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第38話 備忘録CaseIV・七人組ユニット
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庭先から、広いリビングルームへと場所が移された。
理由は落ち着いた部屋で麗央のパンケーキを食べたいからというユリナの言い分が、通っただけのことである。
麗央は慣れたもので下手に何か口に出そうものなら、「じゃあ、勝負しましょ。今回もどうせ、私の勝ちだけど」と彼女が言い出すことは分かっている。
笑顔で「そうだね」と答え、場所を移す方が波風の立たないことだと知っている。
ユリナの機嫌を損ねずに普段の明るく優しい彼女に戻ってくれる方が、麗央にとっても心が休まるのだ。
「それであなた達もそういうことよね?」
生クリームをたっぷりとかけた麗央のパンケーキが三枚。
彼女の細い体のどこに入ったのかと不思議なものを見る目でただただ、恐縮する七人ミサキである。
彼らの前にも同じように麗央の作ったパンケーキが並べられていた。
しかし、砂を吐きそうな甘いやり取りを見せられた後で食欲がないのか、誰も手を付けていない。
否。
彼らは特に普通に食事をとる必要がないのだ。
今は早く、解放して欲しいと願うのみである。
ユリナの問いかけにも声が出ず、七人ともただ首を縦に振るだけだった。
「でもさ。彼らは男だよ? ダリアとドロシアのようにうまくいくのかい?」
「私を誰だと思ってるの?」
ようやく、自分の前のパンケーキを平らげた麗央が口をナプキンで拭こうとするとそれを制して、ユリナが甲斐甲斐しく、彼の口を拭くという図にそれでなくても委縮している七人ミサキは「早く殺してくれ」となっていようとは二人は気が付かない。
「リーナ」
「んんん? そうだけど。そういうことじゃなくって! まぁ、いいわ。私に任せて。悪いようにはしないわ」
「リーナの任せては何度目だっけ? 大丈夫かな」
口では真面目なことを言っているが、もたれかかるような姿勢で口を拭こうとするユリナとされるがままの麗央の構図は人前でも憚らずにいちゃついているバカップルのそれでしかない。
本当に任せても大丈夫なのだろうかという不安に心を苛まれる七人ミサキだったが、彼らに選択権はない。
デッドオアアライブではなく、デッドオアデッドなのだ。
イメチェンが必要ということは当世の流行に疎い七人ミサキも理解した。
白い着物で「恨めしや」と言っていた菊や露の変わりようを実際に目にして、痛感したのだ。
「時の流れ、恐るべし」と七人揃って、声を上げた。
しかし、その後のユリナの台詞で固まることになる。
恐怖や物理的に凍らされたのではなく、驚きのあまりだった。
「七人組のアイドルとして、やっていくには注文をたくさん付けないとダメそうね」
「アイドルとは何ぞや!?」と狼狽える七人ミサキを他所にユリナは勝手に話を進める。
発言の通り、ユリナは義理の姑にあたる光宗博士に七体の素体を用意させた。
二人の関係はいささか歪なものと言える。
ユリナは光宗博士の研究に多額の資金を提供している出資者である。
それだけではなく、様々な物資も提供している。
ある程度の無理難題に応えざるを得ない状況にあるのが、光宗博士なのだ。
ただ、用意された七つの体に七人ミサキは絶句するしかなかったのだが……。
「まず、その見た目がダメだわ。もっとファッショナブルでセンセーショナルじゃないと!」
「意味を分かって、言ってるよね?」
「何となく、伝わればいいの」
「何となく、か……難しいね」
「私に任せてっ☆」
目の前で麗央とユリナがいちゃいちゃするのを見せつけられるのにも慣れてきた七人ミサキだが、トレードマークとも言うべき真っ黒な衣装を全否定されるとさすがにショックを隠せない。
「あの……我らの意思というものは」と果敢にも無謀な一人が抗議しようと声を出したが、ユリナの刺すような氷の視線の前に撃沈した。
「統一したユニフォームにするか、それとも敢えて、バラバラにするか。それが勝負の分かれ目になるわ」
「彼らの個性はそれぞれ、違うみたいだし、バラバラの方がよさそうだね」
「レオもそう思う? 私もそう思っていたわ」
後ろで縮こまる七人の男性グループ――七人ミサキが狼狽しているのを知ってか、知らずか、二人はさらに話を進めていく。
七人ミサキはひそひそ話を始め、現実逃避をすることに決めた。
『本当に大丈夫であろうか?』
『菊と露を見たろう。別人だ。我らもああなるのか』
『不安だ』
『しかし、世界の歌姫だ。大丈夫ではなかろうか』
『菊と露も南蛮のおされな名になっておったぞ』
『我らもそうなるのか』
『よいのではないか? 我らに名などなかったではないか』
『然り』
『求めよ、さらば与えられんと主は仰ったのです。アーメン』
『切支丹が混ざっておったか。おのれ』
『我らで悶着を起こしている場合ではなかろう』
ユリナがそんな彼らの様子を見て、薄っすらと笑みを浮かべていたことを七人ミサキは知る由もなかった。
理由は落ち着いた部屋で麗央のパンケーキを食べたいからというユリナの言い分が、通っただけのことである。
麗央は慣れたもので下手に何か口に出そうものなら、「じゃあ、勝負しましょ。今回もどうせ、私の勝ちだけど」と彼女が言い出すことは分かっている。
笑顔で「そうだね」と答え、場所を移す方が波風の立たないことだと知っている。
ユリナの機嫌を損ねずに普段の明るく優しい彼女に戻ってくれる方が、麗央にとっても心が休まるのだ。
「それであなた達もそういうことよね?」
生クリームをたっぷりとかけた麗央のパンケーキが三枚。
彼女の細い体のどこに入ったのかと不思議なものを見る目でただただ、恐縮する七人ミサキである。
彼らの前にも同じように麗央の作ったパンケーキが並べられていた。
しかし、砂を吐きそうな甘いやり取りを見せられた後で食欲がないのか、誰も手を付けていない。
否。
彼らは特に普通に食事をとる必要がないのだ。
今は早く、解放して欲しいと願うのみである。
ユリナの問いかけにも声が出ず、七人ともただ首を縦に振るだけだった。
「でもさ。彼らは男だよ? ダリアとドロシアのようにうまくいくのかい?」
「私を誰だと思ってるの?」
ようやく、自分の前のパンケーキを平らげた麗央が口をナプキンで拭こうとするとそれを制して、ユリナが甲斐甲斐しく、彼の口を拭くという図にそれでなくても委縮している七人ミサキは「早く殺してくれ」となっていようとは二人は気が付かない。
「リーナ」
「んんん? そうだけど。そういうことじゃなくって! まぁ、いいわ。私に任せて。悪いようにはしないわ」
「リーナの任せては何度目だっけ? 大丈夫かな」
口では真面目なことを言っているが、もたれかかるような姿勢で口を拭こうとするユリナとされるがままの麗央の構図は人前でも憚らずにいちゃついているバカップルのそれでしかない。
本当に任せても大丈夫なのだろうかという不安に心を苛まれる七人ミサキだったが、彼らに選択権はない。
デッドオアアライブではなく、デッドオアデッドなのだ。
イメチェンが必要ということは当世の流行に疎い七人ミサキも理解した。
白い着物で「恨めしや」と言っていた菊や露の変わりようを実際に目にして、痛感したのだ。
「時の流れ、恐るべし」と七人揃って、声を上げた。
しかし、その後のユリナの台詞で固まることになる。
恐怖や物理的に凍らされたのではなく、驚きのあまりだった。
「七人組のアイドルとして、やっていくには注文をたくさん付けないとダメそうね」
「アイドルとは何ぞや!?」と狼狽える七人ミサキを他所にユリナは勝手に話を進める。
発言の通り、ユリナは義理の姑にあたる光宗博士に七体の素体を用意させた。
二人の関係はいささか歪なものと言える。
ユリナは光宗博士の研究に多額の資金を提供している出資者である。
それだけではなく、様々な物資も提供している。
ある程度の無理難題に応えざるを得ない状況にあるのが、光宗博士なのだ。
ただ、用意された七つの体に七人ミサキは絶句するしかなかったのだが……。
「まず、その見た目がダメだわ。もっとファッショナブルでセンセーショナルじゃないと!」
「意味を分かって、言ってるよね?」
「何となく、伝わればいいの」
「何となく、か……難しいね」
「私に任せてっ☆」
目の前で麗央とユリナがいちゃいちゃするのを見せつけられるのにも慣れてきた七人ミサキだが、トレードマークとも言うべき真っ黒な衣装を全否定されるとさすがにショックを隠せない。
「あの……我らの意思というものは」と果敢にも無謀な一人が抗議しようと声を出したが、ユリナの刺すような氷の視線の前に撃沈した。
「統一したユニフォームにするか、それとも敢えて、バラバラにするか。それが勝負の分かれ目になるわ」
「彼らの個性はそれぞれ、違うみたいだし、バラバラの方がよさそうだね」
「レオもそう思う? 私もそう思っていたわ」
後ろで縮こまる七人の男性グループ――七人ミサキが狼狽しているのを知ってか、知らずか、二人はさらに話を進めていく。
七人ミサキはひそひそ話を始め、現実逃避をすることに決めた。
『本当に大丈夫であろうか?』
『菊と露を見たろう。別人だ。我らもああなるのか』
『不安だ』
『しかし、世界の歌姫だ。大丈夫ではなかろうか』
『菊と露も南蛮のおされな名になっておったぞ』
『我らもそうなるのか』
『よいのではないか? 我らに名などなかったではないか』
『然り』
『求めよ、さらば与えられんと主は仰ったのです。アーメン』
『切支丹が混ざっておったか。おのれ』
『我らで悶着を起こしている場合ではなかろう』
ユリナがそんな彼らの様子を見て、薄っすらと笑みを浮かべていたことを七人ミサキは知る由もなかった。
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