世界の終わりで君と恋をしたい～あやかし夫婦の奇妙な事件簿～

第39話 備忘録CaseIV・リトス＝リバース

　ユリナは男性のファッションに疎い。
　彼女にとって興味のある男が麗央だけであり、それ以外には全く無頓着なのだから、こればかりは仕方がない。

　彼女のファッションセンスはそもそもがかなり、ズレている。
　クラシカルなドレスを好むせいか、普段着と外出着もそういう系統のドレスしか、クローゼットに見受けられない。
　奇しくもそれが甘ロリやゴスロリと呼ばれるファッションに似通っていた為、辛うじて世間バレていなかっただけだ。
　飛んだファッションセンスの持ち主なのは間違いなかった。

　麗央はユリナとは違い、人間として現代日本で生きている時間が長い。
　当然のように生活にも慣れがある。
　ファッションセンスもそこまではズレていなかった。
　少々、周囲から浮く程度である。

　不幸中の幸いなのはユリナが、麗央のアドバイスを素直に聞いてくれることだった。
　ユリナが七人ミサキのメンバーから、受けるイメージを麗央に伝え、彼がイメージに沿った服を見繕う。
　この作業にも似た一連の動作にはそれなりの時間を要した。
　後日、Ｙ市のＹ駅前にあるファッションビルで『歌姫』らしき少女と謎の一団が目撃されたという情報が、匿名掲示板で書き込まれることになるのだが、それはまた別の話である。

　七人ミサキ改めユニット名はリ・トス宝石に決まった。

　メインボーカルのアダマースダイヤモンドはダイヤモンドをイメージしたシルバーに髪を染めている。
　身長はメンバーで一番高く、高音のビブラートまでこなせる甘い声が売りの仔犬系年下イケメンである。

　以下のメンバー六名はいわゆるパフォーマーであり、サブボーカルも務めている。

　アントラクスルビーはルビーをイメージした目の覚めるような朱色で髪を染めている。
　体力が自慢で鍛え上げた体に酔いしれるナルシストな一面のあるマッチョキャラだ。

　スマラグドスエメラルドはエメラルドをイメージした目にも優しい緑色に髪を染めている。
　いわゆるユニットの知恵袋・インテリ担当のキャラで賢そうに見えるスクエアタイプの眼鏡をかけているのが特徴だ。
　
　|サピロス（サファイヤ》はサファイヤをイメージした鮮やかな青で髪を染めている。
　爽やかなスポーツマンを装っているが、実は毒舌で腹黒というキャラだ。
　実際は腹黒になりえない天然なところがニッチな市場にウケるのではないかとユリナが見立てていた。

　マルガリタリ真珠は真珠をイメージし、銀ではなく白髪に染めている。
　メンバー最年長でもっとも古株の七人ミサキであり、落ち着いたイケメンと言えば、聞こえはいいが要はとっちゃん坊やである。
　独特の舌のセンスを持っているのでそれを活かしたショートムービーで人気が出るとユリナは睨んでいた。

　オパリオスオパールはオパールをイメージした白を基調としながら赤・青・緑をメッシュに入れた複雑な色で髪を染めている。
　不思議な髪の色と同じく、捉えどころのない飄々とした一面があり、不思議くんキャラの路線で行く方針のようだ。

　ネフリテス翡翠は翡翠をイメージしたスマラグドスよりも深い色合い――森林を思わせる深緑で髪を染めている。
　垂れ目気味の狸顔に加えて童顔でお人好しという言葉がよく似合ういわゆる天然系坊ちゃんキャラである。

　以上の元七人ミサキ改めリ・トスは満を持して、ＹｏＴｕｂｅでデビューすることになった。
　ダリア、ドロシアを世に送り出していることもあり、ユリナの準備に抜かりはない。
　予め、ＳＮＳでの告知と期待値を上げる為のシルエットのみでのショートムービー動画の配信も行われていた。
　既に人気配信者の階段を昇りつつあるダリアとドロシアからのバックアップに加えて、『歌姫』リリーが公認する初の男性ＹｏＴｕｂｅｒグループである。
　否が応でも期待が高まらないはずがなかった。