた。
「気分はどうかな?」
「いきなり倒れて、気分がいい人間なんていると思うの?」
「そりゃ、そうだけどさ」
妖の太郎がどうにか、動かすことが出来る首を傾けた。
ギチギチと嫌な音が鳴っているような錯覚さえ、感じていた。
そこには気遣うような優しい表情を浮かべた青年――青年と呼ぶにはまだ幼さが抜け切れていない少年のように見える――がいた。
そして、彼に寄り添うように立ち、どちらかと言えば困惑した表情を浮かべる少女がいた。
二人の瞳は血を連想させる紅玉の光を帯びている。
ポメラニアンだけではなく、二人の気配も全く、察することが出来なかった明白なる事実に妖の太郎は恐怖を感じていた。
まるで心臓を直に掴まれたかのような恐怖だった。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない?」
口角を僅かに上げ、花笑みを浮かべる少女の姿はたおやかだったが、妖の太郎にとって、これ以上にない恐怖を体現したものである。
「あなたにも知る権利があるわ。場所を変えて、話しましょう」
居間へと場所を移り、話がややこしくなるからと銀毛のポメラニアンは、庭に追い出された。
彼は難しい話が苦手である。
世界を見通し、全てを知る者である祖父。
息をするように嘘を吐く狡猾なる父。
深淵に例えられる理知的な弟。
そのいずれとも似た要素を持たなかった代わりとでも言うように荒ぶる獣性と絶対的と呼ばれる圧倒的な体躯と力を与えられた。
それでこそ、原初の恐怖たる巨狼の真骨頂だった。
門を潜る代償とでも言わんばかりにソレを失い、愛玩犬の如き肉体に押し込められた。
その結果、彼はこれまで以上に考えることを止めた。
惰眠を貪り、暴食の限りを尽くす凶悪なる悪魔の犬の誕生である。
「あそこで寝ているアレがあなたのお兄様ということになるわ。そして、この私も……あなたの姉ということになるかしら?」
ユリナはそう言うと庭先の木陰で拗ねたように惰眠を貪る銀色の悪魔を指差し、呆れたように溜息を吐いた。
自分がいつの間にか、ヒラヒラとしたレースのフリルやリボンがあしらわれた白いワンピースを着せられていたこともあり、頭が理解に追い付かない状況にあった妖の太郎はユリナの言葉にさらなる混乱へと陥る。
ハンターとして排除すべき対象として、捉えていた少女――ユリナが半分、血の繋がった姉であり、神話や伝承で語られる伝説の巨狼が実在するだけでなく、自分の兄である聞かされ、妖の太郎は狼狽するしかない。
「あなたも苦労したのよね? 分かるわ。だから、私に任せて」
ユリナは自信に満ち溢れた表情をしており、態度で表していた。
畳みかけるように続けられたユリナの言葉もあって、妖の太郎は混乱する頭のままに首を縦に振ってしまった。
「ああ。いいのかなあ。リーナの『任せて』は……なあ」と麗央がぼやいていたことを妖の太郎は知らない……。
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